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最後の女

 いつまでユウトと手を握りあい、見つめ合っていたのか。こんこんと扉がたたかれて、こちらの応答を待たずに扉は開いた。

 不作法なしぐさに私は驚いて、扉を開けた人物を見る。それは、本当に小柄な少女だった。そしてユウトと同じ黒髪黒目。一目で同郷と分かる外見だった。

三浦みうらさん」

 少女はユウトを、ミウラサンと呼んだ。ユウトは私の手を離し、少女をしかった。

「お嬢様の許しなく、部屋に入らないでくれ」

「ユウト、この人が王子の恋人なの?」

 私はたずねた。だが少女はずいぶん幼い。十三、四才ぐらいだろうか?

「そうです。ちなみに十七才ですよ」

 私の表情を読んで、ユウトは答える。

「一年前にこの世界に落っこちたらしいです。そして彼女は、王子との結婚よりも故郷へ帰ることを選びました。まだ親が恋しい年ごろですから。だから俺が連れ帰ります」

 つまり王子は捨てられたらしい。しかしそんなことよりも、

「ユウトも一緒に帰らないと駄目なの? ユウトは」

 私は言いよどんだ。このさきは言っていいのか分からない。誰だって故郷が恋しい。けれど、

「ユウトはここに残ってほしい。私のそばにいてほしい」

 彼の顔がじわりじわりと赤くなって、耳たぶまで赤くなった。こんな風に動揺するユウトは、初めて見る。彼はいつも、まったく揺るがない私の守護者だった。

「あなたが望むかぎり、私はそばにいましょう。しかしもう限界です」

 ユウトはつらそうに、顔をゆがめる。

「何が?」

 私はまた彼の手を取った。

「王子に恋するあなたを見るのが、つらかった。だからどうか」

 ユウトの声は小さくなり、聞き取れないほどだ。でも私は目をこらして、耳を大きくして聞く。

「俺を愛してください」

 扉のそばで、黒髪黒目の少女が目を丸くする。私はユウトの手を離した。彼の顔が悲しみに沈んでいく。

 ユウトの告白は急すぎて、受け止めることができない。頭が混乱して、どうすればいいのか分からない。ユウトは一歩、私から離れた。そして背中を向けて、少女のもとへ行く。

 なんと声をかければいいのか。ユウトは私のそばがつらいから、故郷へ帰りたいのか。けれど、……けれど今は、気持ちのままに動きたい。

「行かないで!」

 私はユウトの背中にしがみついた。

「私を置いていくなら、私があなたをなぐるから。あなたの首に縄をつけて、邸から出られないようにするから」

 しがみついた背中から、ユウトが脱力しているのが分かった。

「お嬢様」

 あきれた声がかかる。

「そばにいて、お願い」

 心からの願いを口にする。ユウトはこらえ性がなくて見栄っ張りで、わけの分からないことを口にする。それでも私は、彼にそばにいてほしい。

「王子のことはもう好きじゃないわ。あなたがつらいならば、私は誰とも結婚しないし、誰とも恋に落ちない」

「お嬢様」

 今度は優しい声がかかった。ユウトは、自分の胸に回された私の手をそっと握る。その温かさに、私の胸はどきんとなった。

「あなたはまだ王子との婚約破棄に心が傷ついているのです。けれどその傷が治ったら」

 ユウトは言葉を切った。途方に暮れたように天を仰いで、

「一番あなたの身近にいる男と、恋に落ちていただけると幸いです」

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