【7 ルーラの反撃】
外の爆炎魔導の音は劇場内にも届いた。
「来るぞ!」
劇場内にダブルの声が響き、周囲の海賊たちが一斉に手にしたランプを床にたたきつける。
壊れたランプから飛び散る火種が床の油に引火、炎は油を舐めるように走り、観客席を取り囲む。油の上に撒かれた狼煙草に火が付き、草の中に封じ込まれていたものが解き放たれたかのような勢いで煙が上がりはじめた。
「ティッシュが逃げる時間稼ぎだ。とにかく暴れまくれ!」
ダブルがポンチョを脱ぎ捨てると、中の着ているのはピニミ衛士隊の制服だ。彼だけではない、他の海賊たちも一斉に同じようにして衛士の制服姿に変わる。何人かは覆面をも投げ捨てる。
「やっぱり素顔は良いぜ。空気に潮の匂いのしないのが残念だがな」
ダブルがサッパリした笑顔を見せた。短く髪を刈り上げた角張った顔は、いかにも彼らしい顔に見えた。
残された人質たちは流れてきた煙に咳き込みながら不安げな顔を海賊たちに向ける。
「私たちは解放されないの?」
「衛士隊が助けに来るさ。それまで待ってろ」
その衛士隊を迎え撃つべくダブルが金棒を軽く振るたび、その風圧で煙がなびく。
壁越しに歓声と怒号、剣がぶつかり合う音が微かに聞こえてきた。廊下では一足先に衛士と海賊のぶつかり合いが始まったのだ。
「さぁ来い!」
正面扉に金棒を構えたその時、東側の扉が勢いよく開きベルダネウスたちが飛び込む。燃えさかる炎の壁もものともせず突っ込み、突破する。
「ルーラ!」
うっすらとした煙の向こうから、愛しい男の声を聞き彼女は声を返す。
「ザン!」
衛視は正面から来るものと思っていた海賊たちは、東側からの突入に戸惑いを見せたが、それもわずかなこと。すぐに何人かがベルダネウスたちに向かっていく。
ベルダネウスたちの背後から煙を突き破って飛び出したものがあった。光る魔玉の杖を持ったそれは座席の上を飛び反対側の壁にぶち当たると思いきや、巧みに壁を蹴って方向転換する。
「室内で飛行魔導!?」
海賊の魔導師がまさかと目を剥いた。いくら劇場内が広いとはいえ、飛び回れるほどではない。しかも煙で視界は悪い。こんなところで飛行魔導など、自殺行為である。
だが、その魔導師はこの狭い空間を巧みに飛び、人質たちの正面に来た。これほどの技量を持った魔導師に、ルーラは心当たりがある。
「ファルト!」
座席前の広い空間に転がり出た彼女は、思い切り両手両足を広げる形で前屈みでへたり込んだ。広げた手足をつなぐ枷の鎖が綺麗に並ぶ。
その意図を理解したファルトは天井を蹴って人質のいる座席の前に墜落するように突っ込んだ。その手にある魔玉の杖の先端からは、小刀のような形の魔壁が伸びている。即席の魔導剣だ。
雄叫びとともにファルトが着地に合わせて魔導剣を彼女の枷の鎖に叩きつけた!
枷の鎖が砕け散り、ルーラの手足が自由になる。
そこへダブルが金棒を振りかざして2人に襲いかかる。2人は逆方向に大きく飛んで間合いを外した。
「ルーラ!」
襲い来る海賊達から逃げつつ、ベルダネウスは手にしたものを彼女に向かって投げる。
精霊の槍。
海賊たちの間を飛んできたそれを、ルーラが飛びつきつかみ取る。
「しまった!」
舌打ちするダブルの前でルーラは槍を軽く振るい、中段に構える。精霊石の穂先を通じて精霊たちを感じ取る。
「さぁて、反撃開始!」
中央通路は海賊達がいる。壁際の通路は炎に包まれている。人質達が逃げるには
「道を空けて!」
叫びに答えるかのように、通路の炎が壁ギリギリまで引いた。まるで人質が通るための道を空けるように。ルーラの願いを炎が聞いてくれたのだ。
「早く!」
しかし、人質たちはためらっている。彼らにとっては、今のは勝手に炎が動いた現象であり、自分が近づいた途端、また炎がこちらに伸びてくるのでは。という不安があった。
「急いで、みんなが通るまでは炎は道を作ってくれてるから!」
せかされて、意を決したようにオーキンスが駆けだした。それに引かれるように人質達が手枷をしたまま走り出す。
簡単には逃がさないと、海賊の一人が人質の行く手を塞ごうと剣を手に走る。が、いきなりその体が弾かれたようにひっくり返った。見えない壁にぶつかったように。
「野暮な真似はするんじゃねえ。てめえらの相手は俺達だ」
ファルトが人質の走る通路と海賊達の間に魔壁を張ったのだ。
海賊の魔導師が魔玉の杖をファルトに向けた。その先端から青白い稲妻が放出される。
が、それもまた彼の目の前に張られた新たな魔壁に阻まれ、流れるように散っていく。
「な?!」
強張る海賊魔導師に対し、ファルトは軽い舌なめずりを返し
「ちったぁ実践で鍛えているようだが、その程度じゃ俺の魔壁は破れねえ!」
ダブルが中央の通路を走って正面出入り口に走る。人質を通す以上、出入り口には魔壁は張られてないと見て。
それを見たルーラが精霊の槍をダブルに向ける。と、今まで道を空けてくすぶっていた炎が一斉に燃えあがると、一斉に伸びてダブルに襲いかかる! 思わず金棒を振るうがそんなもので防げるわけはない。無数の炎が金棒をすり抜け、彼に激突する。
「ぐわぁっ!」
彼を巨大な炎の塊が包んだ。
誰もがこれで終わりと思った途端、炎の塊から制服を焦がしてダブルが飛び出した。
しかしその間にルーラは砕かれていない観客席の背もたれを足場に彼の横を駆け抜け、人質たちを守るように通路の先に立つ。
「どけ!」
唸りと共に振るう金棒をルーラがかわし、周囲の座席がぶっ飛ばされていく。
怒りのために大振りになっているが、それだけに当たったらひとたまりも無い。人質に近づけさせないためにも逃げるわけにもいかない。ルーラは彼の動きに集中する。
そのせいか海賊の1人が小さな弓を取り出し、矢を向けるのに彼女は気がつかない。
正に矢を放とうとするその時、座席の陰からジェムが飛びだした。海賊の顔面に張り付き、鼻っ柱に噛みついた!
「ひぎゃえあ!」
矢を射るどころではない。たまらず弓矢を手放すとジェムをはたき落とそうとするが、それより早くジェムは顔面から飛び降りて座席の陰に隠れてしまう。
海賊がジェムを探して視線を落とす間に、ベルダネウスが一気に間を詰め、鞭で相手の顔面を思いっきりはたく!
痛みに顔を押さえるところを、ジャコが飛びついて押さえ込む。
途端、劇場を轟音と共に大きく震える。
窓が一斉に割れ、天井に亀裂が入る。壁の一部が砕け散る。
「爆薬?!」
ルーラが青ざめ、思わず動きが止まる。海賊たちは火をつけるだけではなく、爆薬まで用意していたのか?
やはり知っていたのだろう。爆発に衛士達や人質たちが思わず動きを止めたのに対し、海賊たちはひるむことなく挑んでくる。
雄叫びと共にダブルの金棒が横殴りにルーラを襲う。
避けきれない。ルーラはとっさに精霊の槍の柄で金棒を受けるが、勢いで客席の中まで跳ばされてしまう。背もたれや手すりに背中や足がぶつかり、痛みに思わず顔をしかめる。
ちょうど人質たちが立ちすくむ上の2階席が崩れる。
「やべぇ!」
ファルトがとっさに魔壁を人質たちの頭上に斜めに張る。崩れる2階席を魔壁は受け止め、客席の方に瓦礫を滑り落とす。
「びびるな、早く逃げろ!」
叫びながら観客席の中央通路を走る。
「どうせぶっ壊れるなら遠慮はいらねぇ!」
彼の魔玉が輝き、出入り口めがけて爆炎魔導を放つ。
閉まっていた扉が直撃を受けてぶっ飛んだ!
「もう一発!」
続けて放たれた2発目の爆炎魔導は、その先、煙の向こうにあるはずの窓めがけて爆裂する! 窓を破壊し、煙を追い出すと同時にそこにいるだろう海賊たちの牽制するのだ。
彼の思惑通り中の煙が外に流れ出し、視界が晴れていく。
だが、やはり煙による視界不良のためか、爆炎魔導の爆発地点がズレたらしい。窓は数枚歪んだものの外れることもなく、依然、外と中を遮ったままだ。
「ファルト、無茶をするな」ベルダネウスが叫ぶ「海賊だけでなく衛士がいたらどうする?!」
実際にいたらしい。明らかに爆炎魔導で吹っ飛んだと思われる海賊と一緒に衛士も数名、壁際まで吹っ飛び倒れていた。幸いにもロビーに通じる階段は無事である。
「後でごめんなさいしとく!」
身構えるファルトの足下が思わずよろけ、そばの座席に座り込んだ。
それを見た海賊の魔導師が
「そいつを仕留めろ。やつに魔力はほとんど残っていない!」
「こんちきしょうめ」
ファルトが歯を食いしばって体を起こす。
魔力は「力ある精神」である。それを魔玉を通じて様々な形に転化するのが魔導なのだ。そのため、魔力を使えば使うほど精神疲労がたまっていく。使い切っても死ぬことはないが、判断力、行動力が著しく低下、最後はその場で意識を失ってしまう。
ファルトは並の魔導師よりずっと強く、豊富な魔力があるがそれでも昼間からの使い続けで限界に近かった。
(冗談じゃねえ、こんなところで倒れてたまるか)
自分に向かって走ってくる海賊にファルトは身構える。
「出てきたぞ!」
歪んだ扉の隙間を抜けるように人質たちが劇場から飛び出してくる。
「奥様、よくぞご無事で」
メタルが両手を広げてディファード母娘を出迎える。他の人質たちも駆け寄った衛士達に保護されていく。
その様子をミネールを見回す。彼女はティッシュと交換で既に解放されていた。
「ルーラがいない?」
「ミネール、危ないぞ」
父親の手を振りほどき、人質たちに駆け寄っていく。
「オーキンス様、ルーラは?」
「まだ中だ。私たちが逃げる時間を稼ぐためにあの大男の海賊と戦っているんだ」
「何でですか?! 彼女は衛士じゃないんだから、一緒に逃げればいいじゃないですか」
「言葉にはしなかったが、怒っているのかもな。君の髪のことで」
言われてミネールは切り落とされたツインテールの片割れ部分に手をやった。
その時、劇場の扉が内側から吹っ飛ぶように倒れた。倒れた扉はルーラを乗せて、正面通りまで階段をガタガタ滑り落ちてくる。
少し遅れてダブルが飛び出した。衛士の制服はあちこち焦げ、破れている。
ルーラが扉から降り、彼に向かって槍を上段に構える。肩で息する彼女のあちこちには青痣がつき、セットした髪は乱れている。しかし目にはまだまだ戦闘意欲が燃えたぎっている。
「この小娘がぁ!」
金棒を振り回し迫るのを、ルーラは右に左にかわしていく。反撃の機会を伺うが、ダブルの勢いがすさまじく防戦一方だ。
衛士の何人かが剣を抜いてダブルに挑むが
「邪魔だぁっ!」
唸りを上げる彼の金棒に剣は折られ、その身を叩き飛ばされた。
周囲の野次馬たちが慌てて逃げ寄るように場を広げる。
「ルーラさん、今のうちに逃げましょう!」
ミネールが駆け寄り彼女の手を取るが
「ダメ。あいつをあなたに謝らせなきゃあたしの気が済まない」
ゆっくりと呼吸を整える。
「そんなのいいです。衛士じゃないんだから、そこまで戦う必要ないです」
哀願する彼女の頬をルーラはそっと撫で
「……あたしに槍を教えた人がね、こんなことを言ってたの。
『剣も槍も空拳も、戦いの技を学ぶ目的はただ1つ。自分より弱いものを守るため、自分より強いものに挑むためだ』って。
技を身につけた以上、弱いものに力を振るう強いものから逃げるわけにはいかないの」
槍を構え、ダブルを睨み付ける。
手近な衛士達をぶちのめしたダブルがルーラと対峙する。
「ミネール、離れて」
「でも」
「大丈夫。まかせて」
槍を構え、ゆっくり呼吸を整える。
父親に引っ張られるようにミネールが離れていく。
野次馬たちが不安と好奇心の目で、対峙する2人に注目する。
巨大な金棒を構え、数人の衛士をぶちのめしてなおも疲れを見せない衛士制服姿の巨漢ダブル。
女性としては大柄だが、彼に比べれば一回り以上小さいルーラ。手にしているのは一見粗末な石槍にしか見えない精霊の槍。身につけているのは上下の下着のみ。
吟遊詩人も語りを忘れ、2人に魅入る。
燃える劇場が一気に崩れ、砕け散った破片が2人に降り注ぐ。
中から吹き出た火の粉が波のように2人を包む。
素肌に火の粉が注いでも、ルーラの表情は変わらない。
火の粉の波が通り過ぎた時、2人が同時に動いた。
咆哮と共に金棒を掲げてダブルが突進する。
負けじとばかりルーラが無言で突撃する。
武器を構え、突進する2人。
正に相手の間合いに入ろうという時だった。ルーラが精霊の槍を上に投げた!
「な?!」
明らかに相手より体格の劣る彼女が自ら武器を捨てた。かまわずダブルが金棒を渾身の力で横殴りに振るうが、その一撃にはわずかな乱れがあった。
それを彼女は見逃さない。腰を落として金棒を頭すれすれにかわしつつ彼の懐に飛び込む。
そのまま相手の襟をつかみ、一気に体を回転させる。
相手の突進力と自らの体のバネ、回転の勢いを利用して彼女はダブルの体を背負うように跳ね上げ、そのままひっくり返すように彼の背中を石畳に叩きつける! 背負い投げだ。
意表を突かれたため、受け身も満足に取れないまま背中を打ち付けられたダブルは
「ぐうっ!」
痛みに苦悶の表情を浮かべながらも体を起こそうとするが、その動きは明らかに鈍い。
その間に、ルーラは大きく間合いをはずしつつ落ちてきた精霊の槍を受け止め
「捕縛!」
穂先を石畳に突き立てる。彼女の意思を受けた大地の精霊は、ダブルのいる地を陥没させた。
そのまま彼の体を周囲の地が生き埋めにするかのように覆い尽くす。
ルーラの得意技、大地の精霊に助けてもらい、相手を半生き埋めにする捕縛方法だ。
「ぐっ……」
土と石畳で埋められ、地表に出ているのは頭部とわずかに右上半身だけのダブルが呻く。
「無駄よ。あなたがどれだけ力自慢でも大地の縛めからは逃げられないわ」
その言葉通り、顔を真っ赤にして力を込めるダブルだが、埋まっている下半身も左半身もまったく動かない。かろうじて肘から先の出ている右腕だけは少し動かすことが出来るが、それだけである。
「ルーラ」
父親の手を振りほどいてミネールが駆け寄った。
「勝ったのね」
「これを勝ちと言えればね」
未だ燃え続ける劇場を見上げた。燃える音に交じって剣のぶつかり合いやかけ声が聞こえてくる。中では未だ衛士と海賊の戦いが続いているのだ。
衛視に保護されている人質たちは、既に危険は無いとわかっていてもみな生気が無い。
ルーラはミネールをダブルの前に連れて行く。動けないとわかっていても、彼の視線を受けるとミネールの体は強張った。
「衛士に引き渡す前に彼女に謝ってちょうだい」
「謝る?」
「女の髪を切るってことが冗談で済ませられることだと思っているの?!」
ツインテールの片方を切り落とされ、未だおびえの色を見せる彼女の姿を見て、ダブルが笑い出した。
「何がおかしいの?」
「いや、おかしくて笑ったんじゃない。自分の負けっぷりがおかしくてな。まいった、俺の完敗だ」
ダブルがミネールを見上げる目は、海賊とは思えないほど穏やかだった。
「ミネールとか言ったな。自慢の髪をちょん切って悪かった。あれぐらいしないと、この女は口を割りそうになかったんでな。侘びの代わりだ。俺の顔を踏んづけていいぞ」
しかしミネールは逆に彼から一歩引いた。
代わりに周囲から衛士達が駆けつけ、ダブルに向かって一斉に剣先を突きつけた。
「こいつを連行する。地面から出してくれ」
衛視の1人に言われ、ルーラが精霊の槍に意識を込めようとするが、
「その必要はない」
ダブルが言った。
「さっきのはミネールに対する侘び。そしてこいつは、ドジったことに対するティッシュとイレットへの侘びだ!」
言うとダブルが思いっきり歯を食いしばる。
「しまった!」
衛視の叫びに合わせるように、ダブルが口から血を吐いた。
鼻と口から血を吹き出し、彼の首が力なく垂れた。
それが巨漢の海賊戦士・ダブルの最期だった。
たまらずしがみついたミネールを守るようにルーラは抱いた。その彼女に大きめ衛士の制服が被せられる。
「自害用の毒を仕込んでいたらしいな」
ベルダネウスだった。着ていた上着をルーラに被せたため、上はシャツのみだ。
「ザン……」
「こんなところでいつまでもする格好じゃないぞ」
言われてルーラは、自分が下着姿のままなのに気がついた。
たまらず真っ赤になって上着の前を合わせる彼女を、ベルダネウスは包み込むように抱きしめる。
「無事で良かった」
一瞬戸惑った彼女だったが、すぐにそのまま抱かれるにまかせる。
「とんだ休日になったな。なにか埋め合わせをしないと」
「……だったら……」
そのまま彼女は顔を彼に向け、軽く唇を開いたまま目を閉じる。
途端、彼は彼女を放し
「人質は全員脱出したか?」
疲れた顔で人数を確認しているファルトに声をかけた。
「もうちょい待ってくれ。よっしゃ。人質全員無事を確認。誰でもいいから手枷外してやってくれ」
その言葉に人質たちがホッとして、衛士達に手枷のはまった手を出した。が、衛士達も鍵がないので困り顔だ。
「鍵は誰が持っていたんだ?」
「確か海賊の魔導師が」
その魔導師はまだ劇場の中で衛士達と交戦中である。
「まいったなこれは」
「気長に待つしかないでしょ。それよりダンナ、後ろに気をつけろ」
「え?」
振り向いた彼が見たのは、ふくれっ面で精霊の槍の柄を自分に向かって振り下ろすルーラの姿だった。
油断した彼の脳天を見事に精霊の槍の柄が直撃する。
「待て、ルーラ、落ち着け!」
だが彼女はむくれたまま精霊の槍で、うずくまったベルダネウスをひたすらぶっ叩く。傷つけないよう、槍を逆さに持っているのが救いだ。
その様子を横目に見ながらファルトは
「ダンナが悪い……こんな時ぐらいちゅーのひとつもしてやれよ」
周囲の目もかまわず、ルーラはむくれたままベルダネウスを槍の柄で叩き続ける。
手枷をしたままの人質達は、そろってため息をついた。
(つづく)