食べたいものと、計画と、別行動
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
祭りをしている神社の裏、まだそこそこ人通りがある場所に移動してから紗雪にくるみを任せる。
「なに食べたいんだっけ?」
「えっと、えっとですね。あんず飴に、焼きそばに、たこ焼きに、わたがしに……」
「待った! そもそもそれ、全部あるかどうか分からないからな?」
「えー、先に見てきてくれたりしたんじゃないんですか?」
「くるみを連れて中に入ってるわけないだろ」
「それもそうでしたね。チラシまだありましたっけ……犬飼君、持ってます?」
「ちょっと待って、バッグのほうに確か……」
小さく折り畳んでいたチラシを取り出し、二人して祭りのチラシを見ながら、あーだこーだと言いながら買ってくるものを決める。チラシには店の場所と地図も載っていたため、近いところからとりあえず回ってくることにした。
「あ、すごい……焼いた牡蠣とか売ってる……お祭りにこんなのあるんですね」
「あんまりメジャーじゃないのは……」
「焼いてありますし、大丈夫じゃないですか? カキが当たるのって生牡蠣でしょう?」
「なるほど、そこまで食い下がるってことはつまり食べたいんだな?」
「なんだ、察してくれているならそれでいいじゃないですか。食べたいです、カキ」
「買ってきてもいいけど、くるみにはやるなよ」
「あげませんよ。わんこにあげていいものじゃないでしょう、常識的に考えて」
「分かってんならいいけどさぁ」
一箇所に留まって話し込みすぎたかもしれない。
くう……と小さくお腹が鳴る音がして、どちらともなく顔を逸らす。俺だけかと思ったが、紗雪も顔を逸らして照れているから、恐らく俺達二人とも同じタイミングで鳴ったんだろう。
「……お腹すきましたね」
「……そうだな」
夕飯は抜いてきている。二人で立ち食いしながら、楽しめればいいと思って。そして、早く会いたいという気持ちが強くて食事が喉を通らなかったという理由もある。
いつも会っているはずなのに、今日こんなにも緊張しているのは多分、お互いいつもとは違う格好をしてくることが確定していたからだ。現に、楽しみにしていた紗雪の浴衣姿はとんでもなく可愛かった。
「くうん?」
互いに照れあっているときに声をかけてきたのは、まさかのくるみだった。
俺達の顔を見上げて、しまい忘れた舌を出したまま首を傾げている。そうだ、いつもこうだ。俺達が少しでも気まずい雰囲気になったり、ちょっと沈黙しているとくるみが声をかけてくる。まるで俺達二人の架け橋になってくれているような、そんな立ち回り。
いつだって俺達はくるみを間に挟んで繋がっている。
「くるみちゃん、お水飲みますか?」
「わふん」
「犬飼君、くるみちゃん預かりますね〜」
「うん、よろしく」
彼女は俺からお散歩バッグを受け取ると、慣れた手つきでそこからステンレスの皿を出してペットボトルからミネラルウォーターをそそいだ。くるみは彼女のセッティングが終わるまできちんと「おすわり」で待ってから、チャッチャッと音を立てて水を飲む。
「じゃ、俺。屋台巡り行ってくるよ。カキを優先だな?」
「そう、カキ優先で! よろしくお願いしますね! なにか用事があったら連絡するので!」
「りょーかい」
手をひらりと振って、俺は神社の屋台通りの中に足を踏み入れたのだった。
50話で終わらなかった(´;ω;`)
夏祭り編は多分次でいい区切りになると思うので、明日の更新で綺麗に完結するかな?
ラストまでたっぷりと二人と一匹の甘いお話になる予定です。どうか最後まで楽しんでいってくださいね!




