犬と女子会ってなんだよ
――幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
「犬飼君、いつからペットなんて飼ってたんですか」
「二年前かな」
ペットの『くるみ』はブリーダーさんから直接譲り受けた中型犬である。
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク。胴長短足で耳が大きく、一般的には尻尾が切られてなくなっているが、ブリーダーさんから子犬の頃に買い取ったのでうちの子には大きな尻尾がついている。
そんなくるみと出会ってから約二年が経っていた。
「くるみちゃんは二歳ですか。なら、私のほうが犬飼君といた期間は長いですね」
「なに張り合ってんだよ」
「別に」
ぷいっと顔を逸らしてしまった紗雪に苦笑する。
黒髪の隙間から覗くのはほんのりと赤く染まった耳。そんな姿に、俺はなにか指摘するのは無粋だなと思って下を向く。
隣を歩く彼女の手が揺れている。
その手に、自分の手をそっと寄せると少しだけびっくりしたようにこちらを見た彼女は、赤縁メガネの向こう側でその目を心底嬉しそうに微笑ませた。
手を繋ぐ帰り道。
ちょっとした勘違いで一ヶ月ほどすれ違っていた俺達は、この日から付き合い始めたのだった。
そして――。
「……紗雪、なにやってんの?」
「くるみちゃんと女子会してるんです。敵情視察ってやつですね」
「犬と女子会?」
あと『敵情視察』は多分違うと思う。彼女が深く考えずに口にする言葉は、いつもなんだか斜め上方向におかしい。
「む、むむむむ……」
「?」
突然家に遊びに来たかと思ったら、おすわりをしているくるみを前に同じく座り、見つめ合うこと数分。ふいっと視線を逸らしたくるみが立ち上がり、正座している紗雪の膝にてしっと前脚を乗せた。
「よっし、睨めっこは私の勝ちですぁぃっ!?」
正座をしていて足が痺れてしまったらしい。くるみはそんな彼女の事情を知らないので、首を傾げてさらに鼻先でつんとつつく。紗雪はますます情けない悲鳴をあげた。
なお、動物とずっと見つめあっているということは、「敵視していますよ」というジェスチャーと同じ意味である。視線を逸らすということは、「あなたに敵意はありませんよ」と言っていることと近い。
つまり、くるみのほうが幾分か彼女よりも大人な対応をしていたりするのだった。
「みぃぃぃぃ! 足が! 足がぁ!! お、おのれくるみちゃん……! こ、これで勝ったと思わないでくだしゃっ、ひゃーーー!!」
……俺の幼馴染は犬と張り合っている。
恐らくは、俺のことが好きゆえに。
しかし、そんなちょっとおバカ……ポンコツなところが、俺が好きなところでもあるのだ。
「い、犬飼く〜ん!! た、たすけてくだしゃ……! ひっぐ、うぇぇぇぇん!」
「はいはい、今助けるよ。くるみ、おいで」
「わふっ!」
泣き出してしまった紗雪からくるみを引き離し、様子を見るためにしゃがむとそのままひっし! と紗雪が抱きついてくる。
あーあ、本当に泣き虫なんだから。
ま、でもそんなところが好きなんだよね。
「犬飼君〜!」
「はいはい」
「くうん!」
「はい、くるみも」
俺の幼馴染は世界一可愛い。
そして俺の飼い犬も世界一可愛い。
それでいいと、思うんだけどなぁ。
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【短編】可愛くてスタイルが良くてお尻が大きくて毎晩ベッドに忍び込んで癒してくれる同居人(※ コーギー)の自慢話をクラスでしてから、幼馴染の様子がなんかおかしい
の連載版となります!
超ショートショートで、二人の日常ときどき犬って感じで書いて行きますのでよろしくお願いいたします!
多分張り合ってるところをピックアップして書いて行く形式にするので、学校描写などはやんわり程度のものとなると思われます。ご了承くださいな!