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コラボノストア   作者: 鈴藤美咲
トト様、ご来店です。
14/26

銀の蜃気楼〈陰に陽に〉

 今まで見た思い出とは違う思い出だった。

 ロトくんを覚えていた“思念”が表れた。


 リンさん。


 “思念”のあなたは、ロトくんの記憶をもっていた。歴史にあった【日本】という国に、リンさんはいた。


「タクト、ロトの恋人ではないのは本当なの」

「うん、いとこだって」

 僕の返事にカナコはつまらなそうに唇を尖らせたーー。



 ★○★○★○★



 “思念”を表す光景であるのはわかるが、自然が乏しい。高層ビルが建ち並び、路をうめる人の流れの中に一行はいた。


 “力”は一切使えず。代わりに“懐”が重くなっていた。

 “懐”を使うで移動が楽になる一方、裏目があっという間に出た。


「お腹すいた。ロトくん、ご飯が食べられるお店に入らない?」

「駄目だ、タクト。ふたり(バースとアルマ)と逸れてしまったうえに“金”がない」

「ロトくんが《おもてなし戦隊ヒゴレンジャー》に夢中になってたからだ」

「タクトこそ、ご当地ゆるキャラ《グレートマザー》のグッズ選びに足留めしていた」


 ロトとタクト=ハインは【モクドルバーガー】の店前で言い合いをしていた。ふたり合わせての所持金でも十分に食事を楽しめると主張するタクト=ハインだったが、ロトは頑くに拒むをするのであった。


 ーー良かった、二人とも。散々探していたのよ。


 ロトとタクト=ハインは言い争いを止めて振り向くと、金髪のツインテール、服装は緑を基調にしたブレザーとギンガムチェックのフリルスカート。白いソックスに黒い革靴の少女が息を切らせていた。


「おまえはーー」

「僕たちのこと? キミ、誰」


「もう少しで交番に駆け込むところだったのよ」

 少女は手をあげる。すると、目の前に一台の乗用車が停車した。


「どちらまで」と、運転手が後部座席のドアーを開く。

「ヨヤスサンセットパレスまでお願い。あんた達、さっさと乗りなさい」


「俺たち、タクシー代持ってないからな」

「わたしが払うに決まっているでしょう。運転手さん、早く出発してっ!」


 運転手は、アクセルを踏んで発車させたーー。



 ★○★○★○★



【ヨヤスサンセットパレス】

 巨大なシャム猫の大理石の像、淡い紅色の花びらの薔薇が咲き誇る庭園。そして、敷地いっぱいに広がる池に優雅に泳ぐ錦鯉の群れと、流れ落ちる滝に揺れる川の水面。


 地上35階建ての宿泊施設に、ロトとタクト=ハインは少女と共に訪れていた。

 少女はふたりを泊める為にフロント係の女性とこじれていた。支配人を呼んで欲しいと、少女は1枚のカードを提示する。すると、フロント係の女性は部屋の空き状況を確認して案内をするのであった。


 エレベーターは最上階のフロアで止まる。


「フロント係の女の人にほぼ、脅していなかったか?」

「ぜーんぜんっ! 人を見て宿泊拒否した対応したのがいけないのよ」

 ロトの険相に見向きをしない、鼻唄混じりの少女は《VIP》と架かる扉の錠に、カードキーをスライドさせていく。


 タクト=ハインは部屋に入ると息を呑んだ。シャンデリアの照明灯、レースをあしらうツインベッド。黒色の大理石のテーブルの上に置かれているのは〈ウエルカム〉と綴られているカードが添えられている、籠いっぱいに盛られている高級な果物。

 バスルームは金色で煌めいていた。タクト=ハインは備え付けてあった入浴剤のパッケージの“金箔入り”に「はあ」と、驚愕するのであった。


 ロトは、壁に掛かる油彩画を見つめていた。


「どう、王子。自分の晴れ姿は結構さまになっているでしょう?」

「やはり、リンか。やっと、俺を記憶している“思念”がお目見えした」


「わたし〈此処〉ではご令嬢なの」

 少女、リンはぽつんと呟くとロトをじっと見据える。


「どうした? じろじろと、俺を見つめてさ」

「ディナーをかねて、会わせたい人がいるの。その前に、身なりを整えましょう」



 ★○★○★○★




 リンはロトとタクト=ハインの装いを変える為に、ホテルのショッピングフロアーヘと連れていった。


「ロトくん。ネクタイの付け方、間違っている」

 紺色のスーツ姿のタクト=ハインは、翠色のスーツ姿のロトに指摘をする。


「あら、退いてタクト」

 リンはしゅるりとネクタイを解き、指先を動かしていく。

「止してくれ、人が振り返って此方を見ている」

「可愛いカップル。なんて、思っているに決まってるわよ」

「リンッ!!」

「はい、これでいいわよ。晴一おじさま。今日はありがとう」


 リンは、店のカウンターでクレジットカードを提示するグレー色のスーツ姿の青年の傍に寄る。


莉愛りあ、友達はどう、呼んでいいのかな?」


「りあ?」

「この世界での彼女の名前だろう。タクト」


「此方のちっちゃい男の子が隼田拓人はやたたくとくん。そして、ちょっと、背が高い子が織本銀次郎おりもとぎんじろうくん」


「ギンジロウ!? おい、タクト。笑うな」

「キミの髪の色と同じ名前でいいと思うよ」


「ははは。君達の事情は、追追訊かせて貰うことにしよう。僕は岡村晴一おかむらせいいち。莉愛の叔父です」

 そして、ロト達は岡村にホテルのレストランに案内されていく。



 ★○★○★○★



【レストランムーンストック】

 バイオリンとピアノの生演奏。シャンパンの栓が抜ける音。そして、喉を鳴らせる食の匂い。


 ロト達は、夜景が一望出来る窓際の予約席に腰をおろす。


「ディナーはビュッフェ式だ。僕に遠慮せずに、どんどん食べなさい」

「はい、勿論喜んでいただきます」

 タクト=ハインは魚のマリネ、本マグロの大トロ、鮃のムニエル、ズワイガニのグラタンと、山盛りの皿をテーブルの上に置き、アワビのステーキ伊勢海老の活作りを替えの皿に盛り付けていった。


「銀次郎、拓人に先を越されているわよ」

「莉愛。咄嗟とはいえ、俺を何故そう呼ぶのだ?」

「まずは食事を楽しみにましょう。ね、おじさま」

「その通りだよ。腹が減ってはなんとやら、だよ。銀次郎くん、鮪の解体ショーが始まるが見る振りをして欲しい」

 岡村は、フォークを床に落とした。そして、ロトは岡村の視線の先を目で追った。


 ロトは「はっ」と、息を呑む。客の群れに、見覚えがある中年風の男がふたりいる。


 ウェイターが代わりのフォークを置いて立ち去って行く。


「見えたか、銀次郎くん。たぶん、キミがよく知っているふたりだ。莉愛が僕に教えてくれた。キミの本当の名前はロト。キミも見ただろうの油彩画は、キミを描いている」


「フォーマルハウトとフリー。姿、声、時の輪の中で忘れた事は一度もなかった」

 ロトはグラスに注がれるミネラルウォーターを一気に飲み干した。



 ★○★○★○★


 タクト=ハインをホテルに残し、ロトと岡村晴一はリンを自宅に送り届ける。


 しかし、ふたりはホテルに引き返さなかった。

 ディナーの最中で目撃した中年風の男達が尾行していた。


 フリー。

 フォーマルハウト。


 彼らは、リンと同じく自分を記憶しているのだろうか。


「ロトくん、覚悟はいいか?」


 ハンドルを握りしめる岡村晴一の促しに、ロトは「はい」と、静かに頷いた。


 そして、乗用車は森林公園の駐車場に停車したーー。



「やっと、まともにご対面できた。俺と少年、どっちを狙っている?」

 岡村は絞めるネクタイを外し、上着を脱ぎ捨てワイシャツの袖を捲り、ライトに照らされる追手の一組を睨む。

「我組織の裏切り者よ、命が惜しければ“SILVER・WOLF”をおとなしく引き渡したまえ」


「却下だ」


「岡村さん、貴方は一体何者なんだ?」

「《奴ら》の中間管理職。または、ロト。キミも含めたタクト達の同志だ!」


「〈銀の蜃気楼計画〉を阻止する為に?」

「来るぞっ!」


 岡村は、ロトに右手を翳して合図をする。すると、ロトは右目に眼帯を付ける男を目掛け“銀の光”を解き放していく。


「フリーッ、教えてくれ。あんたは何故、人の生き方を翻弄させる真似をしているっ!!」

「命には限りがある。しかし、時は永遠。更に其処にも幾つもの世界がある。繋げれば無限となり、果たせなかった志を達成させる!」


「正しい選択とは、俺は思えない。あんたの事は、心から信頼していた!」

「揺さぶりを掛けても無駄だ。さぁ、ロト。新たな時と世界の誕生をおまえも見届けろ」

 フリーは“力”を岩石に注ぎ込み砕けあげ、浮上させると照準を岡村に合わせ、そして間を置かずに弾丸の雨を降らせていく。


「岡村さん、早く傷の手当てをーー」

「ロト“象”を手にして先に進め」

「何をおっしゃるのですか。アルマさんとバースを探していないし、タクトはーー」

「言い忘れていた。莉愛。いや、リンが導いてくれる」

「リンが?」


 ーーロト、皆と風を薫らせろ……。


 岡村は、全身を白く輝かせる。



 静寂が訪れ、白色の空間にロトは身を任せていた。ふかふかと、程好い感覚に目蓋が綴じられ、何処に流されるかも抵抗する事なく睡眠を貪るようにゆらゆらと、漂い続ける。


 ーーフリー……。


 ーーもう一度、ロト……。おまえと同じ時を過ごしたかった。其れだけは、真実だ……。


 ーーまた、会える。必ず、時の何処かで廻り会える。其れまで、新しい時を刻む準備をしててくれ。


 ーー御意。


 頬を濡らし、笑みを湛え一度お互いの掌を握り締めると弾かれるように、離れていくーー。



 ★○★○★○★



「あ、お腹が鳴っている」

「よすのだ。目を覚ましていたら、最悪な事態が発生するぞ?」

「タクト。最近、ふざける事が増えたな?」

「楽しいですよ。だってーー」


「折角寝ていたのに、騒々しくて不愉快だ」

「あは。やっと、起きてくれた」


「よ! 眠り王子様」

「バース。おまえが一番、ふざけてる」


「じゃれ合うのは其処までにするのだ」

 アルマは視線の先のエメラルドに輝く扉を見つめながら言う。


「貴女。少しだけ、ロトのお母様に似ているかしら?」

「リン、と呼べばいいな? 私情は兎も角、これからの道案内を頼むぞ」

「任せて、アルマさん」


 ーー行きますよーっ! 銀次郎くん。


 ーーその呼び方も止すのだ!


 タクト=ハインが握りしめる鍵が扉の鍵穴に差し込まれると、辺り一面に瑠璃色の光が拡がっていった。



 一方、その頃。ある施設にて関係者が集い、物議を醸し出していた。


「フォーマルハウト。失態の責任は、誰が尻拭いするのか?」

「申し訳ございません。まさかのイレギュラーの事態が発生しまして、場を離れるのが精一杯でした」


「……。今一度機会を与える。いいな?」

「感謝致します。必ず“SILVER・WOLF”を取り押さえ、貴方の元へお届けに参ります」

「同行者もだ。特に少年は、かすり傷を付けずに連れてこい」


 ーー御意。



 仮面の者、首に掛ける装飾品を手にして立体映像を写し凝視する。


 ーータクト……。


 呟く声、低く重く。口から吐かれる漆黒の炎と交わらせていた。




【岡村晴一】完結済作品『風、薫る』『空中パズル』『かぜはやんだ』に登場しています。

(詳しくは、作品で……。)

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