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決意する男

 いよいよ明日が出発だ、というある日。ユウトが真剣な顔をして、私の部屋にやってきた。

「お嬢様。隣国へ行く件ですが、……申し訳ございませんが、なかったことにしてください」

 私は、ぽかんとした。しかしそこまで行く気のなかった私は、

「いいよ」

 と了承した。私には、新しい婚約者や夫がほしいという気持ちはなかった。ユウトとお父様とお母様がいればいい。

「でも、いったいどうしたの?」

 ユウトは、王子よりもいい男を捕まえると息巻いていたのに。ユウトは深刻な様子で黙った。私は彼を見つめる。

「実は、王子の恋人と会いました。街中で、彼女の方から話しかけてきたのです。おそらく外見で分かったのでしょう」

 予想外の答が返ってきた。

「彼女と私はさまざまなことを話しました。そして私はお嬢様の幸せのために、何をすべきか気づいたのです」

「ちょっと待って」

 話が急すぎて、ついていけない。何なの? 何から驚けばいいの?

「私と彼女は、この世界ではイレギュラーな存在です。私たちさえいなければ、あなたは今ごろ王子と結婚していた」

「ユウト、あなたが何を言っているのか分からない」

 分からなくて不安だ。

「私は、あなたが王子の浮気に苦しんでいるのを見ていました。あなたは王子に恋していらっしゃる」

「そうだったけれど、今はちがうわ」

 今は王子に恋していないと、はっきりと言える。

「王子はあなたのもとへ戻ってきます。それが私からの最後の恩返しです」

 私はユウトの手を握った。彼は、少しだけびくりと震える。ユウトはどこかへ行ってしまいそうだ。

「私はずっと隣国の王弟殿下と、文のやりとりをしていました。彼は、世界を越えてやってきた私に興味があったのです。そして私は彼に、もとの世界に戻る方法を探してほしいと頼みました。もとの世界に戻る方法はあります。だから私はあなたの結婚を見届けてから、故郷へ帰るつもりでした」

 嫌だ、と私はユウトの手を強く握る。

「私は王子の恋人とともに、隣国へ行きます。そして二人で故郷の日本へ帰ります。そうすれば王子は、あなたのもとへ帰ってくるでしょう」

「王子との結婚は、もうするつもりはないわ」

 私は言った。

「ユウトは故郷へ帰るの? すごく遠い場所で帰れないと言っていたのに」

「帰る方法はあります。二年前に、王弟殿下が手紙で教えてくださいました」

 嫌よ、と私は言いそうになった。ユウトは故郷へ帰りたいの? これも口には出せない言葉だった。帰りたいに決まっている。誰だって故郷から離れているのはつらい。

 ユウトはつらそうに、私とつないだ手を見ている。私は懇願するように、彼の顔を見る。ユウトがいなくなるのは嫌だ。

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