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死霊術師のレクイエム  作者: 神崎・R
第一章
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一話「平穏」

 ーー物語の始まりは数年前に遡る。



 ここは世界を12に分ける国家の一つ、サジタリ王国の王城の裏にある見晴らしの良い丘の上。

 16歳の誕生日を迎えたばかりの赤髪の少年は、この場所で体を地面に預け仰向けになり、雲の流れのようにゆっくりとした時間を過ごすのが好きだった。


 風が気持ち良い。吹き抜ける風は太陽の香りを運び、少年の鼻を擽ぐる。


 目は閉じているが、真上から感じられる太陽の光が時間を教えてくれる。結構時間も経ったしそろそろ戻ろうか? そう考えていると、遠くの方から丘を駆け上がってくる足音が聞こえる。その足音の主には大体想像がつくのだが。



「リヒト! またこんなところでサボってる。団長さんに怒られちゃうよ!」



 ーー予想的中である。



 黒髪をショートカットに纏めた幼馴染の少女、アルマだ。顔が美しいのは認めるが、性格に難がある。難があるとは言っても完全にリヒトの主観で、街の人々からの人気は高い。単にお節介なのだ。


「僕は別に怒られたっていいんだよ。訓練生ではあるけど、誰かと違って出世とか興味ないしね。アルマの方こそ、仕事サボってていいのか?」


 僕は面倒気にそう答えながら立ち上がり、服の汚れを手で軽く払う。アルマの言う事は正しい。確かに今は訓練の時間であり、訓練兵である僕は本来なら城内の訓練場で同士と腕を磨き合っているべきだ。


 一応、王国騎士を目指してはいるが、訓練は嫌いだ。



「今日はお店がお休みなの。サボってる訳じゃないんだから、リヒトと一緒にしないでよね」



 そんなことはもちろん知っている。アルマが働くのは街一番の品揃えを誇る道具屋であり、今日は定休日だ。それでなくとも、昔から人一倍責任感の強いアルマだ。仕事をサボるなんて考えにくい。

 何とか話を逸らそうとしたが健闘も虚しく、渋々城へと戻る羽目に。


 王国騎士を目指す訓練兵とはいえ、国側の管理はかなり甘い。それもそのはず、形上は軍を保持しているものの、戦争などの大きな争いはここ100年は起こっていない。この国は平和なのだ。

 平和が故に、騎士一人一人の管理は甘い。訓練兵にとっては、一応のところ毎日の訓練は義務とされているが、実質は「やりたい者がやる」といった状態だ。とはいえ、正式な王国騎士となれば給金も一般的な労働者と比べればそれなりに高額な為目指す者は多く、サボっているのはーーまぁ僕くらいなものか。


 長く平和が続いているからといって、不要という訳でもない。野党はそれなりにいるし、犯罪行為の取り締まりもあれば、モンスターだって退治しなければいけない。そして他国へ自国の力を誇示し合うことによって、均衡が保たれている。

 強力な騎士団を抱える国にわざわざ攻め入ろうなんて考えないしね。


 城へと戻ると、僕を見つけるや否や銀髪の訓練兵が不機嫌そうに近づいてくる。アルマと同じく幼馴染のカリアだ。まぁ幼馴染と言っても、三人とも同じ孤児院で育ったから兄弟同然なんだけどね。


 この平和な時代に孤児だなんて、割と不幸なことらしいんだけど、僕も他の二人も特に気にしていない。どうやら昔、モンスターの群れが街に攻め込んできたらしいく、それが原因だそうだ。

 両親のことはみんな顔も覚えていないし、このことについて深く知りたいという気持ちにもならない。



「またサボっていたのか、リヒト。誇り高き王国騎士団を目指す同じ訓練兵として恥ずかしいぞ! そんなことでいざ戦争になった時に王国を護れるのか」



 あぁ、暑苦しい。だいたい、いざという時っていつだよ。僕はカリアの主張にため息を返す。



「おい、リヒト! 面倒臭そうな顔しやがって。今日という今日は許さないぞ。剣をとれ! 俺が勝ったら明日から真面目に訓練に出てもらうぞ」



 そう言うとカリアはこちらに訓練用の木剣を投げて寄越した。それを気怠そうに拾い、片手で構える。カリアはそれを確認し、闘気を放ち臨戦態勢だ。さすがの威圧感だな。訓練兵の中で、一番王国騎士に近い男と言われているだけのことはある。



 ーー合図はない。



 カリアは大地を蹴り一気に距離を詰め、両手で持った木剣を凄まじい速度で振り下ろした。



 これを受けたリヒトは敢え無く一撃で地面に沈むーー。



 そう誰もが予想しただろう。片や当たり前のように訓練をサボりロクに顔も見かけない男に対し、攻撃を仕掛けたのは訓練兵一の実力者と言われる男だ。だがその予想は裏切られる。



 あぁ、面倒臭い。カリアの本気の一撃を、僕は片手で弾いて見せる。体勢を崩したところに、意識を奪わないように加減して腹部に木剣を叩き込むと、訓練兵一の実力者は一撃で地面に沈んだ。


 ーーリヒトは強かった。天賦の才というべきか、昔から剣の扱いは周りの誰よりも長けていた。



「くっ……それだけの力がありながら何故、真面目に訓練しないんだ。お前ほどの力があれば、王国最強である天導騎士団への入団も夢ではないと言うのに」



 そんなに悔しそうな顔するなよ。お前は十分強いって。



「僕は出世なんか興味ないんだよ。それにこの国は平和なんだ。いくら強くなったって、使い道なんか……」



 ーー!



 なんだ?


 普段……いや、生涯聞くことがない者も多いであろうその音と微かな熱を帯びた風が、僕らを瞬く間に包み込んだ。


 爆発? そんな訳がない。

 分からない。分からない分からない分からない分からない。だってこの国は100年も戦争が起こっていない平和なサジタリ王国で、ここはその王城内の訓練場でーー

 


 「各員戦闘準備ぃ! 正規の騎士は全員、敵襲に備えろぉ!」



 恐らく上官であろう、顔だけは薄っすらと記憶にある誰かが、そう叫びながら僕らの平和な日常を置き去りに走り抜けて行った。


 

 



 




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