銀の煌めき、蒼と暁の灯
“思い出”が降ってこないと、カナコは泣いていた。
光沢を失くしたロトくんの“象”を、カナコは泣きながらながら何度も指先で擦っていた。
ロトくんは、永遠の少年。だから、消えることはないと、僕だって思っていた。言葉にするのが怖い。言えばカナコが枯れるほど泣くのがわかっていた。
ロトくんの身に何かが起きた。しかし、まだ決めつけたら駄目だと、僕は諦めを払拭した。
“象”に目を凝らすと、僅かに煌めいている。
“象”は僕達が暮らす世界とロトくんを繋ぐ道標。
胸の奥がふつふつと、熱を帯びていた。僕は“蒼の光”を無意識に発動させていた。そんな僕をカナコは感じとったらしく、僕の掌を“象”と一緒に掌で包むをした。
「タクト、ロトに会いに行こう」
カナコの、空のように澄んだ蒼い瞳が暁色に彩っていた。力強い目、炎のように靡かせる髪、カナコも僕と同じく“力”を発動させた。僕と同じくはっきりとした理由で、カナコは“力”を湧かせたのであった。
ロトくん、僕はずっと思い描いていた。キミに僕から会うを、カナコと叶える。
くっついて、もっと詰めて。
僕は、カナコをぎゅっと抱き締める。
ーー蒼と暁の疾風よ、銀の煌めきへと道を標せ……。
僕とカナコは南の夜空で瞬く1つ星に祈りを捧げ、光と風になるーー。
★=★=★=★
ロトの身体は半透明になっていた。
さらさらと、多彩な光の粒子が降り注ぐ空間で、ロトは銀の煌めきに変わっていた。
ロトは、銀の煌めきを弾かせていた。
タクト。俺は、未来を紡ぐ。
おまえが見ていた俺の象りは、大気に融けてしまうだろう。
いつかは、決めなければ。俺はたぶん、迷っていた。あの人の魂を包む金の煌めきで、俺の迷いは払拭された。
果てしなく遠い未来でも、俺はあの人を見つける。今度は俺の魂で、あの人に逢おうと。
未来で、待っててくれ。
俺は、強い想いをあの人に伝えた。
魂は、永遠。
俺は、あの人から教えられた。
『黙って行くつもりなの? それも、うんと遠くに』
弾かれる銀の煌めきに、蒼の光が交わる。
ーータクト、俺は新しい時を刻む。その場所に移るだけだ。
蒼の光は、訊ねる。そして、銀の煌めきは怪訝そうに受け答えるをした。
『あのね。それはそれで良いけれど、此方は置いてけぼりを喰らうのと同じ扱い方をされたみたいなの。もう少し、わかりやすい言い分をして欲しいので』
暁の風が、銀の煌めきに熱く吹き掛ける。
ーーあんたは、カナコか? 随分とでかくなったな。
暁の風の強い吹きに、銀の煌めきは狼狽える。
『失礼しちゃうわね。体型はちゃんと、キープしているわっ!』
『カナコ、勘違いしちゃ駄目だよ。それと、ロトくん。僕達は、ロトくんに知らせたいことがある』
ーーああ。
『なんか“知っている”て、相槌を打ったね』
ーー“思念”は、聴こえていた。
『ロトくん。キミに何かの事情があって、キミから僕たちの暮らす世界に行けなくなってしまった。でも、悪いことではなかった。カナコ、ロトくんを困らせるのはやめよう』
ーーすまない、タクト。
『凄く、心配したんだから。タクトとわたしだけでも、ロトを助ける覚悟だったのよ。でも、ロトにとっては迷惑だった。ロトなんて、さっさと行っちゃいなさいっ!』
ーー随分と、俺は嫌われたものだな。
『ロトくん、ごめん。でも、行き違いにならなくてよかった。ロトくんが本当に、今度こそ自分の生き方で生きていける世界を見つけた。だから、僕は“おめでとう”と、ロトくんに伝える』
ーー順番が逆だ、俺が先に言わなければならなかった。
『喜ばしいことに、後と先はないよ。ロトくんはロトくんの“新たな時の刻み”に移るから……。』
銀の煌めきは蒼の光と暁の風に照らされ、吹かれながら銀の雫を弾かせる。
銀の煌めきは、蒼と暁の彩を付着させる。
“蒼と暁の灯”の種火を“未来”に持っていくと、銀の煌めきは最後の一粒を弾かせる。
『行っちゃった。タクト、帰ろう』
暁の風は蒼の光を促して、空高く舞い上がる。そして、銀の煌めきが残した蜃気楼に吹き込んだーー。
★=★=★=★
ロトはどんな未来に行ったのだろう。
ロトは顔立ちが綺麗だったから、其処では女の子になってても全然平気だと思う。
「どうした? さっきからヘラヘラと笑って」
隣にいるお父さんが「むすっ」と、している。
お父さんは“花嫁の父”の役目で、緊張しっぱなしだろう。なによ、お父さん。わたし、聞いているから。お母さんとの結婚式の時はずっとヘラヘラしていたて、タクトが言っていたもん。
モーニングコートを着ているお父さん、レースのベールを被って白いウエディングドレスを身に纏うわたし。
右手はお父さんの左腕を、左手に白い百合のブーケを抱えて。
挙式の会場は、ガーデニング形式。花と緑に囲まれての、チャペルウエディング。いやだ、パーティーで振る舞われる、風が運んだご馳走の匂いでお腹が鳴っちゃった。
わたしは、タクトのお嫁さんになった。
お父さんのあんぽんたん。乾杯が終わったとたん、速攻でタクトに絡む姿はみっともないでしょうっ!
「あなたのお父様は、あなたをとても大切にされていたのですよ。いえ、花嫁の父は誰もがそれが普通だと思います」
式場のスタッフの人だろう。中身が注がれているグラスをトレイに乗せて運びながら、わたしに「こそっ」と、囁いた。
顔を見て、びっくりした。
ロトにそっくりな女の人。銀の髪を結って、翠玉の瞳。
わたしが想い描いていた“ロト”が、いる?
ーータクト、カナコ。おめでとう……。
聴こえる、聴こえた。
繋がりは、裁たれていなかった。
ロトは、未来からわたし達をお祝いしてくれたのね。あ、タクトがこっちを見ている。
「ロトくんは“未来”で幸せに暮らしている。あの人は、ロトくんが“未来”から送った象りだ」
お父さんをようやく振り切ったタクトと、わたしは目を合わせる。
タクトが言うなら、それは本当だよ。
だって“ロトの象”がきらきらと、銀色で眩しく光っているから。
未来のロトの中にいる、ロトの“魂”が遠くて近い昨日にやって来た。
ロト。今度は、いつ会える?
わたし、楽しみにしているからねーー。
ロトくんとタクト達の物語は、おしまいです。
(ロトくん。うちの子達のお世話、お疲れ様でした)
次話は、トト様キャラとのコラボレーション作品の“思い出”の展示になります。
皆様のご来店、心よりお待ち致します。




