プロローグ
空は暗く音のない世界……。
先ほどまで煌々と陽が射していた事が嘘のように……。鳥や蟲たち、あらゆる動物が鳴くことをやめ、息をひそめる。
やがて季節外れの雪が、雲のない空から深々と降り始める。
それは正確な所”雪”ではなかった。肌に触れても冷気は感じられない。ただ地に着くとフッと消え去る”雪”のような何かだ。
男は海を見渡せる丘の上にいた。男は岩陰に身を潜め、水平線のその先を、じっと静かに見つめている。やがて男の目に黒い点となって”それ”が現れた。
フォォォーッ。微かに聞こえてくるその音は”それ”が哭く声なのだろう。やがてその点は大きくなり、”それ”の姿がはっきりと男の目に写る。
大きな胸鰭をゆっくりと雄大に羽ばたかせ、空を泳ぐその姿に全ての生き物が見とれているのか畏怖しているのか、誰も”それ”を邪魔するものはいない。
”それ”はこの世界で”鯨”と呼ばれていた。太古の昔”それ”に似た生き物は海を泳いでいたらしいが、”鯨”と呼ばれるものは、今は空を泳ぐこの”鯨”しかいない。
鯨はどんどんと男のいる丘の方へと近づいてくる。雄大で巨大なその動きで鯨が大気を振動させている。男の皮膚にもその震えがビリビリと伝わり始める。
やがて男は巨大な銛を手にすると体を大きく反らせて銛を構えた。黒く巨大な姿が丘の上に差し掛かろうとしたその時、男は岩の陰から身を乗り出し、腕を大きくしならせて銛を放った。
巨大な銛が鯨の眉間へと吸い込まれるように刺さっていく。人が扱うにしては大きすぎるその銛も鯨相手には小さく感じる。しかし男の放った銛は深く鯨の頭の中へと音をたてずに消えていった。ブオォォォォー!!鯨は最後に大きな哭き声をあげると、絶命した。
鯨の体が丘の上にある森の中へと沈んでいく。バキバキと木々をなぎ倒しながらやがて鯨は止まった。
「すげーー!一発で仕留めやがった!!」
銛を放った男の後ろから、身を潜めていた別の男たちがゾロゾロと出てくる。
「一番銛だけで仕留めちまうとはさすがハイエだな!!」
銛を放った男の名は”ハイエ”、ハイエは自身を称賛する仲間たちなど意に介さず腰に差した刀を抜いた。
ハイエは刀を握って倒れた鯨へと向かっていく。ハイエは鯨の前に立つとその身体に刀を突きいれた。
ハイエは静かに鯨の解体を始めた。
世界観諸々、今後の展開でお伝えできればと……。