二話、タテイシ
彼女、立石湊は放課後の教室に一人でフルートの練習に勤しんでいた。
この学校は、田舎なだけあって全校生徒が少なく、それによって部活動の数も少なかった。運動の苦手な元美術部の彼女は文化部が吹奏楽部しかないということを入学してから知り、その当時は随分と落ち込んだ。また、部活動の数を絞っても部活あたりの人数が少なく、いま彼女が所属して居る吹奏楽部も彼女を含めて9人しかいない。これではあまりにも少なく、大会には出れない有様だ。
しかし、今では彼女はこの人数が少ない部活をいたく気に入っている。この西日の差す放課後の教室を一人で貸し切る事ができるからだ。だから彼女は部活動の時間帯でちょうどいい具合に日が差すこの季節が好きだった。また、弱小校であるために練習もそこまで熱心ではなく、延長する事なくほぼ毎日同じ時間に部活が終わり、帰れることも彼女にとってとても気にいる点だった。
今日も、十八時頃に部活が終わり、彼女は帰路に着いていた。彼女は他の部員とは反対側の方向に家があるため、下校はいつも一人だった。
ふと、昨日はこの時間帯に点いていなかったはずの下校道の街灯が、今日は秋らしいまだ夜とは言えない薄暗い夕闇を照らしていた。そのことに気づいた彼女は空を見上げた。
「空が、遠い」
思わず呟いたその言葉は、誰に聞かれるでもなく、その遠くなった空に吸われていった。