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序幕、眠気
「石炭をばはや積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと静かにてーー」
秋分も過ぎ、空気が冬の匂いを孕むようになったある日。
「洋行の官命を蒙り、このセイゴンの港まで来しころは、目に見るもの、耳に聞くものーー」
僕は夢うつつとなりながら彼女の声を聴いていた。
「今日になりて思へば、幼き思想、身のほど知らぬ放言、さらぬも尋常のーー」
その声は、非凡なものではなかったが、不思議と惹かれていた。
「日記ものせむとて買ひし冊子もまだ白紙もままなるは、独逸にて物学びせしーー」
彼女のその、琴のような声色は、まるで僕をーー
「養ひ得たりけむ、あらず、これは別に故あり。」