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コラボノストア   作者: 鈴藤美咲
九藤 朋様、ご来店です。
24/26

ちょっと待って、源九郎くん〈にかいめの話し〉

 モスクワーナー族。源九郎くんが属する種族の名称だ。


 一般的な猫より寿命が長い。因みに源九郎くんの年齢は九十九歳。人でいえば、まだまだ“子ども”の(よわい)だそうだ。


「タクトっち、此処に来るときだ。ぴっかぴかに光る青い石が道端に落ちていた。触ったら、タクトっちが見えた」


 源九郎くんは僕とカナコが暮らす【グリンリバ】に来た経緯を語ってくれた。ああ、これで源九郎くんがはっきりと喋っている理由が解った。


 源九郎くんは、違う世界からやって来た生命体。源九郎くんとの巡り合わせは、偶々ではない。僕が暮らす世界の何処かで、何かが蠢いた。また、違う世界を巻き添えにした“何か”が動き出した。


「考えすぎよ、タクト」

 妻のカナコは温めたミルクが注がれているマグカップを、源九郎くんに渡しながら僕に言う。



「そうだけど、でもーー」

「まだ言うつもり? 本気で怒るわよ」


 僕は口籠った。カナコが眉を吊り上げ、目を細めたからだ。

 カナコが怒り出すと、鎮めるのに時間が掛かる。怒りが思い切り3食に反映されるからだ。1日で済むのは軽い方で、もっとも長かったのは弁当の中身が炭水化物のみで1週間というのがあった。なんとも虚しい食事の内容に、僕の心はどんなに折れたことだろう。


「ごめん、カナコ」

 美味しいご飯の為に。もとい、源九郎くんがいる前で喧嘩はみっともない。僕はカナコに謝った。


「明日お母さんが家に来るから。その時に源九郎のことを話すわ」


 僕は「え」と、驚いた。アルマさんが、カナコのお母さんが我が家に来る。しかも、カナコが付け足して言ったことにもだ。


「カナコしゃんのママさん、美人でグラマーだと聞いている」


 まずい、やばい。源九郎くんが“男同士”の話しを、漏らしている。僕は堪らずカナコを見る。案の定、カナコは「はあ」と、呆れた様になっていた。


「ねえ、タクトっち……。ふがふが、むがむが」

「秋刀魚に刺さった、肉まんを食べたい? カナコ、源九郎くんに振る舞って」


 僕は源九郎くんの口を、掌で覆ったーー。



 ***



 ご勇退。カナコのお父さんのことだ。


 カナコのお父さんの職業は軍司令官。僕より12歳上だが、民間企業に当てはめればまだまだ働き盛りの年だ。


「はやまるな。あと、1年はある」

 カナコのお母さん、アルマさんが我が家にやって来た。そして、ぼそっと、言う。


「バースさん、嫌々役職をされていたのだから、喜んでいるでしょう」


「ばきり」と、コーヒーカップが破損する音がした。アルマさんは、凄い顔をしていた。


「タクト、タクト」

 気を利かせたカナコは、青ざめる僕の左腕に「つんつん」と、指差しをしていた。


「あ、アルマさん。紹介が遅れましたけど、最近我が家で暮らし始めた源九郎くんです」

 ソファーで僕の隣に座っている、カナコの膝の上にいる源九郎くんが鼻の下をのばしていた。


「源九郎少年、屋内でも気を引き締めるのだ」


 僕は「はっ」と、した。アルマさんが源九郎くんのことを“少年”とつけて呼んだ。姿を見ただけで、源九郎くんが“普通の猫”ではないと、気づいたのだろうか。


「お母さんが持ってきた籠だけど、中に動く何かが入っているよ」


 そういえば、そうだ。我が家に来たときのアルマさんはケージを抱えていた。それも、小型犬が入る大きさのだ。


「数日前に、庭先で保護した。猫のような生き物とくっついていた生命体だ。そなた達に見せたくて連れてきた」

 アルマさんは、部屋の隅に置いていたケージの扉を開く。するとーー。


「アル、かたわらし? にゃんと、おまえたちは羨ましいっ!」

「『羨ましい』とは、意味に苦しむ」

「美人でグラマーな人に、もふもふされていたのだろう。こいつめ、こいつめ」


 3人(と、言えば良いのかわからないが)は、リビングのフローリングの上で駆け回りだした。ちっちゃい猫さんは源九郎くんに突き飛ばされて転倒をする、傍にいる……。えーと“不思議さん”は「はっはっはっ」と、満面の笑みを湛えていた。


「お母さん、まさか……。お父さんは、知っているの?」

「《奴ら》が、また動き出した。カナコ、この者達をけして表に出すな。バースに、おまえの父に事を任せておくのだ」


 カナコは源九郎くんを、アルマさんはちっちゃい猫さんを抱っこしながら目を合わせていた。


「アルマさん、ですがーー」

 僕の肩の上に“不思議さん”が乗っていた。源九郎くんは“かたわらし”と、呼んでいた。あ、僕の肩から降りた。何処に行くのだろうと目で追うと、キッチン台に乗せていた布巾を抱えて戻ってきた。


「アル共々、おれと同じくお世話になるから。それで、かたわらしは“働く”をしているにゃね?」


 源九郎くんに訊ねられた“不思議さん”は「こくん」と、頷いた。そして、テーブルの上を布巾で拭った。


 ん。ちょっと待って、源九郎くん。キミ、何て言ったのかい?


「タクト様、カナコ様。私はアルトマイヤーと申します。従兄弟の源九郎、かたわらし共々よろしくお願いします」


 丁寧なご挨拶に感心して、思わず背筋がのびる。おーい、アルくん。キミも何を言ったの?


「決まりだ。タクト、おまえは事に一切深入りをするのではない。カナコ、おまえがこの者達の母親の代わりを務めるのを頼むぞ」


 はい? アルマさん。僕、よく聞き取れませんでしたけど。


「お母さん。ビートは異国で何を勉強しているのだっけ?」


 カナコは話しを切り返したのだろう。ビートは、カナコの弟だ。義弟でもあるビートは、今17歳。将来はシステムエンジニアの仕事に就きたいと、僕に語ってくれていた。国内でも技術を十分に学べるのに、多くの知識を得たいと留学を選んだ。


 そうか。カナコは会えない弟について、お母さんのアルマさんに近況を訊いたのだろう。


 しかし、だった。


「ビートか。現地で知り合った旅行者達をアパートの部屋に泊めたと、電子手紙を送信していた。その時の画像も添えてだ」


 アルマさんは、手帳型通信機の画面をカナコに見せた。そして、僕も見た。興味津々と、源九郎くんも一緒に見た。つられてアルトマイヤーくんもだった。



「お父上ぇええっ!!」

「パパ?」


「……。アルマさん、事の全てをバースさんに押し付ける。もとい、任せます」


 僕は、源九郎くん達を捲き込んでの“今、何かが起きている”から逃げたーー。

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