8 もう一度空へ
「はああ」
かあくんは呆然とキウイ先生の去っていった方向をみていました。一瞬で消えていった。まるで飛ぶように。ああ、飛びたい。飛びたい。
ずみ先生は翼をぽんと叩きました。
「あれじゃ!」
「へ?」
ずみ先生はニヤリと笑ってかあくんを見ました。
ある昼下がり、先生と かあくんは、先生の家に来ていました。
「あやつが帰ってきてから聞いたのは、それは自転車という乗り物であり、空を飛ばない鳥たちにとっての翼みたいなもんだといわれたんじゃ」
渡り廊下を歩きながら、かあくんは少し不安そうな顔で、
「え、でもそれじゃ空は・・・」
「まあ、ご覧」
突き当たりの扉をあけました。
そこには”翼のついた自転車”の姿がありました。
かあくんは ずみ先生の指示に従い、キウイ先生のところへ通いながら、筋トレを再開しました。翼ではありません。足です。足の筋肉をつけるのです。
自転車は足で漕ぐのです。漕いでプロペラをまわし、頭上の翼が風を受け止め宙に浮かぶのです。
すっかり体力も落ちていたので、落ち込みはしました。でも かあくんは希望に満ちていたのです。だって飛べるかもしれないのですから。
「まだまだ改良中のものでなあ」
見せてもらった自転車はカラスの体型に合わせて作られたものでした。
「理論でなら十分とべるはずなんじゃい。実験に付き合ってくれるものがおらんでな。私じゃあ年を取りすぎている。かあくん。それでもよいかの?」
かあくんは力強く首を縦に振りました。
なんども茂みに飛び込んだり、自転車が落ちて衝撃で壊れたりしました。でもかあくんは楽しそう。
春、かあくんは先生と一緒に青山峠に来ていました。もちろん自転車を漕いで。
「すっかり乗れるようになったのう」
先生は感慨深そうに、でもかあくんは、
「はい」
爛々と目が燃えています。
あの時のコースが目の前に広がっていました。
ゴールには「小さな翼の会」の皆が待っています。
「行きます」
「おう!行くぞ。3・・・」
先生は左の翼に時計、右の翼に競技用のピストルを持っています。
かあくんはぐっとペダルにかけた足に力を込めます。
「2、1」
(もう一度速く誰よりも速く)
「パン!!」
(飛ぶんだ!)
大空へ。かあくんの自転車は空へ大きく羽ばたきました。
おしまい
かあくんが出てきたときに浮かんだのは
「車椅子のバスケットボール選手」と「怪我をして仲間を見送る渡り鳥」でした。
かあくんのような話を読むと、不慮の事故で障害を負った人を鳥に例えて理解を深めようとしている話だと思われる方も多いと思いますが、私は全く違っていていました。
人なら、車椅子や義手、介助犬などの大変だけど救いの手がある。でも鳥が飛べなくなったらどうなるんだろう。何かできないか。そう思って書いた話です。
もし、空を飛べる自転車があったなら、みなと離れることもなく一緒に飛び続けられるんじゃないだろうか?
かあくんは飛ぶ選手でしたが、空飛ぶ鳥にとって翼が使えないことは死に直結します。ああ、なんと人は恵まれていることか。いやそうではないかもしれない。辛く苦しい毎日を人は作ってしまっているのかも。
読んでくださってありがとうございます。




