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その箱を開けた世界で  作者: ナガズボン
第1章 鳳凰院 蓮火(仮題)
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ダンジョン実習と旧きもの1




「ふぅーー。ようやっと来おったかい」


 実習用ダンジョンの、最後のフロアに足を踏み入れた駈たちを出迎えたのは、渋みのある男性の声だった。


「しゃべってますよあのモンスター」


 お下げが動揺したような口調で言う。


 他の班員は声も出せないようだった。


「おい、そこの」


 お下げを指差し、その存在は言う。


「わしをそこら辺にいるモンスターと同じにするでない。見ぬかこの文明に溢れた格好を」


 自らの着物を誇示するかのように腕を広げる。


 腰の刀がカラリと鳴った。


「一体何年前の文明なんだろう……」


 駈が呟いた。

 駈たちの反応を見たその存在は、全く最近の若者は、と嘆く年寄りのように、大袈裟に首を振る。


「今の人間にこの良さは伝わらんか……まあ、いい。そなたらの中にカケルという者はおるか」


 名指しされた駈は驚く。

 このようなけったいな人(?)に、名前を呼ばれるような心当たりは、駈にはなかった。


「僕ですが……」


 名乗りでないと、話が進まなそうな雰囲気を感じたので、駈は一歩だけ踏み出る。


「ぬしか」


 じろりと値踏みするような視線が、駈に向けられる。

 その視線の主は、しばらくまばたきもせず、じっと駈を見つめていた。

 が、よく見るとその鼻から、何かが膨らんでいた。


「寝てますよあのモンスター」


 お下げが白目を剥きながら言う。


「おい、そこな」

 

 駈が後ろを振り向いた時には、その存在がななめ後ろで、正確にはお下げの目の前で、指を差していた。

 よくよく見ると、彼女の胸に指を沈めている。


「わしは寝ているのでぼあっっ?!」


「セクハラしてきましたよこのモンスター?!」


 駈は戦慄した。


「速いねぇ。しかも、だ。その速さを、全力でセクハラに無駄使いしている。そして、そんな動きをした存在が避けきれないほどの速さでビンタするなんて、まさに神の左手だ」


「真面目に解説しないでくださいっ」


 駈は今の光景を、自らの脳内に保存する。

 特に指を沈めたあたりを念入りにだ。

 哀しいかな、彼もまた健全な十代の男子諸君であった。

 戦闘に活かすため、戦闘に活かすため。

 駈は言い訳するように、頭の中で呟いた。

 戦闘のどこで活かせるのかは、甚だ疑問ではあるが。

 

 ビンタされた頬をさすりながらも、駈を見ていたその存在はやがて、納得したのか一つ頷く。


「イタタ。ええ腕の振りじゃわい。いやしかし、ふむん。確かに話に聞いていた面影があるな。では、少し仕合おうか」


 立ちあがって腰の刀を抜き、その切っ先を駈に向ける謎の存在。

 どうでもいいが、今の自分の言動で面影があるとは。

 自分のことについて、一体どんな話の伝わり方がなされているのか、そこら辺が非常に気になった駈。


「えぇ?!ちょっといきなり過ぎません!?」


「いきなりではあるまい。ダンジョンの最深部に着いたら、そこのボスと戦うことになるのが普通じゃろうが」


 ダンジョンのボスは、喋らないしセクハラもしないのでは、と駈は思う。


「いやぁ、まあそうですけど。こう言葉が通じるなら話し合いで何とか…」


「ふん、腑抜けたことを。言っておくが、逃げ場はないぞ。わしと戦ってわしに認められるか勝つかしなければぬしはここから出られん」


 謎の存在はそう言って、顎をしゃくる。


 駈は後ろを見た。

 いつの間にか駈とそれ以外の者たちとで、半透明の壁によって分断されていた。

 鈴たちが壁を壊そうと、殴ったり、魔法を撃っているが、びくともしないようだった。


「何やら後ろの者たちが頑張っているようだが、助けは期待しないことじゃな。人間にあれを壊すことは決して叶わんよ。本業のものには劣るが、今のわしでもあれくらいのものは作ることができるわい」


 目の前の存在があの壁を作ったようだと、駈は悟った。

 戦いは避けられないかと、半ば諦める。


 しかしその前に、駈は聞きたいことがあった。

 答えてくれることはないだろうと思いながらも、ダメ元で問いを投げる。


「どうやら応じるしかないようですかねぇ。でも、その前に1つお聞きします。あなたは何者なんですか?」


 意外にも、答えはすぐに返ってくる。


「わしか。特別に教えてやるわい。わしはおぬしら人間が゛旧きもの゛と呼ぶ存在よ」


 ゛旧きもの゛と名乗った存在は、刀を振りかぶりながら駈に迫ってきた。



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