可愛さと、写真と、独り占め
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
毎日放課後に俺の家に来ては、なぜか飼い犬のくるみに張り合うようなことをして帰るのだ。
「犬飼君、昨日くるみちゃんの写真を犬スタにアップしてましたよね」
ほら、今日も始まった。
お腹を見せて紗雪を誘っているくるみの姿は、ちょうど昨日アップした画像と同じポーズだ。
「昨日? ああ、したね。なに、紗雪。俺のアカウントわざわざ調べたの? 教えてなかったと思うんだけど」
「ま、まあ……彼氏? の、活動を見たいと思うのは当たり前の心理ではないかと……その、見ちゃダメでしたか?」
「うん? いや、いいよ。だって写真を投稿してるのはくるみを自慢するためだし。世界一可愛いぞ! って」
「ふ、ふーん……そうですか。全世界に自慢したいほど可愛く思ってるんですね」
言いながら紗雪は、くるみのきゅるんきゅるんの目に負けてそのお腹の毛の中に手のひらをもふっと埋めた。あ、なんだかすごく嬉しそう。やっぱりこいつも犬好きなんだなあ。
「そりゃあね、はじめて飼った犬ってのもあるし……今が可愛い盛りだしさ。いっぱい写真撮っておかないと」
アルバムはすでに二冊目がある。
去年からはじめた犬スタのほうも人気が出て、くるみはアイドルみたいな感じになっているし……やっぱり、自分の飼い犬がみんなから愛されたり褒められたりするのは、嬉しいからね。続けない理由がない。
しかし、その言葉を聞いて紗雪は少し目を泳がせて小さな声で呟く。
「そ、その……私のことは……誰かに、自慢したくなったりは、しないんですか? SNSに載せたり……とか」
「んー、それはないかなぁ」
「ない……んですか」
あ、違う違う! 落ち込ませたいわけじゃないんだよ!
「だってさ、そもそもくるみと紗雪の可愛さは分類が違うんだよ」
「分類……ですか?」
「そう、くるみの可愛さはいろんな人に自慢して共感してもらいたいって可愛さ。紗雪の可愛さは、俺が独り占めしたい可愛さ。ね、違うでしょ?」
「……〜っ!?」
きょとん。
そんな顔をしていた紗雪は、みるみるうちに顔を赤くしたかと思うと、ご満悦な顔をしたくるみのお腹の毛にぼふんっ! と顔を埋めて、声にならない叫びをあげた。
「ふふ、どうしたー?」
からかい混じりに尋ねると、わっしわっしとくるみのお腹を撫でて抱きしめながら紗雪が叫ぶ。
「ずるいずるい! その回答は卑怯ですよぉ!」
照れてジタバタする姿が可愛い。
こんな可愛い幼馴染の姿をみんなに見せる? そんなの嫌だよ。
これは、独り占めにしないともったいないね。