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コラボノストア   作者: 鈴藤美咲
トト様、ご来店です。
15/26

銀の蜃気楼〈永遠の母 〉

 カナコは寝息を吹いていた。アロマキャンドルが灯しっぱなしになっていたので、僕はベッドから降りて吹き消すつもりだった。

 僕のナイトウェアを掴む感触がした。


「タクト、行かないで」

 僕に縋るカナコは涙を溢していた。


 僕と一緒に見ていた“思い出”は、カナコにとっては辛かった。大切な誰かが目の前から消える。折角また逢えたのにまた離れてしまう“思い出”だった。カナコはわんわんと泣き崩れた。


 大丈夫、僕は消えない。


 僕は、アロマキャンドルの灯火を消すのをやめたーー。



 ★○★○★○★



 深海の如く、果しなく拡がる瑠璃色の空間に無数に浮かぶ球体。さらさらと、絹の反物を彷彿させる帯の流れ。落ちて崩れては再び原形に戻る固体。


癒しの場所(ヒーリングプレイス)。此所は〈マザー〉によって、色濃い“思念”が護られている……。わたしは〈マザー〉からロトを此所に導くようにとお願いされた」

 リンはハニーブラウン色の球体を両手で包み、表面に額を乗せて呟いた。


 “思念”は“人そのもの”の記憶をもたない。時を刻んでいた頃の“情”をはっきりとさせるのが“思念”の特徴。


 リンは“思念”の存在でロトの記憶を持っていた。今見る場所からリンはロトを導く為に旅立ち、そして役目を果たした。


 また、別れる。永遠の命と無限の能力とは関係ない、現実の酷だった。リンの飴細工を彷彿させる象りを、ロトは触れる。


 ロトの掌の上で、リンのハニーブラウン色の欠片がきらりと、煌めいていたーー。



 ★○★○★○★



 〔銀の狼と会い、時の輪を裁ち切れ〕


 タクト=ハインのみが解読したメッセージは、ロトと“思念”を意味していたのだろう。見解を今さらしても、事は動いている。


 メッセージの送り主は何処に。此所に“主”がいるとしたら、狙われるのはーー。


 “鍵”を手にして次の場所へと移動する“扉”を開くのは、タクト=ハインだけ。


 ーーおふたりを巻き込ませたくない。ロトくんは、僕が探します。


 目を離した隙に、ロトが消えた。タクト=ハインはふたり(バースとアルマ)に“加速の力”を被せた。防ぎようのない、思いがけないタクト=ハインの行動によって、遠くへと弾き跳ばされたルーク=バースとアルマはタクト=ハインの姿を見失ってしまう。


 タクト=ハインの中で、何が起きた。我々を振り切ってまで、何に立ち向かった。


 ーー愛は甘美なものばかりではありません。試練も愛のひとつです。


 ひとりの女性が、ルーク=バースとアルマの前に現れた。金色の衣に身を包み、手に持つ錫杖の先端を「しゃらん」と、鳴らせる。


「あんたは?」

「紹介が遅れました、私はロトの養母。あなた方もご存知だと思いますが《奴ら》が〈銀の蜃気楼計画〉を施行しての過程で“思念”が利用された。息子の記憶と結び合った“思念”は“思い出の象”として表したのです」


 ルーク=バースは「はっ」と、した。これまでの経緯を振り返ると辻褄が合う。

 ロトは《奴ら》に狙われていた。ロトを“思念”で翻弄させて、窖に誘き寄せる。同行者に我々を選び、運び役を担わせた。タクト=ハインに鍵を持たせ、扉を開かせる。


「タクトが、俺の相棒が扉を開いていた」


 メッセージを解読出来たタクト=ハインだから。しかし、結びつけるには不可解な部分がある。

 メッセージの送り主は、ロトの義母なのか。身なりからすれば如何にもだろうが、決めつけるには証拠が足りない。

 ルーク=バースは、女性の出方を待つに賭けるのであった。


「〈マザー〉は“想い”を送られた。受け取られたのはあなたのパートナー。ロトが“思念”を抱いての旅路に灯を照らす為に〈マザー〉が選ばれたのが、あなたのパートナーだった」


 ルーク=バースは「ぐっ」と、息を呑む。

 此所は終着点ではない。ならば、ロトは何処に。ロトの行方を追っただろうのタクト=ハインも同じく。


 女性は錫棒を翳していた。眩く溢れる光は扉を象り、そして開かれていた。


 ーーロトをよろしくお願いします……。


 言葉を残し、女性は金色の煌めきに溶け消えたーー。




 ★○★○★○★



 青銀の髪とエメラルドグリーンの瞳の女性。美しい調いは、ロトと似ている。ただ、違うのは剣豪を匂わせる雰囲気。


 ロトを抱える女性を、タクト=ハインは見据えていた。女性はロトを床におろすと、タクト=ハインへと駿足する。

 タクト=ハインは女性の足払いを後方宙返りで躱す。しかし、着地寸前で脇腹に女性の肘鉄を喰らい、タクト=ハインの身体は床に叩きつけられてしまった。


 タクト=ハインは「ぐっ」と、頬裏を噛みしめる。立ち上がると同時に、剣の切っ先がタクト=ハインの喉元目掛けて向けられていた。


「どうです。これでもまだ、歯向かうつもりですか」

「理由がどうあれ、あなたのやり方は間違っている。いえ、僕はあなたと闘うつもりはまったくない」


「お黙りなさい」

 女性は「きっ」と、眉毛を吊り上げる。


 自然界の、どんな生き物でも子に危機が迫っているのであれば、母は外敵から身をもって阻止する。


 女性とロトは血の繋がりがあるのだろうか。


 覚悟をしろと云わんばかりで、女性はタクト=ハインに剣の切っ先を向けたままだった。

 どんなに言葉を投げ掛けても、心を射せないだろう。


「解りました。あなたの気が済むまで、僕をなぶってください」

 ロトの奪還は無理。ならば、女性から斬を受けるをするしかない。


 ロトが生きるなら、これでいい。タクト=ハインは目を瞑り、両手を広げて終わりが来るのを待つ。


「開き直られるのは少々後味悪いですが、お望み通りに致しましょう」


「ちゃき」と、剣の柄を握りしめる音がした。

 それでもタクト=ハインは、藻掻くをしなかった。

 一歩、二歩、三歩。女性の靴が鳴る。

「すう」と、息の呼が聞こえる。


 タクト=ハインの全てが、止まる。


 筈だったーー。


 ーーうっ……。


 呻き声がした。タクト=ハインは「はっ」と、した。


「ロトくん?」

「タクト、すまなかった。おまえを俺の母親の“思念”に翻弄させてしまった」


 ロトが目を覚ましていた。それは良いが、タクト=ハインは女性が倒れていたことに驚愕するのであった。


「この人、キミのお母さん?」

「ああ、グロディア・ミラ・サザン。俺の前世での、母の名だ」


 ロトは、翠玉の瞳を濡らしていた。母の腕に抱かれ、安らぐ。本来ならばそうであっただろう。

 母より運命を選ぶのがどんなに辛いのか。ロトが溢す涙が証拠だと、タクト=ハインは鼻を啜りながら思った。


「……。ロト、泣いてはいけません。あなたが行く道は、あなたのもの。子の旅立ちを親が止めるは、あってはならない」

「母上、痛い思いをさせて申し訳ありません。ですが、束の間でありましたがあなたとの親と子の穴埋めを、心に刻ませていただけた」


 ロトは、タクト=ハインに向けて剣を振りかざすグロディアを阻止するために能力を解き放した。そして、グロディアは倒れた。


「ロト、私が道標としての灯を照します。あなたを護る灯りを、受け取ってくれますよね」

「勿論です、母上」


 ロトはグロディアの掌を取っていた。一方、グロディアの視線の先にタクト=ハインがいた。


「あなた、お名前は?」

「タクト=ハインです。ロトくんのお母さんと、どうしてはっきりと仰らなかったのですか」


「戦に情は無用。一瞬の隙が生きるに影を落とす。ですが、あなたは武人の身なりをしているにも関わらず、まるっきり自覚がない瞳をされていた。あなたのお師匠様は、どうやらとても甘いお方のようですね」


 タクト=ハインは「むすっ」と、不機嫌なさまとなった。


「母上、そろそろーー」

「ええ、わかっています。ロト、身体に気をつけて過ごしてくださいね」


 グロディアは、ロトの腕の中で翠玉の光を輝かせる。


 ーーロト、私のロト。ありがとう、ありがとう……。


 瑠璃色の空間に、グロディアの光の粒が弾けていたーー。



 ★○★○★○★



 ロトには、ふたりの母がいた。

 それぞれの“思念”の象は、扉と鍵で表れた。


 ロトとタクト=ハインに合流したルーク=バースは扉を開くのは誰かと、指名した。


「ロト、おまえがやれ」


 タクト=ハインが扉の鍵穴に鍵を差せずに手間取っていた。つるりと、鍵を落とす。拾い上げようするならば、磁石が反発するように手から鍵が弾く。


 ロトは戸惑った。タクト=ハインが手に握りしめることが出来ない鍵。渋るロトにルーク=バースはとうとう「いいから、やれ」と、強く言う。


 青銀の鍵はロトの掌の上に、貼り付くように乗っていた。ロトは指先で鍵を挟み、扉へと歩み寄った。


「開けるぞ」

 ロトは金色の扉の鍵穴に鍵を差し込む。

「かちり」と、錠が外れる音がして、ロトは扉の取っ手を握りしめる。

 そして、ロトに続けとタクト=ハインとふたり(バースとアルマ)は扉を潜り抜けた。



 一行は、扉の向こう側で広がっていた光景に驚愕する。星の海と呼ぶべきの、宝石の輝きのような光の粒を掻き分けて、ひとりの男が漆黒のマントを翻して腕を振りかざしていた。


「ハロルドさん……。なのですか?」

「ロト様。何故、あなた様が此処に居られる」


 男は挑んでいた。男が伸ばす掌を、ひらりと何度も躱す、背丈が低い仮面を被る何者かと戦っていた。


『おいおい、兄ちゃん。何に気を取られる』

 仮面の者は、声がくぐもっていた。喋り方、背格好からすれば少年。しかも、言葉に常識がない。


「待て、バース。情況がはっきりとしない、勝手に動くはするな」

「うんにゃ。何だかあれを見てたら、腹が立ってきた」

 指の関節を「ばきり」と、鳴らすルーク=バースに、傍にいるアルマは青ざめていた。


 どう見ても、子供。男が相手と対峙するに至った経緯はさておき、ルーク=バースまでが加わるとなれば。何が起きるのかは、大体は予測出来る。

 アルマが止めるのも虚しく、ルーク=バースは男と仮面の者へと、駿足していった。


「おいっ、口の突き方が横着なんだよ」

『は。おまえこそ、訳もわからず説教をブッかますなよ』


「ロト様、この男は?」

「ルーク=バースです。詳しい話しは、暇になってからします。ところで、ハロルドさん。あなたは……。」

「私も色々とお話しをすることがあります。ですが、お恥ずかしいことに目の前の難関を突破させるのに苦戦していた」


 ハロルドのほどの者が。しかし、剣は鞘に収まったまま。

 相手が“子供”だから。だから、ハロルドは武器を使わずでの闘いをしている。いや、武器を使わずとも、相手を撃沈させるを選んだ。


『“大人”て、面倒臭いな』

 仮面の者は掌をルーク=バースに翳す。すると、ルーク=バースは耳を押さえて「うっ」と、呻いた。

 仮面の者が掌を翳しただけで、ルーク=バースが体勢を崩す。

 “輝力”を発動させて反撃をした形跡が見られない。どちらかといえば、ルーク=バースが不利な状況下におかれている。


「バースさん、止しましょう」

 タクト=ハインは堪らずルーク=バースに駆け寄った。


「来るな。タクト、おまえは手を出すな」

「駄目です。ハロルドさんていう人でも苦戦をされていた。バースさん、あの者は危険です」


 何故か不安を覚えた。ルーク=バースと仮面の者をこれ以上接点させてはいけない。タクト=ハインは、息を切らせない仮面の者に妙な感覚になっていた。


「キミ。僕とバースさんのどっちかに、何処かで会ったことある?」

『……。ない。おまえ、偉そうにしているから気に入らない』


 仮面の者は、一度考え込んだ様子だった。すっと、返答をしない。加えてタクト=ハインから目をそらす。


「僕には、弟がふたりいる。でも、ひとりはいなくなった。その時持っていたのが、キミが首にさげているロケットだ」

『だからなんだよ。おまえ、オレをムカムカさせたから、こいつの代わりにやられろ』


 仮面の者は、怒りをタクト=ハインに剥けた。そして、掌を翳そうとしていた。


「おい。実の兄貴に喧嘩を売るな」

 ルーク=バースは声色を厳つくさせ、仮面の者の腕を掴む。


 ロトは聞き逃さなかった。今、ルーク=バースが『兄貴』と、口で突いた。

 当然、アルマも怪訝なさまとなっていた。ロトは臆測をした。仮面の者とタクト=ハイン、ルーク=バースの関係が何かと。


「バースさん、あなたは気づかれていた」

「ああ、タクト。どっちみち、どこかでこんなことになると、わかっていた」


 タクト=ハインは、頷いた。そして、仮面の者の脇に腕を潜らせ、さらに足首で脚を絡ませる。


『おい、何をするっ!』

「やかましい。おまえみたいな悪ガキは、俺がみっちりとお仕置きしてやる。いやーー」


 ーー()()()()は、俺が責任持ってシメる……。


 ルーク=バースは、仮面の者が被る仮面を一気に剥がす。すると、表れた顔に、誰もが呆然としたさまとなった。


「バース、おまえは“時の洪水”に巻き込まれて“器”が過去に流された。そいつはバースの本当の“芯”だ。バースは“時の洪水”で“芯”と“器”が分離されてしまった。バース、おまえはあの時、俺が助けてやれなかった子供だった……。」


 ロトが、項垂れていたーー。

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