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コラボノストア   作者: 鈴藤美咲
トト様、ご来店です。
18/26

銀の蜃気楼 〈ロゼ・ワールド 〉

本編は、完結済投稿作品『ロゼ・ワールド』より、トト様キャラ(ロトくん)とのコラボレーションエピソードに改稿、加筆しております。

(タクト=ハインに迫った危機の詳しい経緯は、割愛しております)


挿絵(By みてみん)


 タクトがかつて乗った列車に、わたしも乗った。目的は、お父さんとお母さんが見た【クニ】に行く為に。


 わたしの“思い出”の中に、ロトがいる。

 タクトを助ける為に、ロトは来てくれた。


 それにしても、タクトは手間が掛かる。

 今でも危なっかしくて、ほっとけない。


「言わないでよ。僕だって、気にしていることだから」


 わたしにからかわれたタクトは、困った顔をしていたーー。



 ★◯★◯★◯★



 カナコは車窓の外を見ていた。


 タクト=ハインが列車から降りて時間は随分と経っていた。証拠に、辺り一面が漆黒となっている。


「タクトのバカちん。さっさと戻ってきなさい。て、何でわたしがタクトを心配しなければいけないのよっ! あっちは『おじさん』だし、性格だって面倒臭いし、全然相手になんて……。してくれるはない」

 カナコは、目から溢れる涙を拭わなかった。


「タクト、帰ってきて」

 カナコは車窓に額をつけて、声を震わせた。


 足元でかつん、と、物音がした。

「あ」と、カナコは目で逐う。


 ーー宝箱にしまっとけ。


 遠い過去で、父親が言った。


「タクトに持たせればよかったかもね」


 カナコは掌で拾う。


 宝石、それとも鉱石。

 カナコは象の素材が今でもわからないが、父親の言いつけを守っていた。


 翠の目が鮮やかな銀色の狼。金と銀の星を彷彿させる装飾を囲むのは宇宙のような紺。

 極めつけは、翠に透き通る深紅と朱色。そして、薫る風を思わせる蒼。


 象は蒼白い光を輝かせ、カナコのまわりを朧に照らしていた。


 カナコは、ふと、思った。


 タクトは帰る路に迷っているかもしれない。

 今、手にしている象の明かりを灯火にしたら、タクトは道標にしてくれるかもしれない。


 カナコは運転技士のマシュに列車の乗降口を開けるようにと嘆願する。頑として「列車の扉を開かない」マシュと押し問答をしたが、カナコの気迫に負けたマシュは乗降口を開くスイッチを押す。


 “銀の蜃気楼”が、タクトを導いてくれる。


 カナコは列車から降りる。そして、16歩と離れて佇む場所で掌の中にある象を見つめる。


 月明かりのような、蜃気楼を思わせる輝きだと、カナコは目蓋を綴じた。


「“銀の狼”さん、あなたの“光”を貸してね」

 カナコは目蓋を開き、象に語る。


 涼やかな風と銀色の瞬き。カナコの全身に吹かれ、照らされる。


 銀色の光の帯が螺旋状で空中に舞い上がり、光は漆黒を銀に塗り替えるように空を染める。


 カナコは見つめていた。

 舞い上がった光の帯が地上に下りて、雫のように散る光の欠片を見つめていた。


 散った欠片がひとつ、ひとつとカナコの目の前で集まり狼にと象らせ、再び散る。


 銀色の霧が現れ、カナコは霧の中央へと目を凝らす。


 カナコは「ほう」と、笑みを溢した。

 父親がいつも語っていた思い出と同じ、青銀の髪と翠玉の瞳。


 ロト。


 またの名を“SILVER・WOLF”と呼ばれた伝説のエスパー。


「道標を、キミが翳した。で、良いのだね」


 霧が晴れて、カナコが見る姿がはっきりと見えていた。


「お父さんは、いつも話していた。あなたがちゃんと此処に来れるように、道標を宝箱に入れときなさいと、言っていた」

「『お父さん』? キミは、タクトの娘なのか?」


 カナコは「ぷ」と、吹き出し笑いをした。


「違うの?」と、ロトは困った顔をカナコに見せた。


「わたしのお父さんはルーク=バース。お母さんはアルマ。そしてわたしはカナコよ、ロト」


「あ」と、ロトは何かを思い出したような顔つきになった。


「覚えていたんだ。でも、さっきロトが言ったこと、タクトが聞いたらどんな反応していたのかと想像したら、ちょっと愉快になっちゃった」


「本人には、黙っといて」

 ロトは噎せて、咳払いをした。


「話すは、全くないわ。でも……。」


「ああ、俺だってこの世界で何かが起きていると、感じていた。いざ、行こうとしても跳ね返されて辿り着けなかった。そんな最中、俺は“光”を見つけた。そして“光”の中に入り、こうしてタクト達がいるこの世界に来ることが出来た」

 俯いて肩を震わせるカナコに、ロトは穏やかに言葉を掛けた。


「タクトを、助けて」

「勿論だよ。あとは俺に任せて、キミはタクトの帰りを列車で待っていなさい」


「ロト、ひとりで?」

「ちゃんと、道標は照らされている。迷うことはないよ」


 カナコは掌中で青銀の色を輝かせている“象”をロトに見せた。

 カナコはロトに持たせようと“象”を差し出すが、ロトは首を横に振った。


「行ってらっしゃい」


 カナコは、青銀の光の粒を散らして飛翔したロトを見上げていた。


 夜空を翔る星の欠片、一条の光。カナコは光の先を目で追ったーー。



 ★◯★◯★◯★



 タクト=ハインは途方にくれていた。


 列車の位置がわからないほどの暗闇だった。

 “転送の力”を発動させるにしても、空腹と喉の乾きで体力が消耗している。そんな情況で“力”を発動させれば、移動中で考えられるのは。と、諦めるを選択した。


 この大地は、昼と夜があるのだろうか。だとすれば夜明けを待つのが賢明だと、タクト=ハインはその考えに辿り着いた。


 ズボンのポケットに手を入れる。食糧の代わりになる物が入っていればと淡い期待をするが、アルマのメッセージが記された用紙のみだと気付くと落胆した。


 “輪っか”が外れていた。左中指の締め付けていた感触から解放されたと、喜べなかった。


 待ち受けるのは自身の思考、行動に関係なく《団体》に操作される。

 〈プロジェクト〉開始前に《団体》はタクト=ハインを監視する為に“輪っか”を填めた。


 さて、いつまで『自分』でいられるのだろうか。


 タクト=ハインは、岩石に腰を下ろしていた。

 空腹と喉の乾き、今後の自分。タクト=ハインの頭の中は、豪雨と突風の状況下のようになっていた。


 眠気も加わっていた。


 ーー起きろ、タクト。


 額に弾く衝撃。タクト=ハインの目蓋は瞬時に開く。


「そうか、僕はとうとう自分ではどうすることも出来なくなった。その迎えだね?」


「寝ぼけるなっ! そして、何の意味で言ってるのか理解出来ないっ!」


 はっきりとした声に、今度は頭の天辺に叩きつける衝撃。


「……。ロトくん、久しぶりに会うにしては、荒い扱いだよ」

「デコピンとチョップ。俺だってやりたくなかったが、おまえを起こす方法はこれしかないと、判断したからだ」


「ちょっと、恥ずかしかったの?」と、タクト=ハインは笑みを湛えた。


「雑談は、あとでじっくりとする。タクト、おまえを苦しめている根を俺が枯らす。だから、此処でじっとしてろ」


「え?」と、タクト=ハインは困惑した。


「俺が出来るのは、そこまで。先はおまえが成し遂げる。この世界の今を護るのはタクトだと、俺はーー」


「ありがとう。十分な理由だよ」

 タクト=ハインは、ロトと呼んだ少年に右手を差し出した。


 ロトは微笑み、タクト=ハインと握手をする。そして、全身を銀色に輝かせると光の粒を散らして漆黒の空へと飛翔した。


「ロトくん、ごめんね。キミを、僕のことで捲き込んでしまった。でも、でもーー」


 ーーキミが僕の友達になったことは、ずっと忘れていなかった。今でも、憶えているキミとの思い出は、僕の中でいつも温かかった……。


 タクト=ハインは、溢れた涙で頬を濡らしていたーー。



 ★◯★◯★◯★



 息が詰まる風圧と眩い青銀の閃光。


 《マグネット天地団》の本拠地である建屋内部で繰り広げられる光景だった。


 天井、通路に手と足を付けて、駿足する少年を取り押さえようと《団体》の警護部集団は懸命になっていた。


 ロトは地上階層、地下階層の警護網を突破した。


 ロトは探していた。


 タクト=ハインを苦しめている根を枯らす為に、ロトは《団体》の本拠地に入り込んだ。


 絶対に、タクトを縛る根元を絶つ。奴らはタクトを括っていた“道具”が消滅したことに気付いている。と、いうことはーー。


 奴らが動く前に。と、ロトは探した。瞬間移動を繰り返し、迫り来る《団体》の一味を蹴散らし、ついに“根元”を発見した。


 ロトは侵入した空間の中央に目を凝らしていた。パイプ仕立ての蒼い柱、柱を囲むように幾つも並べられている拳大の虹色に輝く鉱石。


 ロトは下唇を噛み締めた。一見すれば芸術的と思われるオブジェ。だが、これは人の生き方を操る機械と、ロトは見極めていた。


 ロトは柱を囲む鉱石に視線を剥けていた。


 タクトを縛る草を枯らす。タクトを縛り付けていた“機具”が鉱石の何れかにある。


 鉱石のひとつ、ひとつが時計回りで光を点滅させていた。


 まるで、ルーレット。


 鉱石の点滅が止まる前に、タクトを縛る“機具”を破壊しなければならない。


 紺、紫、緑、朱、黄、白、茶。


 鉱石の瞬きにパターンがあると、ロトは気付いた。


 薄紅、橙、そしてーー。


 ーータクト、自由になれ……。


 ロトは、紺色に点滅する鉱石に掌を翳して、青銀の光を解き放した。



 ★◯★◯★◯★



 仰ぐのは、漆黒の空。見渡す景色に光は無し。


 タクト=ハインは今いる場所でじっとしていた。

 世界を越えて、ロトが来た。また会えたと、タクト=ハインは心を踊らせた。


 ーー此処でじっとしてろ。


 ロトはそう言って、タクト=ハインがいる場所から離れた。


 タクト=ハインは葛藤していた。ロトは何処に向かったのか。再会に浮かれて冷静な情ではなかった。ロトが向かった先が何処かをはっきりと聞いていなかった。


 ーーおまえを苦しめている根を俺が枯らす。


 ロトがいう言葉の意味すら理解していなかった。


 煩悩、試練、固執、確執。どれも思いあたる。ロトは何れかの為に、我が為に動いた。


 ロトの無事な姿。臆測、翻弄と心を揺すぶっても優先するのは其処だと、タクト=ハインは髪に手櫛をした。


 毛先から離した指先に冷たく硬い感触。タクト=ハインは指先に目を凝らす。

 銀色に発光した、小石の大きさの塊。ロトの欠片だと、タクト=ハインは思った。ロトが瞬間移動の際に撒き散らした“力の粒”が形を留めていた。


 ロトが持つ“力”は未知数。1度はこの世界で“力”そのものを狙われた。皮肉にも、今我がが身を置いているのはーー。

 タクト=ハインは銀色の粒を指先から地面へと落として靴底で踏み潰し、さらに何度も磨り潰す。

 奴らは例え粒子だろうと、手にすれば徹底的に分析をして更なる開発の材料にする。


 タクト=ハインは頭に掌を乗せて、髪を何度も叩く。ロトの欠片を一粒でも残さないようにと、タクト=ハインは髪を振り乱す。


「ふ」と、鼻で笑う声がして、タクト=ハインは顎を突き出した。


「ロトくん、いつから此処にいたの?」

「俺、何度もおまえに声を掛けたぞ。全然気付かない様子だったから、終わり頃を見計らうをしていた」


 タクト=ハインは膝を曲げて腰を下ろす。そして、背中を丸めて俯いたーー。



 ★◯★◯★◯★



 タクト=ハインはロトと共に列車に帰り付く。


「カナコ?」

 列車の1両目の前でじっと立っている少女の姿を見たタクト=ハインは険相した。


「何? どうして? まるでこっちが厄介者みたいな言い草ね」

 カナコはタクト=ハインを「じろり」と、見た。


「止めろ、おまえたち。お互いの言い分は列車の中に入ってからしろ」

 ロトは、タクト=ハインとカナコの険悪な情況を阻止した。


「ごめんなさいロト。タクト、あなただってわかっている筈よ。ロトはーー」

「カナコ、タクトを追い詰めるな。タクトの役割りはキミが考えている以上に重く、圧せられている。俺はひとつを、ひとつだけしか手助けが出来なかった。もっと手を貸したいが、俺がこの世界でキミたちがいう“力”をさらに発動させれば、キミたちがいる世界の均等が崩れる恐れがある」


「……。先ずは、身体を休ませよう。ロトくん、お茶を淹れるからまだ行かないで」

 タクト=ハインは、声を震わせていたーー。



 ★◯★◯★◯★



 〔タクト、おまえの自由は誰が為にではない。自由は、時を悠する。志に勇、路は雄。時に心を澄ませ、駆けるをおまえならやり遂げられるを俺は信じる〕


 タクト=ハインは列車の個室で目を覚ました。

 ブラインドカーテンの隙間から溢れるあたたかく、まぶしい乳白色の光が室内を斑に照していると、タクト=ハインは目蓋を擦った。


 サイドテーブルに置かれていた1枚のメモ用紙を手にして、綴られる文章を読む。そして、二度寝をするかのように、ベッドに敷かれる掛け布団を被った。


 ロトは、帰った。ちゃんとした別れの挨拶を交わすこともなく、ロトは帰ってしまった。

 大の男が大泣きするわけにはいかないと、タクト=ハインは布団の中で膝を抱えていた。


 別れのかたち。永遠にと、願うは叶わない流れてしまった時の刻み。タクト=ハインは、思い出という記録を記憶に換えようと、堪えていた。


『まもなく、レッドウインド号発車です。ご乗車をされている皆様、引き続き車内でのひとときをご堪能されてください』


 車内アナウンスが聞こえると、タクト=ハインは被る布団を剥がしたーー。

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