14話 弟のデートを見守る姉妹たち
こんにちは、語り手です。
第一期目「キラメキDaughters http://ncode.syosetu.com/n3783dh/ 」の続編です。
裏側:あおい夢 http://ncode.syosetu.com/n5555dn/
でシリアス・わけのわからない文章で描いているため、
こちらではわかりやすく、面白さを第一に書いていきます。
第一期目は主に明日谷大和君が語っていましたが、
こちらではいろんな人が語ります。
物語は1話完結を前提。土曜日午前11時~12時更新予定です。
PCで見ている方は、インターネットブラウザを調整すれば、自由な横幅で作品を読めます。
次の語り手は、前作主人公、明日谷大和君の姉である留奈ちゃんです。
高校1年生で胸は妹より小さいけれど、しっかりもの。
何しろ両親は仕事で海外にまた飛んで、一家の大黒柱なのです。
ではよろしくお願いします。
「じゃあいってらっしゃい。大和」
「う、うん」
「楽しいデートしてね、やまにぃ、なんだったらラブホテルで」
「こら、美鈴! どこでそんな言葉を覚えたの」
明日谷大和は私の弟で雪丘中学校2年生の男子。須田愛良ちゃんに告白して、二人は恋人となった。
今日は弟も愛良ちゃんも緊張して、まともな語りができないから、私、明日谷留奈が語る。弟は外に出た。妹が私の腕を握る。
「留奈姉、私たちもこっそりついていこう」
「全く悪い姉妹ね。弟のデートを見学しに行くんだから」
「いいじゃん、楽しみじゃん。やまにぃが愛良ちゃんとどんなデートをして、けんか別れをするのか」
妹は私から離れて靴を履く。服装は薄い黄色がほんのり入ったワンピース。 私は藍色のブラウスに赤いネクタイ、紺色のスカートとルーズソックス。
「早く、早く、留奈姉」
「わかった、今行く」
弟のデートを見学するなんて、何が起きるかわからないから楽しみ。
――え、私に彼氏はまだいないよ。作るよ、絶対に。妹は数人の男の子から声をかけられているようだけど、断っているんだって。はあ、いいなあ。
も、もう、私の話はいいからほ、ほら、弟の話に切り替えるよ。弟と愛良ちゃんは夢路駅で待ち合わせを決めている。弟がたどり着くと、ちょうど愛良ちゃんもたどり着いていた。
「大和君」
「あ、愛良ちゃん……」
ああ、もうラブホテルで初夜を迎えそうな顔しちゃって。
――私はまだ処女です。ま、漫画を読んで、二人の顔を見て思っただけよ。わ、私のことはどうでもいいでしょ。
「留奈姉も彼氏を持ったら?」
美鈴が私の顔を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべている。妹は察しがいいんだよねえ。
「あんたも彼氏を持ったら?」
「私はいいよ、男なんて好きな時に作ればいいし、まだ私は遊んでいたいんだ」
「変わってるね、あんたは。普通の少女漫画なら、あんたの年齢で彼氏が数人いてもおかしくないんだよ」
妹はじいっと弟と愛良ちゃんの話に耳を傾けている。
「ふうん、美鈴も彼氏はいないんだ」
「いないよ、いい男がいないもん」
「それは同感、Jetsのジュン君みたいな子、うちのクラスにだれ一人いないし」
二人は手をつないで歩いた。ああ、いいわねえ。手をつないで歩くというのが。
「あら、美鈴、どうしたの、手をつないで」
「やまにぃがちょっとうらやましい」
「……うん」
妹と手をつなぎ、弟の行方を見守る。
「留奈姉、あの人、由良ちゃんじゃない? あ、今はアスナちゃんか」
愛良ちゃんの後を追いかける一人の女……いや、アルムの世界にいるはずの由良だ。髪の毛の色は違うものの、髪形や顔が由良にそっくり。あ、大和と愛良が付き合いだしてから、アルムの世界にいる由良は「アスナ」という名前に、愛良は「ココア」という名前に変わった。ごちゃごちゃになって、誰がしゃべっているのか、混乱を防ぐためだそうよ。私たちは由良に声をかけた。
「あ、あのう」
「え、私?」
由良が自分を指さす。
「由良ちゃんだよね?」
「どうして私の名前を?」
妹はじいっと由良の顔を見る。
「だって、夜になったらやまにぃの部屋に来て、アルムの世界へ連れていくじゃない」
「アルム? やまにぃって誰?」
声もアルムの世界にいるアスナ(由良)にそっくり。
「私の弟、明日谷大和よ。ほら、あそこで女の子と手をつないで歩いている」
「あんたたち、まさか弟君のデートを見学しにきたの? 私もなんだ」
「じゃ、じゃあ由良ちゃんは愛良ちゃんのお姉ちゃん?」
妹の頭をなでる由良。アスナと雰囲気は変わらない。
「そ、二つ上の須田由良って言います。君たちは?」
「明日谷留奈、こっちが美鈴」
「よろしくね、由良ちゃん」
由良は妹に抱き着いた。
「いやあ、人懐っこい。君は間違いなくモテるよ」
「はい、たくさんの男の子に声をかけられています」
私だって声をかけられたいけれど、胸が小さく女らしくないから、声をかけられないのかな?
――ありがとう。あなたにも素敵な出会いがあるといいわね。それとも、もう出会っている?
「ね、ねえ、大和に愛良ちゃんは?」
「あ、見失っちゃった」
「探すよ、でもばれたらおしまいだよ」
女のカンで、二人を見つける、絶対に!
「私はこっちだと思う」
「私はあっちだと思う」
「私はわからない」
む、意見が分かれた。由良がスマホを取り出した。
「電話番号を教えて、トックン(今でいうラ●ンのようなアプリ)でもいい」
「うん、ほら、私のIDを送った。何かあったら連絡だよ」
「そっちもね」
私たちは走る。
「なんか私たち、馬鹿みたいだね。やまにぃのデートを見るために必死になるんだから」
「いいのよ、バカで。弟の将来を大切に思うのも、あんたの将来も、私の将来をも見守って支えるのも、私たち兄弟だからこそできるでしょ」
妹は笑った。理解はしていないと思う。私も何を言っているかわからない。
「由良が見つけたって」
「ああ、留奈姉のカンは外れたね」
ムッと感じたので、尋ねた。
「じゃあ美鈴はどうしてこっちに来たのよ」
「私もこっちにやまにぃがいるんじゃないかって思って」
ふっと笑みがこぼれる。
「二人とも、遅い、ほらほらあそこ」
弟たちはショッピングセンターに入った。買い物ね。
「留奈姉、後で私も買い物したい」
「今行けば?」
「やまにぃたちと接したら、言い訳が大変だし」
私は肩を叩く。
「出会ったら、今日はチラシが入ったから買いに来たんだよ。適当に言い訳を作ればいいじゃない」
「あ、そうだね」
妹は手を振り、私たちと別れた。弟たちが妹と方角へ向かう。
「出会うかもしれないよ」
「私たちもついていきましょ」
12歳から18歳までの「キュンとみられる女の子」を目指すファッション店、「Cutie bunny」にやってきた私たち。そこに美鈴がいた。弟たちもやってきた。
「美鈴ちゃん、見つかるね」
由良が私の腕をぎゅううっと握る。とても熱い。顔が真っ赤、見ている私も熱が移りそう。
「見つかっても、適当に言い訳をすればいいわ」
愛良ちゃんがCutiebunnyロゴの入った桃色のシャツを取り出し、弟に見せる。弟は手を叩き、ほっこり笑みがこぼれる。わざとらしい。
「よかった、ちょっと不安だったんだ。や、大和君に褒められると、う、うれしくて」
「似合うよ、愛良ちゃん。かわいいもん」
堂々と言う弟。私が知っている明日谷大和はいない。
「ああ言ってくれる彼氏、ほしいね、留奈」
「うん」
今、気が付いた。私と由良は手を握っている。友達でもないし、もちろん彼女でもない。手を握らないと、震えが止まらない。
――百合だって? そんなんじゃないってば。
「美鈴ち」
私は口をふさいだ。由良があまりにも大きな声を出して手を振るから、愛良ちゃんにばれたら!
ほら、愛良ちゃんがあたりを向いた。私たちは隠れる。こっちの由良はアルムの世界にいるアスナ(由良)と変わりない。
「美鈴って、まさかいるのか、美鈴」
弟は声を出してあたりを振り向く。弟が右に向かうと、妹は左に逃げた。妹はどこにいるかわからない。Cutie bunnyにどんどん人が入ってくる。子供に服をせがまれて、仕方なく買うお父さん。嫌と断って子供を泣かせるお母さん。携帯電話をty勝手、写真を写すお兄さん、いろんな服選びに余念がない女の子。
「ぐるじい」
由良が大きな息を吐いた。
「ああ、ごめん」
妹が逃げてきた。よく見つからなかった、偉いぞ!
「留奈姉、危なく見つかるところだった、愛良ちゃんと目が合いそうになったよ~」
「いい服は合ったの、美鈴ちゃん」
「うん」
愛良ちゃんは買い物を済ませ、弟と手を握ったまま、喫茶店「まつほっこり」に入る。
「あ、二人とも大きなマンゴージュースを頼んだ、恋人専用のストローで飲むんだね」
「大胆だねえ、愛良も」
由良は私の腕をより強く握る。
「痛いって」
「ごめん。愛良がうらやましくて」
「妹を私の弟、大和に取られた気分?」
由良は首を横に振る。
「私は愛良の姉であって恋人でも好きな人でもないからね。ただ、一度会った男の子が妹と親しくなっていると、自分だけおいていかれた気分を味わうの。後もう一つ、私の知っている妹でないから、びっくりしている」
由良は視線を床に投げた。私は彼女の頭をなでる。
「友達に慰めてもらいなさい。男友達に」
「男友達で親しい子は、あまりいないな。慰めてもらいたいって気持ちもないし」
「じゃあ、わ、私でいいよ」
私は何を言っているのだろう?
「留奈姉の言い方、友達というより彼氏みたい」
「馬鹿言わないで!」
しまった! 大声を出して、慌てて隠れる私たち。
「どうしたの、大和君」
「今、姉ちゃんの声が聞こえたような気がして」
耳がいいんだから、あいつは!
由良が私を見て、微笑んでいる。
「留奈ちゃんもかわいいね」
「か、かわいい……のかな、私。人から言われたことがないから、恥ずかしい」
「あるじゃん、私は覚えているよ、留奈姉」
あなたも人からかわいって言われたことがある?
「かわいいから、今日から私は留奈ちゃんを“るなっち”と呼ぼう」
「るなっち……別にいいよ」
るなっち、友達は私をただの名前で呼ぶ。由良が初めてだ、私に愛称をつける人は。
「やまにぃ、真っ赤な顔を浮かべている」
弟と愛良ちゃんが向き合って、ジュースを飲んでいる。
「いいですねえ、ここにはあちこちカップルがいて」
私たちのすぐそばで、男が言った。息から紫色の煙を出し、もうもうと大きな化け物に姿を変えた。
形は体がハート形、頭もハートだけど、稲妻のような傷があり、瞳は三角形、手にはギター、吹き出しそうだ。
「留奈姉、これって」
「アルムの世界にいるクスミ」
「こいつは!」
悲鳴が聞こえる。私たち以外にも見えている。弟は愛良ちゃんを守るように手をつなぎ、その場から離れた。
物体はハート型の体型と顔、先端はギザギザに傷つけられた形、ハート型のギターを持ち、ジャンジャン鳴らす。
「ミセツケンジャネークソカップル」
うるさい、でも私の心が「うんうん」うなずいている。なんというか、あいつに共感してしまいそうだ。
「留奈姉、早く逃げよう――マナちゃん?」
「マナちゃんの声が聞こえたの、美鈴?」
「うん、士鶴ちゃんが新しい力を得て、そっちの世界でもドーターズになれるって」
弟がこの世界、いや、現実で女装するのか!
いや、女装でなくてキラナデシコという女の子に変わるのか!!
「ああ、貴様たち」
ハート型の化け物が、私たちを指さした。
「俺の前で堂々と恋人つなぎしやがって、許さねえ!」
恋人つなぎ? あたりを見ると、由良が私の右腕をにゅううっと握っている。こいつはまさか、友達と恋人の区別もついていない?
「あのね、私たちは」
「くらえ!」
奴は口から煙を吐いた。私たちはその煙に体を覆われる。臭いはないものの、前が見えない。
「お姉ちゃん、みんな」
「私はここ、美鈴、由良」
「どこどこ? いたあ!」
由良は私に抱き着く。う、泣きそうな顔に思わずキュンとした。煙は消える様子がなく、空と地上を濃霧のように覆う。
「煙、どうしてなくならないのだろう?」
「あいつが息を吐き続けているんだよ」
「うあああああああ」
悲鳴が聞こえた。私たちは駆け寄る。一人の男性がボロボロと涙を地面に落としている。
「どうしました?」
「あ、何でもない」
「そんな、どうして別れるんだよ」
「いやだ、私は悪いことをしていないじゃない」
あちこちで聞く言葉から、私は思った。
「ふられたんだね」
「なぜだ!?」
後ろに化け物がやってくる。泣いている男の人は私たちに声をかけないで逃げた。
「なぜおまえたちは別れない」
「だって私たち、付き合っていないし、この子は私の妹だし。ってかクスミのあんたがどうしてここにいるの」
「知らねえよ、気づいたらここにいたんだよ。ええい、お前、俺の前でいちゃいちゃしやがって」
奴は由良を指さした。後、ギターを抱えてかき鳴らす。
「お前たちの恋を殺してやる。聞けえ! 俺の歌ああああああああぁ――」
吹っ飛ばされた!
目の前には巫女姿に衣装を変え、決意を秘めた赤い瞳に髪の毛、扇子をもって私たちを守る女の子、いや――
「遅いよ、ナデシコ」
「ごめん、それと大和が言っている。やっぱり後をつけていたんだなって」
「ばれてた」
ナデシコは空を飛び、扇子をもっていやらしく踊る。
「愛良を探さないと」
「ここだよ、お姉ちゃん」
後ろを振り向くと、困った顔を浮かべている愛良ちゃんがいた。
「愛良、良かった」
由良が抱き着く。
「私、気づいていたんだからね、お姉ちゃんがいたの。でも黙ってあげたんだから」
「どうして」
ナデシコが奴を浄化した。早すぎ!
愛良ちゃんと付き合ってから、弟は何かが変わっている。いずれ、弟の口からあなたに向けて語ると思うよ。
「お姉ちゃんと大和君のお姉さんが、いい雰囲気だったんだもん」
「「え??」」
私は首を横に振った。
「私と由良はそういうのじゃないから」
「そう? すっごく仲が良かったよ、友達というより恋人に見えた」
「私はノーマル、この子がアブノーマル」
私は由良を指さす。由良はにた~っとネコ目で微笑み、抱き着く。
「アブノーマルでいいよ♪」
ナデシコは大和に姿を戻した。
「やまにぃ、愛良ちゃんの前で堂々と、ナデシコから姿を戻してよかったの?」
「愛良ちゃんにはもう、言っている」
「こ、こら」
弟たちに見られた。由良が私の唇にキスをした。私のファーストキスはお父さん。1歳とか2歳の話だよ。でも、恋人としてのファーストキスはたった今。
愛良ちゃんは「きゃああ」かわいい声を上げ、弟は目のやり場に困り、妹は口を開けている。
――わ、私はレズビアンじゃないからね!
■ 大和の覚悟(語り手:大和)
久しぶりに僕が語る。クスミがこちらの世界に現れた。僕は愛良ちゃんの手を握って逃げる。姉ちゃんや美鈴、それに由良も見つけた。やっぱりつけていたか。電話が鳴った。
「愛良ちゃん、ちょっといい」
「うん」
電話の主は……由良、いや、愛良ちゃんの姉も由良なので、アルムの世界にいる明日谷由良はもう一つの名前、キラアスナからアスナと呼ばせていただく。
「もしもし」
「大和君、大変だよ。そっちの世界にクスミが向かっちゃった。私たちはそっちに行けない」
「う、うん」
アスナは興奮しながら、一気に話しかける。
「アスナ、落ち着いて」
「う、うん、うん、うん」
私に代わりなさい、愛良ちゃんの声が向こうから響く。こっちはココアと呼ばせていただく。
「大和様、愛良とのデートは私も大変、喜ばしく思います」
「う、うん、ココア」
「ところで、大和様、空高く手を掲げ、輝け私の希望とおっしゃってください。姫様が修行を通し、そちらの世界でも変身できるように、力を蓄えましたの」
士鶴ちゃんが――
「ですので、今すぐ変身なさって、クスミを浄化してください。ナデシコ一人でもできますから」
「わかった」
愛良ちゃんが僕をじっと見る。
「盗み聞きしちゃった」
「……う、うん」
「がんばって、大和君」
愛良ちゃんが僕の手を握る。言葉はなかった。
「じゃあ、行ってくる――輝け、私の希望――」
俺は現実で私に代わった。なぜクスミがこちらの世界にやってきたのだろう?
お読みいただきありがとうございます。
次回は久しぶりに大和君が語ります。
愛良ちゃんと付き合って、でれでれな日々を送っているようですが……
そうでもないみたいですね、どういうことでしょうか。
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