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文集 H28

仮作

作者: 珈琲髭

 俺の名前は佐藤。学工生徒の三年生だ。

 昨日夜更かしをした所為か起きたら八時を過ぎていたので、慌てて自転車に飛び乗り、道路交通法を遵守しつつ学校へと向かっている。


 正直タクシーの一つでも拾えば朝から死にそうになることもないのだが、いつ来るか分からないものを待っていられる余裕はない。ついでに言えば財布の余裕もない。

 そんな訳で、三年前の受験で落ちた一般校の横を通り過ぎ、寝起きの心臓を容赦なく攻め立てる長い坂に差し掛かる。


 赤信号 俺の進行 Don't Go.


 一句詠んでみた。

 そんな事をしている場合ではなかった。


 時間が時間である為か、悠然と赤信号を渡る中学生達の姿はない。心が荒むので普段からも見たくはないが、ウォーキングに勤しむ中年男性や左車線を向こう側から自転車で走行してくる他校生徒もいない今は、無意識にその姿を探してしまう。なんだか取り残された気がして、少しばかり寂しくなるのだ。実際取り残されているではないか、という突込みは無視する。


 そんな事を考えていたら信号が青に変わっていた。白線をまたがるように停車していたので、車にとっては邪魔であった筈だ。気を付けなければ。

 当の車はこちらは勿論、反対車線にもいなかったが、こういうのは意識が大事なのだ。セーフティ教室はそこら辺を教えてくれなかったので、これはクラクションに晒されて身に付けた経験則によるものである。百聞は何とやらだ。


 などと考えて居る場合ではない。二個先にある信号は全力でこがなければ寸前で赤に変わる性格の悪い信号なのだ。急がねばならない。しかし歩道を走行する際は徐行運転が基本である。飛ばすに飛ばせない為、車道に降りるべく前後左右を一秒もかけずに確認し、車道に飛び出した。

 前輪が浮遊し、すぐさま側溝に着地する。


 と同時に、俺の腕はもげた。


 いやもげてはいない、もげるくらい痛んだ。

 自転車に乗っている時はいつも思うのだが、この段差は一体何の恨みがあって俺に衝撃を与えてくるのだろうか。直角ではなく45度でも良いじゃないか。

 持ち手をハンドルにくぐせて固定しても鞄は自由を求めて跳ねるし、ペットボトルはそれこそロケットの如くすっ飛んでいく。拾うのも手間だし何より危ない。それに心臓に悪い。固定するか鞄に仕舞えば良いのだが、生憎と体育着でパンパンになっているし、膨らんだ鞄に埋められた所為で籠に入れられる隙間はない。


 側溝に対する悪態もそこそこに全速力で信号を渡りきり、公園横の路地に入る。公園に備え付けてある時計を一瞥すると長針は「5」の数字を過ぎようとしていた。あと五分もない。急がなくては。


 路地の終わりの十字路で一時停止し、左右を確認する。左手の歩道から妙齢の婦人方が突進してくるので止まらざるを得ないのだ。ついでに振り返り、無人であることも確認する。時たま、プリウスでもないのに音もなく佇んでいた歩行者が急発進する危険があるからである。巻き込み事故は勘弁だ。

 今回はそれが杞憂だったにせよ、次は分からない。そろそろと左折し、またもや信号に捕まる。


 ……さて、大学生のような人達すら歩いていないというのは、一体どういうことだろうか。毛根のダメージを気にせず茶や金と彩鮮やかな頭をしている彼らは、総じて歩きスマホをしているので状況把握能力が幾分か低下しており、しばしば走行を阻害する移動型オブジェクトの一つと化している。いずこから現れ、いずこへと消える、そんな彼らの目的地は皆目見当もつかないが、その彼らも今はいない。


 なんともおかしな朝だ。




 校門に到着して気が付いたのだが、どうやら今日は休校日だったらしい。張り紙がしてあった。

 成程、誰ともすれ違わない筈である。


 帰宅後、更なる事実が判明した。どうやら、俺は一時間早い時計を見て行動していたようだ。その時計は八時五十分で、スマホは七時五十分となっていた。

 やはり人間、寝起きの頭で碌な思考など出来ないのだ。

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