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勇者ですが闇属性です  作者: ノウレッジ
第1章
12/14

1-11 抜剣

穢れを祓え。

罪を裁け。

灌げぬ汚濁がそこにある。

そら見えよう、悪がそこに。

 その衝撃は山道を急いでいた琥珀達にも伝わった。

 大地を揺るがす大きな衝撃、天地が狂ったかのような縦揺れのインパクトだったと誰もがその一瞬を証言する。


「何だ!?」

「じ、地震!?」


 英語で言えばアースクエイク。

 この世界でも地震という現象は存在するので、発生してもおかしくは無い。実際、琥珀も瑠璃もこちらに来てから何度も経験していた。

 しかしこんな激しい揺れを感じたのは初めてだ。どこかで地割れか津波でも起きるのではと思う程の大地のシェイクに、荷台で瑠璃と遊んでいた子供達も今にも泣き出しそうな顔をして不安がっている。

 その時、ゴッシェが何かに気付いた。


「――ノワール殿、あれを!」

「あれは、<トレント・ラシィズ>か!?」


 ゴッシェが指差した方向は、この馬車の進行方向。即ち、リチム村のある方角である。

 リチムの方角にて、山のように巨大な木の根がうねりを上げて屹立した。嘗てその魔術を1度だけ見た事のある琥珀はピタリと名前を言い当てた。

 <トレント・ラシィズ>は地属性の上級魔法であり、大樹の根を自在に操る。森の精の怒り、という名の通り、怒り狂ったかのような木の根の乱舞には随分と辛酸を舐めさせられた記憶がある。wrathは非可算名詞だろ、というツッコミをしたいと何度思った事か。

 だが問題はそこでは無い。あれを自前の魔力で発動するには相当な腕前の魔術師が必要になるし、触媒を用意するにしても高価な物が必要になる筈だ。

 そしてシンシャでそんなものを用意できるとなると、必然的に魔術師の正体は割れて来る。


「ゴッシェ殿、急いでくれ! 先を越された!」

「はい!」


 馬に鞭を打ち、馬車を再び走らせるゴッシェとノワール(琥珀)。荷台で子供達を必死にあやす瑠璃や仲間の騎士、年長の子供達の声が聞こえる中、琥珀は必死に祈った。

 どうか間に合ってくれ、どうか無事でいてくれ、と。


 リチム村に到着する、15分前の出来事である。



  ☆



 リチムの近くの大樹の陰に馬車を停める。幌は掛かっていないとは言え、こんな大きな乗り物で近付けば見つけて下さいと言っているようなものだ。

 まだ村まで数百メートルは離れている筈なのに、既に鼻に鉄臭い空気が入り込んで来る。


「ブランシュ、俺と来い! ゴッシェ殿達は子供達を守ってくれ!」

「オッケー!」

「はい、ご武運を!」


 勢いよく琥珀は御者台から飛び出し、その後ろをくノ一スタイルで固めた瑠璃が続く。瑠璃自身は戦闘には不向きな性質だが、姿を消せるし物質に干渉できる事には変わらない。

 目覚めてから未だ引き抜かぬ両刃の剣を左手に携え、瑠璃を背負って加速しようとした、その時だった。


「っ!」


 一瞬の判断、反射にも等しい速度で琥珀は背中の瑠璃を突き飛ばし、半歩後ろへ下がった。

 1秒の遅れも無く琥珀の頭があった場所を、鋭い短剣・スティレットが通過。反応が遅れていたら、兜の穴から少年の目に突き刺さっていただろう。


――まだ距離があるのに、もう敵の手が!?


 素早く更にもう1歩後ろへ下がり、敵の姿を見据える。

 暗殺者もまた高速でその場を去ったが、琥珀達の瞳にはその存在がしっかり留まっていた。

 敵は全身を漆黒の布で覆い、眼帯を着けていた。ここが日本なら忍者と見紛うような出で立ちであり、それだけにスティレットという西洋の武器が異様な装備に見える。


「忍者は幽霊とは言え、もう間に合ってるんだがな……」

「キャラ被りはやめて欲しいよね」


 注目すべき点は忍者の眼帯に黄色い悪趣味な模様が彫られていた点である。先日、このリチムで邂逅したガラの悪い騎士の鎧の装飾、それとよく似ていると琥珀は感じていた。

 周囲を警戒する転生幼馴染コンビに対し、ゴッシェはかなり難しそうな顔をして部下達に指示を下す。


「……ヘリオドール、隠蔽と索敵の魔術を! デンベリは敵が近付いたら<ハウリング・アンカー>で子供達を守るんだ!」

「「了解!」」


 その表情には焦燥が浮き出ており、得物である短槍を握る手には強い力が込められている。


「どうした、ゴッシェ殿。敵はそれ程のやり手か?」

「やり手なんてレベルじゃありません、あの愚王は本気でリチムの皆を殺す気です!」

「何……!?」

「あいつは、マフィックの部隊の隊長です!」



  ☆



 一刻の猶予もならないとの事で念入りに馬車を隠蔽し、琥珀は自身に五重に加速を付与してゴッシェを担ぎ、村へ走り始めた。

 本当はゴッシェにも残っていて貰いたかったのだが、隠蔽魔術は掛ける対象が増えると精度が落ちる。子供12人に術者の部下と別の部下の合わせて14人、これが魔術師の部下ヘリオドールの限界だったのである。

 瑠璃は琥珀の肩に捕まる形で追随しており、一方のゴッシェは敵に寝返りがバレると今は不味いとの事で鎧は脱いだ。どうせ僕の顔を知ってる奴なんていません、15人目になって発見される目印になる方が不味い、との事だ。

 全力で走る琥珀に、ゴッシェが敵の詳細を語る。


「マフィック――マフィック・ガンツはこの国の王の懐刀です。王の右腕であり、軍事や財務はほぼマフィックが動かしている、つまりこの国のもう1人の支配者です」


 そのマフィックが国軍の中でも特に重用しているのが、彼の息のかかった直属部隊『神の鉄槌』という1,000人程の構成員から成る2つの師団だと言う。


「マフィックが総隊長を務める『神の鉄槌』は500人ずつ4つの大隊で構成されていて、それぞれに武勲を立てていたり暗殺に秀でていたりする分隊長がいるんです。

 先程現れたのは恐らく、その暗殺を得意とする第3部隊分隊長、アンブロージョ・ガブッシかと」


 あれがもう3人か。

 琥珀は兜の下で人知れず呟いた。

 自分でも言ったかどうか分からない程の小声にゴッシェが反応する事も無く、話を続ける。


「ボーイト兄弟、暗殺教団ガブッシ一族、フライアーノ伯爵、名立たる戦力の中であっても、普段は切り札であるが故に彼らは表には出て来ない。それが暗殺を得意とするアンブロージョ・ガブッシなら猶更です」

「……つまり、そのアンブロージョって人が出て来るって事は、残る3人の隊長も来てる可能性が高いって事?」

「確実と言っても過言ではありません。恐らく、何かが愚王の癪に障ったのでしょう。村1つを滅ぼすために畑を焼いたり家畜を全て没収したりするのは、あの穀潰しの常套手段。恐らく今回も過剰戦力で嬲り殺しにするため、『神の鉄槌』を動かしたのだと思われます!」

「クソ猿め……!」


 最早一刻の猶予も無い。否、或いは時既に遅しかも知れない。

 琥珀は両脚に力を入れて大地を強く踏み締めると、地面を抉る程の勢いで跳躍にも等しい疾駆を始めた。


「ライオンは兎を狩るにも全力を尽くすなんて言うけど……!」

「これでは全力どころか袋叩きだ! 最早これは憂さ晴らし、狩りとは呼べるものか!」


 走り抜ける道すがら、やがてポツポツと血だまりに倒れているヒトが現れ始める。

 瓦礫に埋もれている人、白目を向いて街路樹にもたれ掛かっている人、眠っているかのように道端に倒れている人……。全員が全員、明らかに致死量の血を流し、その場でピクリとも動かない。

 もしかしたら生きている人がいるかも知れないが、残念ながら今は確認するだけの時間が無かった。






 走り続ける事数分、昨日までの探索に加えて全速力で長時間疾走という無茶が祟り、琥珀はかなり息が上がり始めていた。

 いくら鍛えたとしても、魔術で肉体を補強したとしても、琥珀は突き詰めれば人間なのだ。有り触れたチート主人公のようなズバ抜けた筋力も無いし無敵の身体を持っているワケでも無い。『人間の鍛えられる先にある肉体を、魔術で一歩だけ抜きん出ている』、それが彼だ。

 嘗てはここに神の加護があった。だがどういう事か10年の眠りから目覚めた時、琥珀から神の加護は消えていたのである。

 何故消えたのかは分からない、だが分からないからと言って神の加護がまた付与されるワケでも無い。

 以前より弱くなった事を自覚しつつ、それでも琥珀は剣を取る。

 何故なら剣を取って戦う事こそが、この世界での存在意義だから。


「こは……ノワール、あそこ!」

「ああ!」


 筋肉の上げる悲鳴を無視し、瑠璃の指差す先に目をやる。

 そこには剣を振り被った騎士に、今にも殺されそうになっている男性の姿があった。


「やめ、ろぉっ!」


 大地よ割れろと言わんばかりに琥珀は足を地面に叩き付け、一息に距離を詰めた。相手が反応するより早くゴッシェを抱えていない腕で全体重を乗せたジョルトブローを繰り出す。

 過たず黒い籠手に覆われた鉄拳は殺しを愉しむ騎士の横っ面を殴り倒し、「も゜っ」という悲鳴だか空気の漏れる音だかを残して瓦礫の中へと吹っ飛ばしていった。


「ぜぇっ、ぜぇっ! っ、早く逃げろ、あっちの方には騎士がいない!」

「あ、ありがとうございます!」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ぜぇ……、くそっ」


 泥だらけの一般人を逃がしてゴッシェと瑠璃を下ろす琥珀。

 とっくの昔に息は上がっているし、酷使し過ぎて体のあちこちが痛い。今すぐ横になれるならそうしたいくらいだ。

 だが、それは許されない。少なくとも今は、この村を襲っている騎士を撃退する義務がある。


(これも因果か、或いは俺がどうしようも無い災厄だとでも言うのか……!?)


 取り敢えずまた加速しようとするが、思いとは逆に肉体はこれ以上はもう走れないと訴えている。足がパンパンで、走りたくとも言う事を聞いてくれない。自分の身体はこんなにヤワだったのかと強く歯嚙みした。

 勿論ヤワなのでは無い、人体の限界を無理に超えようとして肉体がブレーキをかけているだけだ。


「ノワール、大丈夫!? 無茶だよ、強行軍に固い寝床、腹八分目にもならない食事。こんな生活じゃ目的を成し遂げる前にノワールが倒れちゃう!」

「それでも……、それでも俺には、戦う義務が……、ある!」


 過去の自分に琥珀は何度も問うた。どうして彼らを信用したと。

 根拠も無く悪党に心を許す、そんな浅はかな安っぽい信頼関係と友情ごっこの結末がコレだ。自分の所為だ。自分がガキ過ぎたからだ。

 何が勇者だ、世界に知らず滅びを齎す輩のどこが勇者だ! これでは目的と我欲を持って世界を攻撃する魔王の方が、百万倍マシではないか!!


「増長した、あいつらを根絶やしにするまで……」


 呼吸を整え、両足に力を入れる。


――大樹の魔術<トレント・ラシィズ>は村の外れ、古井戸の方から出ていた。

――もしあの巨大な根っこで避難民を地下空洞ごとまるまる外で叩き出していれば、確実にシェルターに避難していた人達が危ない!


「止まるワケには、いかねぇんだぁああああああああああ!!」


 再び自らに加速のコモンマジック<コモン・アクセル>を五重に付与し、黒い鎧の騎士は全力疾走を開始するのであった。



  ☆



「ノワール!!」


 ブランシュが止めるよりも早く、ノワールは巨木の根に向けて走り去ってしまった。

 あっと言う間に見えなくなった彼の背中に手を伸ばすが、走る事のできない幽霊の体では虚しく空を切るので精一杯だ。


(琥珀は、何も悪くない。なのに……私の声は届かない……)


 死別してからの2年という歳月の所為だろうか、瑠璃は琥珀との間に言いようのない壁を感じていた。元の世界で半年、こちらの世界で1年半、そして眠り続けた10年を加えれば正しくは12年。

 12年も月日が経っていれば人の顔は忘れるし、どんな美しい思い出も残滓となる。

 琥珀は実年齢26歳だが、精神的には16歳の領域をまだ出ていない。

 一方で瑠璃は同じ26歳だが、琥珀と異なり26年分の記憶を保持し精神的にも成熟している。しかし10年の時を眠る琥珀の傍で看病に費やしたため、16歳からそう離れていないと本人は考えていた。

 だが2人の間には決定的な違いがある。旅をした時間だ。

 瑠璃はタイムアタックのようにアサシンとして最低限のスキルで魔王の暗殺を成功させた。期間は半年にも満たない。

 一方で琥珀は数ヶ月の修業を経て、合計18ヶ月もこの世界で戦い抜いた。効率より経験を選んだ、2人の違いは大きいだろう。


「……バカ」


 どうしてそうなんだ。

 どうしてそう責任を取りたがるんだ。

 どうしてそう死に急ぐような事をするんだ。


「ゴッシェさん、ノワールを追って!」

「了解!」


 自力で素早く移動できない、そんな我が身が恨めしい。

 ゴッシェに捕まった瑠璃は、死にたがりの幼馴染の消えた背中を強く睨み付けた。



  ☆



 村の外れ、リチムのシェルターの近くには100人近い『神の鉄槌』の騎士が集っていた。

 本当はこの場所に400人を集めたのだが、思った以上に手応えの無い仕事だったためにその内300人は残党狩りとして散らばってしまったのである。


「ふん、嘆かわしい。栄光あるファーゴ陛下のための任務だと言うのに、遣り甲斐が無いとは何たる腑抜けた連中よ。やはり亜人は百害あって一利なし、一刻も早くこの大地の上から掃討すべきだ。そう思わんか?」


 煙草に火を点けつつ、マフィックは近くの部下に問う。


「ハッ! 自分もそう思います!」


 その言葉に異を唱えるような輩はいない。マフィックの、そしてサルヴァトーレと同じ思考をする者が集められた部隊、それが『神の鉄槌』なのだから。


「ふむ、帰ったら陛下に『神の鉄槌』とは別に亜人殲滅の部隊を編制する事を提案しよう。陛下も快諾して下さる筈だ。何せ陛下の兄と姉……いや元兄と姉か、その2人は亜人と結婚したと聞く。陛下の血族に汚点を混ぜるとは何たる愚かな、その汚点が残る可能性は排除するべきだろう。子供だろうが関係無い、亜人死すべし、慈悲など有り得ん」

「隊長! マフィック総隊長!!」

「何だ騒々しい。我は今、この国の未来をより良きものにしようと考えていてだな――」

「何者かが猛スピードでこちらへ接近中! 警備の間を止める間も無くすり抜けこちらへ! ガブッシ隊長でも追いつけません!!」

「何ぃ、どういう事だ!?」


 暗殺者、と言うか忍者はその戦闘カラーとして速度や瞬発力が求められる。己が目を掛けた分隊長であるガブッシともあれば、単純なスピードはマフィックを遥かに上回っている。

 それなのに追いつけないともなれば、確実にその何者かは相当な手練れの加速魔術を使える事に他ならない。即ちそれは、突貫して来ている者がアンブロージョ・ガブッシ以上のアサシンである事の証拠であった。


「マァアアアアアアフィックゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ!!」


 部下に更なる誰何を求めようとしたマフィックの耳に、声をモザイク加工する魔術<ボイス・エラー>で罅割れた怒声が届く。

 顔を向けるより早く、体重の乗った力強い拳がマフィックの顔に刺さった。

 言うまでも無く琥珀の振るった鉄拳であり、皇帝の懐刀はそのまま数メートル先へと勢いそのままに吹き飛ぶ。


「れ、<レデュース・ショック・ダメージ>ッ!」


 しかし腐っても国の軍事を担当する者。着地より先に痛みとダメージを緩和する魔術を行使して体勢を整え、しっかりと着地して黒鎧の襲撃者を見据えた。


「ぬぅ、あの黒い鎧は先日の報告にあった逆賊かっ!」


 マフィックは先日上がった報告にあった、黒い鎧を着た凄腕の武人がいるという事を思い出した。セレナ救出の一件で、黒い鎧を着た男によって5人が叩きのめされた事は、少なくともこの男の耳には入っているようである。

 だが、そんな事はどうでも良かった。琥珀の目には、兜越しにとんでもないものが映っていたのだから。


「……ラバスタ、さん?」


 琥珀は、自分の口から出た音が数日前に会っていた人の名だとは思えなかった。否、脳がその名前を理解する事を拒否していた。

 セッカ・ラバスタ。黒猫の猫人族であり、年若いセレナの保護者でもある。

 その彼女が、嗚呼、見紛う筈も無い彼女が、袈裟斬りにされて血塗れで倒れているのだ。

 絶命しているのは、もう脈を計るまでも無かろう。深々と切り裂かれた断面から覗く肉が、とても痛々しい。


「下郎、その畜生亜人の知り合いか? 腕に覚えがあるなら、付き合う相手は選ぶべきだぞ」

「何?」

「まったく、次に亜人の知り合いが出来たらよく言って聞かせておけ。我々に斬られる栄誉を知っているなら、殺される前に自分で血抜きをしておけとな。まったく、亜人の返り血は臭くて堪らん」

「……」

「こいつらの価値は我々に斬られ嬲られる事だ。それを理解せず、こんな痩せて臭い血を貯め込むなど愚かしいにも程がある。馬鹿とはこういう奴らのためにあるのだろうな」


 何を言っているのか、琥珀には分からなかった。

 否、言っている内容は分かる。だがマフィックの語る内容を理解できなかった。したくなかった。

 もしマフィックの言っている事を理解したら、きっと自分の中の何かが崩れてしまうだろうから。

 震える声を絞り出しながら、少年は問うた。


「何故……、何故こんな酷い事ができる。彼らは日々を生きるのにも苦しむ小さき者、(かそけ)し者。わざわざ手を下さずとも良かったハズだ。なのに何故……っ!」

「何故とは異な事を」


 はぁぁ、と大仰な溜息を総隊長は吐く。

 周囲の部下達は琥珀の質問にぽかんとした様子だったが、やがてクスクスと、或いはゲラゲラと嗤い始めた。


「全てはこの帝国の皇帝陛下のご意志だ。陛下が望むのなら我々は何人でも殺す。特に亜人等という下らない劣悪な種族に、何故そのような慈悲が要る? 彼奴らは息を出来るだけでも陛下に感謝し、1日に1人は首を対価に差し出さねばならぬ下等な者共よ。

 その責務を放置し、ましてや陛下がその物珍しさを思い出して目に掛けた白い畜生亜人を匿うとは万死に値する。よって正義の鉄槌を下したのだ。この程度も理解できぬとは、何とも粗末な頭脳よな」


 ハン、とマフィックが鼻で嗤ったのを契機に騎士達の嘲笑もより大きくなる。

 琥珀はまるでそれが当然のように行われている異世界に――実際に異世界なのだが――迷い込んだような錯覚を覚えずにはいられなかった。

 何なのだその理屈は。どういう理論から導かれるのだ。こいつらの精神は、どういう環境で育ったのだ。

 疲労と酸欠でクラクラする頭を回転させながら、ただ1つだけ分かった事が口から、半ば無意識的に零れる。


「それが真実なら、この国は……、汚物にすら劣る……っ」

「不敬な! 貴様今何と言った、陛下の帝国を貶すとは一族郎党のみならず同じ町の住人を極刑にしてなお余りある大罪だぞ!!」


 国を馬鹿にされた事がそんなに腹立たしいのか、琥珀は頭の隅、どこか遠い所でそんな事を考えていた。

 そしてこれ以上考える前に、琥珀は腰に刺した剣に手を掛ける。もう何も考えたくない。こんな自分の知る世界と乖離しすぎた環境に脳味噌を浸したくない。


「俺は10年前、あのクソ猿に見切りをつけるべきだった」


 チャキン、とゆっくり刃を引き抜き、左手を添える。


「クソ猿だけじゃねぇ、あいつら全員だ。どこかで見限れば良かったんだ」


 正眼に構えた剣に、怒りと力を込める。


「そうすれば、こんな国は生まれなかった。彼らを苦しめたのは、ラバスタさんを殺したのは――この俺だ。死んだヒトは蘇らない。だから――」


 白銀の刃が光を浴び、キラリと輝く。

 そして。


「償いにお前ら全員、ブッ殺してやらぁああああああああああああああああっ!!」


 全身のバネを使って、黒い鎧の男は、飛び出した。



To be continued

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