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コラボノストア   作者: 鈴藤美咲
トト様、ご来店です。
13/26

銀の蜃気楼 〈想い、清らかに〉

 タクトの“思い出”に、父と母がいる。

 父は今とまるっきり同じで騒がしい。恥ずかしかったけれど、ほっとした。

 母が見せる、瞳が綺麗だ。わたしと同じ蒼い瞳で、いつも父の姿を追っていた。


 父と母は愛し合って、わたしが生まれた。


「カナコ、僕にキミの息を吹き込んで」


 わたしはタクトの腕の中にいた。タクトの“思い出”を感じて擽られていたら、タクトに甘い催促をされてしまった。


 ロト。


 タクトはロトの“思い出”を見たの。そして、わたしもロトの“思い出”を見た。


 想い、清らかに。

 人を想い、愛することは大切。


 わたしが見た、憧れを叶えることが出来た女の人の名前はイサドラ。


 わたしはタクトの中で、タクトとロトの“思い出”を見ていたーー。



 ★○★○★○★



 柔らかな陽の射し。遠くを見れば山脈。緑深い森林の狭間を穏やかに流れる川。空を羽ばたき囀ずる鳥、草原を駆け抜ける野性動物の群れ。


 扉の向こう側に、大自然と命が息吹いている。

 先程のカラバッジオ一味との戦いと一変しての光景だとはいえ、ロトは何処か沈み気なさまだった。


 〈銀の蜃気楼計画〉でバラけて飛び散った“思念”の象を手にしてしまった。象は鍵として、次の“思念”へと標して導く。だから、訪れた場所は“思念”が光景として表れている。


 それにも関わらず、見えるものがすべて穏やか。ロトは警戒をしていた。もしまた、カラバッジオ一味のような“憎悪”な“思念”と遭遇をするならば今度はひとりで挑むと、ロトは覚悟をするのであった。



「バースさん、その野草は毒がありますよ」

「そんなことはないっ!」


 奴らの順応さは、手の施しがないほど呆れるものだ。

 ロトが見ていたのは、川の土手で繁る野草を引き抜き、葉を咥えるルーク=バース。そして、阻止するタクト=ハインの姿だった。


 ーーにゃんりゃあとぉお~っ? ひょっと、そりは、うんにゃくんにゃ……。


 呂律が回らず足元をふらつかせて突進するルーク=バースを、ロトはひらりと躱す。


 ーーあるま~ぁあ、抱っこ。


 ーー近づくなっ! 酔っ払い。


「アルマさん。僕、限界です」

 タクト=ハインは、ルーク=バースに寄り掛かれた反動で川に落とされ、全身がずぶ濡れになってしまった。


「仕方ない。バースの酔い醒ましとタクトの服を何処かで乾かす事にしよう」

 アルマはルーク=バースに回し蹴りをしながら「はあ」と、溜息を吐いた。


「皆さん、私の家でお休みしてください」


 ロトは誰だと、振り向く。そして、顔を見るなり眉を吊り上げる。


「イサドラ? いや、騙されないぞ。誘い込む振りをして俺達を始末するつもりだろうっ!」

「何のことかよく判りませんけど、其処のお方は〈サケモドキ草〉を加熱せずに食べた中毒症状ですよ? 急いで介抱させないと、大変な思いをされるのはあなた達です」


「ロト。取り敢えず今はこの女性を信じるのだ」

「ロトくん、アルマさんのいう通りだよ」

 タクト=ハインは「はっくしょんっ」と、くしゃみを何度もしていた。


 ロトは女性、イサドラの招きに渋々と賛同した。



 ★○★○★○★



「うげぇ」

「お口に合わないでしょうけど、とてもよく効くお薬です。あらまあ、あなたが着られる服ぴったりとして、よく似合っていて良かったわ」

「ありがとうございます。着心地も軽いです」

「タクト、借り物の服を汚さないように振る舞うのだ」


「お気遣いしなくても結構ですよ」


「ロト、おまえも腰を下ろすのだ」

 アルマは顔面蒼白のバースの伸ばす腕を払いのけ、窓際に佇むロトを促した。

「アルマさんはイサドラを知らない。実の妹をーー」


「言い掛けて何を引っ込めさせる?」


「いえ、やっぱり、何でもありません」

 ロトはうつむき、そのまま外に出ていく。


「失礼した。どうも気難しいところがあって、この私でも気を揉むものだ」

「ロトさんですよね? そちらのタクトさんくらいの年齢にお見受けします。おふたりとも、アルマさんとはまるで親子か年の離れた兄弟ですね」と、イサドラは笑みを湛える。


「イサドラさん、僕の母さんはアルマさんよりはーー」

「タクト。その続きを言いたければ、私も容赦無しだっ」


「ロトくんを探しに行ってきます」


「段段と、何処かの誰かを彷彿させてきてる」

「俺、何もしてないぞ」

「お薬が効いたのですね? 沢山ありますから、どんどん召し上がってください」

 イサドラより振る舞われたテーブルを埋め尽くす料理をルーク=バースは千手観音の如く、手掴みして舌に乗せる。


「イサドラ。世話になっててすまないが、訊きたい事がある」


「なんなりと、お申し付けてください」

 イサドラはアルマに紅茶を淹れたカップを差し出すと、正面の一人掛けの椅子に腰を下ろしていく。


「おまえは、ロトと何かあったのか?」

「全くもって、見覚えがありません。況してやお顔を合わせるなんて、今日が初めてなのです」

「やはり、か。どうだ、バース」

「ああ、さっきのカラバッジオと同じだ」


「どうなさいましたか?」

「いや、イサドラ。そなたから邪気など全く感じないから。むしろ、幸福に充ちてる。無理な問い掛けをしてしまった事を詫びる」


「幸せだなんて。アルマさん、何て事を仰るのです」

「違うのか?」

 アルマは眼差しを柔らかくさせ、頬を両手で挟むイサドラを見つめる。

「アルマさんも今、私と同じ。そう、お訊ねして宜しいでしょうか?」

「そなたとは、気が合いそうだ。つかの間だが、友好を深めたい」


「此方こそ是非、お願いします」


 アルマとイサドラは、お互いの掌を硬く握り締め、笑みを湛え合っていった。



 ★○★○★○★



 ロトとタクト=ハインは、小高い丘の山頂に腰を下ろしていた。


「本来なら流れることがない“時”まで引き込む。それが〈銀の蜃気楼計画〉だ」

「ロトくんは、其れを食い止めようしていた」


「防げなかった」

 ロトは唇を噛み締めて、空を流れる雲を目で追い始める。


 タクト=ハインは丘から見下ろす、人の姿に「はっ」とする。そして、ロトが羽織るジャケットの袖を引っ張るをした。


「ロトくん、あの男の人を追ってみよう」

「何処から見ても着雑多らしいのが気になるが、そいつが向かってる先があの家だからな」

「僕が知っている人とそっくりだし、抱える花束でカムフラージュしていたら大変だよ」


 足音をさせず、気づかれように。岩の影、樹木の幹に隠れながら、ロトとタクト=ハインは花束を抱える男の姿を追った。



 ★○★○★○★



 コツコツと、扉をノックする音が三回鳴る。すると、イサドラの瞳がきらりと煌めいた。


「青い鳥が来たのだな? 私達に気にせず、早く招き入れるのだ」

「アルマさんたら、何て事を」

 イサドラは頬を朱に染めてソファーから腰を上げる。そして、壁に掛かる鏡に顔を映して髪を手櫛で整えると、廊下を踏み締めていく。


 ーーいらっしゃい。今日はお客様をお招き致しておりますけど、どうぞ上がられてください。


 ーーほうっ! それは興味津々だ。私も是非、お相手させて貰おう。


 イサドラの弾む声と男と思われる掠れた声が聞こえた。


「何で聞き覚えがある声がするのだよ?」

「酔いがまだ醒めてないのだな? 残りを飲み干すのだ」

「あれはとてつもなく苦い。アルマ、俺が耳掃除をしてやるから、今一度聴いてみろ」

「おまえの除去作業は、鼓膜を貫通させるかと言うくらい激痛を伴うから断る。純白なイサドラの青い鳥、他人の空似と願おう」


「失礼、来客の方々。私の名はサンデ=クロニ=ロース。普段は北の果てにあるフィン国の警護を勤めている」


「能弁なところも、まさに奴そのものだ」

「此方から訊く手間が省けたと、解釈しとけ。アルマ」


「早速、打ち解けられたご様子ですね?」と、イサドラは新たにティーセットをトレイに乗せて、応接間に入室する。


「いや。けして、そうではーー」

 ルーク=バースは脚の脛に激痛を覚え「ひいひい」と、悲鳴を圧していた。


「紹介が遅れた。私はアルマ、こっちはルーク=バース。旅の途中でこの馬鹿の為に、イサドラの世話になっている」

「ほう、双方はハネムーンの最中ですな? 何て、仲睦まじい」

「違う、タッカ。ではなくて、サンデ殿。同行者があと二人いる上に、そ、そ……。それにーー」

 アルマは俯き、膝の上で指先を絡ませていく。


「つい最近、婚約した。て、べろっと何で言わないのだよ?」

「おまえは、少しは場をわきまえろ……。バース」

「益々、興味深い! その道程を、訊ねたいものだ」

「そうですわね。此までどんな地方を訪れたのか、お話しをされてください」


「イサドラ。私は、二人の出逢い迄の経緯の意味だったのだが?」

 笑みを湛えるサンデは、イサドラと目を合わせる。


「アルマ。俺、用事を思い出した」

「私もだ。バース」


「あらまあ、どうしましょう。此れではおふたりを追い出したみたいで心苦しいですわ」

「この土産にも、客人達は気遣いしたのだ」

「本日で、何本目になるのかしら?」

「235だよ。俺の国では、願いを叶える数として縁起を担いでいる」

「さぞかし、摘むのが大変だったでしょう?」

「この時期にしか咲かない。逃すまいと、民家の庭に潜り込んで摘み取った」


「サンデ?」と、イサドラは困惑したさまとなる。

「虚言だ。さて、本題に入らせて貰う」


 イサドラは黄色に咲き誇る、白い綿帽子を含ませる花束をサンデより受け取る。

 サンデはイサドラの耳元で囁く。すると、イサドラは「ほう」と、吐息をして瞳を潤わせる。


 ーー喜んで、お受け致します。


 サンデはイサドラを包み込み愛おしいく、長い髪を指先に絡めていくーー。



 ★○★○★○★



「静かになった。何が起きたのか判るか?タクト」

「僕、子供だから知らないよ。ロトくん」

「あ、あいつらどさくさに紛れて何て事をおっ始めやがる!」

「みっともないからよすのだ、バース」


 家屋の軒下で身体を低くさせ、赤面するロトと鼻を懸命に両手で塞ぐタクト=ハイン。中の様子を窓越しから覗くルーク=バースの耳朶を引っ張るアルマ。


「“創造”とするには、残念だよな? アルマ」

「イサドラの“憧憬”だ。心の奥で、その“思念”も刻ませていたのだろう」


「イサドラさんが表した“扉”が見えてますよ。行きましょう!」


 一行が頷くと同時に風景はふわりと、白い綿帽子によって埋め尽くされる。

 タクトが握り締める黄色の鍵が扉の鍵穴に差し込まれて開かれると、ロト達は潜り抜けていったーー。

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