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コラボノストア   作者: 鈴藤美咲
トト様、ご来店です。
17/26

銀の蜃気楼〈銀の始まり、蒼の終わり〉

 千一夜。ロト一行が踏みしめた場所は果てしなく広がる砂漠。闇夜を照らす月明かりと朧の星を掻き分けて、北の空で輝く光を見上げる。


「ロトくん、今度僕の家に遊びにおいでよ。母さんに習ったホットケーキをご馳走してやる」

「手土産は野苺のケーキを持ってくる。母さんが俺の誕生日に必ず焼いてくれた最高のスイーツを味わって貰えるか? タクト」

「勿論だよ。甘いものだらけでアルトが大はしゃぎしてしまうけどね」

「構わないさ、賑やかなのは慣れている」


 ロトとタクト=ハインは拳を重ねると腕を絡ませる。そして、お互い目を合わせて銀と蒼の光を解き放す。


 螺旋状の光は月の砂漠を散らす。硝子が木っ端微塵となるように空中に亀裂が入る光景が繰り広げられ、目に飛び込む景色に一行は固唾を呑む。


 鈍く光る6本の腕を広げて不気味な笑みを湛える物体。胴体は虹色を斑に彩らせ、脚を一本で支えながら挙動不審で、空間に浮かぶ一行を見下ろしていた。


「皆さん、此れこそ時と世界を繋いだ《奴ら》の創造物です」

 テラは身に纏う金色の衣の裾を舞い上がらせ、光の粒子を散らばせながら言う。


「随分と派手な象をしているな」

「私にはおぞましい姿に見える」

 ルーク=バースとアルマは手を取り合うと、橙と真紅の光を輝かせ交じらせる。


「太陽に勝る其方達の“光”こそ《究極の力》心置き無く対峙せよっ!」

 ハロルドが漆黒のマントを翻し、腕を伸ばして指先を象に向ける。


「一応、名前を呼んでやるぞ。何てのが似合ってる? ロト」

「〈ハ・ラグロ〉はどうだ? バース」

「上等だ。いくぞっ!」

 ルーク=バースは叫び、漂う鉛色の球体に向かって飛翔すると、掌の中で輝く“橙の光”を背丈程の長さの棒状に象らせて突き刺していく。すると球体は泡が弾くように粉砕して、破片を撒き散らせる。


「シールドッ!」

 ロトは流星の如く降り注ぐ燃え滓を“防御壁”で消滅させる。同時にアルマが“真紅の光”を大輪の花と、象にさせるとタクト=ハインに被せる。


「タクトッ! 今日だけ打っ放すことを許可する。やっちまえ」

「バースさん、あれはアルマさんが滅茶苦茶怒りますよ?」

「だから、衝撃を抑える為にわざわざ“力”を被せたのだ」

 アルマはタクト=ハインに歩み寄ると、手を握り締める。


「アルマさん?」

「恐れるな、おまえの〈灯〉の威力は偉大だ。照らして導いてくれ」

「皆に手伝って欲しいです」


 ロトはタクト=ハインの手招きに応える。バースも同じく掌を重ね合わせていく。


「僕、ありったけの“力”を解き放します。バースさん、ロトくん、アルマさんお願いします」

「心配するな、俺達がきっちり照準を合わせる」

「バース、どう見ても運動会のフォルムではないのか?」

「瞬発力が加わるのだ。気を散らすのではない、ロト」


 タクト=ハインは三人が組む腕と手に跨ぎ、前方を支えるバースの肩に掌を乗せて深呼吸をする。


「ハロルド、私達は彼等の帰りの道を照らす役目を致しましょう」

「テラ、そうすれば今度こそ貴女の魂は……。」

「《未来》が輝けば良いのです。其れが私に課せられた運命として、受け入れます」

「いつか、何処かで会えると願いませんか?」

「《希望》ですね? 素晴らしいです。私を必要とする〈時〉と〈世界〉に辿り着けたなら幸いです」

「それで宜しいです」


 タクト=ハインは全身を蒼く輝かせ〈ハ・ラグロ〉に向けて加速を増して飛翔する。一度停止すると左腕を水平に伸ばして右肘を曲げると蒼の光が矢を象らせながら表れる。



 ーー偽りの幻想よ、溶けて消えろ……。



 空間に凛と涼やかに鈴の音が鳴り響く。タクト=ハインより解き放された“光”は真っ直ぐと〈ハ・ラグロ〉の腹部に命中する。


 〈ハ・ラグロ〉はもがき、断末魔の叫びを轟かせながらその象に亀裂を迸らせる。剥がれ落ちる胴体の破片をちぎり掛ける掌で受け止める仕草で石膏の姿に変わるとーー。



 空間に眩い虹色が四方八方に照らされる……。




 ★○★○★○★



 ーーロトくん、今の“光”凄かったね?


 ーー例えるならば星の誕生だ、タクト。


 ーー本当に星が生まれたかもしれないな。あの穏やかな輝きの大地に足を踏みしめて生きたいと思わないか? アルマ。


 ーー私達の世界で目指せば良いだけだ。おまえごときの奴が逃避する発言するとは何事だ? バース。


 一行は絆を確かめ合うように腕を絡ませ、硬く身体を押し合いしていた。

 それぞれの思惑を溢れさせるとその時が遂にやって来る。


「此処も消えます。惜しむお気持ちは察しますが、そろそろ各世界に戻る準備をされてください」

「テラ、キミはどうするのだ?」

「心配は要りませんよ、ロト。先程ハロルドと話し合いをしてその時を待つことを決めました」

「それなら良いが、出来れば遠くない未来で会いたい」

「ふふ、そう言ってくれるだけでも嬉しいわ」


 空間に満天の星が煌めく。そして、その光のひとつが一行の頭上に降りてくる。


「其方達を送るそうだ」

「ハロルドさん、ロトくんをお願いします」

「任せなさい。タクト殿、あなたとは平穏な時で交流したいと願おう」

「お待ちします」


 タクト=ハインはハロルドと握手を硬くすると、先に光に乗るバースとアルマの元に駆けつける。そして、閃光を放ち舞い上がる。


 宇宙を掛ける彗星を彷彿させて、ぐんぐんとある方向を目指して、辿り着く。


 タクト、生きる世界は違うが求めるものは同じだった。俺は、此れからも運命を旅する。また会う日まで〈灯〉をけして消さないでくれ。


 俺の〈道標〉として、照して欲しいーー。




 そして、月日が流れた。



 ★○★○★○★



「おとうさん、なにかおちてるよ」

「お? カナコは目がいいな。そいつは誰かの落とし物だ、カナコが届けてやるのだ」


「えー? どんなひとかしらないよぉ」

「はっはっはっ! 絶対持ち主からやって来るから、それまで宝箱にしまっとけ」


「おとうさんがしってるひと?」

「おう、勿論だ。お? カナコ、あのお兄ちゃんにちゃんとご挨拶するのだよ」

「えー?」


 満開の薄紅の花の並木道を歩く一組の親子。自動販売機の前に佇む青年の姿を見つけてそんな会話をしていた。


「えーと、あとは確か……。」

「俺、ブラックコーヒーを頼む」

「はい、ブラックコーヒー。え?」



 タクト=ハインは頬を膨らませながら落とした飲料水の缶を拾う。


「バースさんが来ないと、聞かされていたのですよ」

「ははは。俺がタクトに黙っとけと言ってたんだ。ホラ、カナコ。挨拶はどうした?」


「目のかたちが、バースさんとそっくりですね」

「やっぱり、似ているか?」


「ええ」


 ルーク=バースはカナコを地面に下ろすと、晴天に舞い上がる花吹雪を見上げて溜息をする。


「タクト、ロトとはあれから会えたか?」

「全然ですよ。本当に自分の世界に帰ったのだと、僕もすっかり諦めています」

「そうか、すまない。ヤボな事を訊いちまった」

「でも、ひょっこりと姿を現してくれるかも? と、期待もしてます」

「諦めていたのではなかったのか?」

「ツッコミはよしてください。ホラ、あの青銀の髪の男の子。誰かに似てますよ?」

 タクト=ハインは笑みを湛え、前方から近付く少年に手を振る。


「久しぶりだな。タクト、おまえ老けたな?」

「ロトくん、そのひと言あんまりだよ。僕、二十歳になっちゃったからせめて、大人びたな! と言って欲しいよ」


 ロトはルーク=バースと目を合わせると吹き出し笑いをする。

「こいつ、剥きになるところは相変わらずだな? バース」

「おまえこそ、だ。ロト」


 ーーどれ、道草していたら《任務》をそっちのけにしてしまう。じゃあな!


「せっかちな奴だ」

 ルーク=バースは空中に撒き散らされた“銀の光”の粒子を見つめる。


「僕達からロトくんに会えないのが残念です」

「そうだったな? 俺も幾度か試したが、駄目だった」

「時だけでなく、世界と世界を自由に行けるなんて凄い“力”ですね?」

「ああ、その為に危うく俺達の世界で利用されかけた。今後とも断固として、ロトを護るぞっ!」

「僕達の役目は、ロトくんに〈道標〉を照らす事」

「その通りだ、タクト。カナコが拾ったのはその〈象〉だろう」


 ルーク=バースは静かに思う。


 あの時表れた《銀の蜃気楼》はロトの象徴だった。

 生きていれば彷徨う事もある。だが、そんなときこそ《繋がり》が必要だ。


 ロト、いつでも迎えてやるから、おまえは……おまえの信じる道を踏み締めて行け。それまで〈象〉は預かってやる。


 バースはカナコが握り締める〈象〉を見つめる。

 陽の光に照らされる《月》ように、淡く蒼く、そして……。


 《銀の蜃気楼》がゆらりと漂っていたーー。



 ======



 あれからまた、さらに月日が流れた。僕の隣には、カナコがいる。


 ロトくん、僕はカナコと結ばれた。

 それだけは伝えたいと、どんなに“思い出の象”に願っても残念ながらロトくんは現れなかった。


 でも、思いは届いていると僕は信じているーー。



「ふぅん。わたし、ロトと会っていたんだ」

「うんと小さかったから、覚えていなかっただけだよ」


 カナコはつまらなそうに、口を尖らせていた。


「でも、ロトとまた会った」

「うん。それは、カナコでもはっきりと覚えている。僕だってーー」


 カナコは“思い出の象”を掌の上に乗せて、僕を「ぎゅっ」と、抱きしめた。



 ロトくん。


 もう少しだけ、ロトくんとの“思い出”をカナコと一緒に見せて貰うよーー。



物語は、続きます。

是非、よろしくお願いします。


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