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お父様とお母様の内緒話

 娘とユウトが馬車で出かけた後で、侯爵夫人はため息をはいた。

「侯爵家のひとり娘とその従者が手に手を取って隣国へ、……ロマンス小説の駆け落ちみたいね」

「そうだね」

 同じ部屋で、ゆったりとソファーに座り酒を飲んでいる侯爵は言う。

「ただ本人たちが気づいていないことが、ちょっとだけおかしいね。たがいを異性として、見ていないのだろう」

 侯爵の声には、うれしさがにじみ出ていた。つまり彼は、娘をまだ嫁に出したくない。王子との婚約破棄にこっそりと喜んでいたのを、夫人は知っている。

「娘はつらい恋をして、心がとても疲れている。隣国へ行っても、新しい夫なんか探さずにのんびり観光すればいいさ」

 しかし、と夫人は思う。二年前、娘と王子の婚約が決まったとき、ユウトは少なからず動揺していた。そして今まで娘にべったりだったのに、娘との距離を取り出した。

「お嬢様はもう年ごろです。私のような異性の従者は遠ざけるべきです」

 ユウトはそう言って、娘の従者から侯爵の従者になった。しかし今は、なし崩し的に娘の従者に戻っている。

「ユウトはなぜ、王子が婚約破棄を言い出すと気づいたのかしら?」

 夫人はつぶやいた。王子が浮気しているといううわさは夫人も知っていた。だからいつかこうなるだろうと覚悟していた。だが、いつ王子が婚約破棄を言い出すかは、誰にも分からなかった。

 ところがユウトはちがった。彼は何らかのカンが働いて、あの日、娘の部屋に朝からずっといた。ひさびさに顔を出したユウトに、娘は喜んでいたらしい。その後で王子がやってきて、婚約破棄を言い出したのだ。

「分からないな。ユウトには昔から不思議な力があるから」

「ユウトいわく、異世界トリップにおきまりのチート能力だったかしら? 相変わらず、あの子の言うことは理解できないわ」

 けれどその不思議な力で、ユウトは娘の危機を察知して、娘に害なす者たちをぼこぼこにしてきた。娘にかぎらず、自分に親しい者たちの危機はすべて察知できるらしい。

 詳細は分からないが、ユウトは遠い国からこの国へ流れ着いてきた。侯爵夫妻は、おびえるばかりだった十二才の少年を、邸に保護した。少年はこの国の言葉が分からないようだったので、家庭教師もつけた。

 ユウトは想像以上にたくましく成長し、夫妻への恩返しを考えるようになった。夫妻のひとり娘を、実の兄のように守るようになった。なので夫妻は、ユウトを養子にしようと考えた。けれど彼は断り、今の地位に落ちついたのだ。

「もしも隣国への旅行中にユウトと娘が恋仲になったら、あなたはどうする?」

 夫人からの質問に、侯爵は、はははと笑った。

「ありえないさ」

「そうかしら?」

 夫人は首をかしげる。そして娘の幸せについて、ユウトの幸せについても考える。かわいいわが子と、わが子同然の子ども。彼らの関係は、昔は兄妹で今は主従。そして将来は、どうなるのがいいのだろう。

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