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勇者ですが闇属性です  作者: ノウレッジ
プロローグ
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0 序章

少年は剣を取った。

仲間と共に魔王を撃った。


ただ今思うのは。

それは何の、ために……?

 邪悪、と聞くと人は何を思い浮かべるだろうか。

 吐き気を催す邪悪? カリスマの無い悪はいけない。

 悲しき悪役? 彼らには救済が必要だ。

 ダークヒーロー? 埋められた欲求の昇華かも。


 では……、真なる意味での邪悪は、ご存じだろうか。捻じ曲がった、悪と断定できる心のソレを。



  ☆



――此の世界に光と闇あり



 もうもうと上がる白煙の中、改めて己の得物を握り直す。大丈夫だ、神の加護を受けたと言われる聖剣は刃毀れ一つとして見せていない。

 辛うじて前が見えるくらいに視界が晴れる。漆黒の鎧を纏った偉丈夫も無事だ。


「はぁ……、はぁ……っ! まだ、倒れないか……!!」


 あれこそ……アイツこそが旅の終着点。18ヶ月前にこの世界に呼び寄せられた原点。元の世界とこちら側との接触点。

 大丈夫、まだやれる。共に旅をしてきた仲間達が支えてくれている。


「だが魔王……、俺はまだやれるぞ?」

「…………」

「無口な奴だよ、本当にお前はっ」


 五度、この戦いの中で大技を解き放った。いずれも必殺の一撃。山を砕き、海を裂き、空を割り、地を断ち、時すらも貫く。

 そしてそれらを全て、僅かに上回る威力の大技で返された。

 ショックを覚えなかったと言えば嘘になる。

 だが、確かに手応えはあった。間違いなく、魔王はこの身が放つ秘技を恐れている。そうで無くては誰が防ごうとするものか。本当に取るに足らないのならば、奴は同じタイミングで技を撃つ必要など無い。



――の世界に光と闇あり



 頭の中に、ある町の教会で聞いた言い伝えが響く。長くあの町に居たため覚えてしまったのだ。

 ふうっ、と大きく息を吐いて呼気を整える。

 使うべきは第六の、最後の一撃。他の五つを身に修めて初めて体得した究極にして無二、完全にして無限の最終奥義。

 チラ、と煙が晴れ切らない内に後ろを見る。

 そこにはこの戦いの中で倒れた仲間達がいた。

 剣士がいた、魔女がいた、盗賊がいた、僧侶がいた、狩人がいた、傭兵がいた、悪党がいた、半人がいた、天使がいた。

 その全てが紡いでくれた、この体。決してあの黒き悪魔を打ち倒すまで倒れない。



――光と闇、二つは常に一つの表裏



 込める力の源は、光。

 其はただの光源に非ず。人々の希望を映した世界の道標である。


「ふぅ……ぅうううううううううううううっ!!」


 呼び起こすのは星々の息吹。大いなる神の力。邪悪を払いのける聖なる輝き。

 終わらせる決意をここに。魔王によって苦しむ世界に終止符を。



――されどこの世の光と闇は限りあり、彼方の世■■■■■



 伝えられた伝承は、一部が欠落していた。それでも、それから生まれた讃美歌が好きだ。その歌を美しく奏でる人々が好きだ。その歌に憧れ一生懸命練習する皆が好きだ。人間が好きだ。毎日を我武者羅に生き汚く、されど懸命に生きる彼らは美しい。


「これで終わりだ、魔王。俺が勝って世界に平和を取り戻すか、お前が勝って世界が闇に呑み込まれるか、勝負だ」

「…………」


 剣に束ねる其れは星に住む人々の息吹。輝く希望、命、明日への一歩。それが一つになり、山も海も空も地も時も超えた剣撃を纏め上げた、最後の究極の一撃を生み出す。

 その名は星すら穿つ奥義。神の聖剣だからこそ出来る最後の技だ。

 正眼と言うには愚直なまでに真っ直ぐに、まるで祈るかのように剣を眼前に構え光を貯める。己の魔力が純白の輝きを放ち、闇を絶つ希望を証明するかの如く星々の輝きが集まった。


「……」


 対面する魔王もまた同じ。この世の夜と影を全て溶かし込んだかのような黒い輝きを、軍馬ですら両断しそうな大剣に込める。



――故に神は■■■■■。その■■こそ光であるが故に



「行くぞ。これが五つの刃の全てを極めた、俺の最大技!」

「…………!」



――勇者と魔王は、即ちと光と闇は悪しき■の導き



 聖剣を大上段に振り上げ、最も天に近い位置へ。星の燐光が、神の愛が、最大に満ちたその時こそ、この技が真価だ。煌めく星の輝きが未来を予言し、悪しき闇の運命を切り裂く、究極の剣だ。


「オォオオオオオオオオオオオ! <スターライト・ディバイナー>ァアアアアア!!」

「…………!!」


 ドズン!と床を踏み砕く程に力強い踏み込みと共に、気合一閃の剣の振り降ろし。輝く白光の奔流は、過たずに魔王へと向かう。

 魔王とて黙って喰らうワケも無く、タールのように底の知れない黒の奔流で迎え撃つ。

 白と黒、相反するそれらは真正面から衝突し、しかして混ざり灰色にはならない。それらは混ざらない、混ざり得ない。何故なら光と闇は常に相反するから。一つにならないから。


「あ、ぁあああああああああああああああああああああああ!!」

「…………!!」



――■の手によって永遠に輪転する



 ならば残るのはただ衝突あるのみ。押し負けそうになる光を己の全身の力だけで懸命に支える。魔法の鋼で拵えた鎧はとっくの昔に鉄クズ以下になっていて、剣を握る手は炭化寸前、石畳を踏み締めるのは既に素足だ。とっくの昔に血まみれになったその体は、しかし上げる悲鳴を抑え込んで向かい合う。

 負けてはならない。一年半の旅路で得た仲間、出会い、それら全てを魔王は切り捨てて踏み躙って来た。この世界にも生きる人がいて、そこに命があり、ドラマがあった。

 全ての上に立った者には確かに下らない物だったかも知れない。だがその場で肉眼で網膜に焼き付けて来たからには、それを否定させたくないという気持ちがある。


「っ! あぁああああああああああああああああああああああああっ!」


 指の爪が割れて骨が折れる音がする。魔力をビームに上乗せした。

 石畳が割れて足に刺さった。更に魔力をビームに上乗せした。

 吹き飛んだ瓦礫が腹を抉り肉を削った。更に更に魔力をビームに上乗せした。

 頭の中に次々と痛覚信号が伝わり、それをノイズと断ずる。今必要なのはそんな物じゃない。あの漆黒の鎧を纏った巨漢、魔王を打ち倒す事のみ。勇者として数多の命を背負うのならば、この体は血潮では無く希望で出来ている。希望潰えぬ限り、この肉体に敗北は刻まれない!



――この世の無限の■■は決して限りなく



 穿て、第六の刃よ。

 山を砕き、海を裂き、空を割り、地を断ち、時すらも貫く。その極致に至って漸く見出したこの剣閃は、光を紡ぐ。剣でありながら収斂した先にあったのは命を守る活人の領域。

 悪しきを斬り、どうか天の彼方まで我が宿願を届けて欲しい。


「魔王」


 願うはただ一つ。



――■の大いなる手によって紡がれ続けるであろう



 嗚呼、どうか。どうか。


「お前の名前、こう見えてもお前の口から、ちゃんと聞いておきたかったんだぜ?」


 理不尽があっても良い。苦しみがあっても良い。嘆きがあっても良い。

 だからどうか、この命を引き換えにしようとも。


「だが、終わりだ!!」

「……!」


 この世界に、光がありますように。

 己の白が、彼の黒を塗り潰す世界で、少年は静かにそう願ったのであった。



  ☆



 魔力を完全に使い果たし、気が遠くなりそうなのを賢明に耐える。

 焼けて元から完全に色が変わった城の石畳は、白煙を上げるだけで何者の存在をも許していない。人影は欠片も無く、命の呼吸は眼前に無い。

 不気味な魔王の城の最上階、人間の城で言う謁見用の部屋での戦いは、終わりを迎えた。


「は、ぁ……っ! ぜぇ……、ぜぇ……っ!!」


 ドッと全身を呑み込む疲労。加護が無ければとっくに折れていたであろう剣を杖代わりに、辛うじて少年はその身を支える。


(勝った……、勝ったんだ……。やっと……、漸く魔王に……)


 肺が焼けそうな程に痛い。いや、実際に焼けているのかも知れない。全身のダメージを顧みず無茶ばかりをしてやっと倒した戦いだ、どこかイカレていても仕方ない。

 それでも……、それでもこれだけは声を大にして言いたい。己の旅の集大成を。長きに渡る戦いの結末に。


「か……、勝ったぁああああああああああああああああ!」


 せめてもの弔いに。倒れた仲間のために。

 少年は勝利の勝鬨を、高らかに叫ぶのであった。






 次の瞬間、彼の心臓を刃が貫く事も知らずに。






「っ!?」


 信じられない、というような瞳で後ろを振り返る。

 そこにいたのは、悪辣な笑みを浮かべた、敵の攻撃で倒れたハズの仲間、仲間、仲間。


「な、ん……で……」


 邪魔なんだ、と剣の持ち主は言った。

 テメェにくれてやる金は無ェんだよ、と最高の魔術師は言った。

 いつまでバカな夢を見てるの、と妖艶な美女は言った。


「お、まえ、ら……」


 魔王との戦いで無茶を繰り返していた体はとっくに限界で。少年は――相原琥珀は、口からドス黒い血の塊を吹き出し、冷たい石の床に倒れ込む。

 そこに本来あるべき万雷の喝采は無く、ただただ蔑むような視線だけが浴びせられていた。


「勇者、お前邪魔なんだよ。無駄にカッコつけやがって」

「お前みたいな夢想家見てっとイライラすんだよ。漸くブチ殺せて清々したってモンよ」

「アンタみたいな甘ちゃんに世界を引っ張られると迷惑なのよ」

「甘い、甘いんだよ。お前如きの下で満足する程、落ちぶれちゃいないんだぜ」

「神のお告げです。貴方に死を、と」


 多種多様な罵声が、琥珀に届く事は無く視界は閉ざされて行き。

 その脳裏に、嘗て教会で聞いた神への讃美歌の最後の一節を思い出しながら、闇へと沈んで行く。


(ああ、クッソ。何てこった……。コイツら、倒れたフリしてやがっ、た……っ!!)


 その脳裏に、一人の少女の姿を思い浮かべながら。


(せめてあの子に、もう一度だけ会いたかった、な……)


 決して叶わないと、知りながら。

 ヘビロテしまくる、神を讃美する伝承の後半をBGMにしながら。

 1人の勇者は、崩れ去る。











人よ、神を称えよ、神を崇めよ

その先に永遠の幸福がある

究極の平和を約束せし神のために

我らの無限と刹那はある

神よ、おお偉大なる我らが神よ

この星に尽き果てぬ光を齎したまえ

大体10分くらいでサラッと読める6000文字を目指す所存

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