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ユウトという男

 この国の人たちは、私も含め、たいていが薄い黄色の髪をして青い目をしている。もちろんちがう色もあるが、ほとんどが薄い色あいだ。

 対してユウトは、目も髪もびっくりするほどに黒い。さらに、私と同じだけの背丈しかない。ユウトの年齢を考えると、これ以上背が伸びることはないだろう。

 彼は私がものごころつくころから邸にいて、私を守っていた。私が五才のときは、

「お嬢様にちょっかいを出すとはいい度胸だな。このくそがきども、成敗してくれる!」

 私をいじめていた男の子たちを、ぼっこぼこにした。そして私が八才のときは、私を誘拐しようとした男たちをぼっこぼこに、私が十二才のときは、

「このロリコン野郎、二度とお嬢様の前に現れるな!」

 私に婚約を言いよっていた男をぼっこぼこに、そして私が十五才のときは……、語り尽くせないほどにユウトは戦ってきた。彼は体は小さいけれど腕力があり、さらにはカンがいいのだ。

 そんなわけで私の両親は、すっかりとユウトを信頼している。私が、ユウトとともに隣国へ旅立つと言うと、こころよく了解してくれた。

「婚約破棄された心の傷をいやすため、という名目で国を出ればいいでしょう。それに王子の方でも、婚約者がいるにもかかわらず別の女性に心を寄せてしまった自分をいましめるために、数か月間、自室謹慎をしているそうよ」

 王子はまじめな方ね、とお母様は好意的に笑った。しかし自室謹慎の本当の理由を知っている私は、顔が引きつった。そんなこんなで、私とユウトの出発は一週間後と決まった。

 今日はユウトと一緒に、お買いものに出かける。とは言っても、特に買いたいものがあるのではなく、街をぶらぶらと歩くだけだ。馬車の中でユウトは、

「お嬢様、せっかくですから、王子を寝取った女性に会って、嫌みのひとつやふたつでも言いますか? どうやらその女性は、上流階級ではないようですよ。くわしくは知らないのですが、幼稚な女性と陰口をたたかれているそうです」

「え?」

 上流階級ではないという話は初めて聞いた。つまり王子とその女性には、相当な身分差がある。王子は私との婚約を破棄したが、その女性と結婚できるのか? 下世話な好奇心がわき起こったが、

「いや、面倒だし」

 私は、さっと打ち消した。このような詮索はよろしくない、とお母様から言われたことがある。するとユウトは、感激したように体を震わせて、

「お嬢様、なんてお優しい! ポジション的には悪役令嬢なのに、お嬢様は天使です、エンジェルです、後光がさして見えます」

「はぁ」

 私はユウトのよく分からないせりふを聞き流した。昔からユウトは、よく分からないことを言う。その最たるものは、「俺は異世界トリップしたんだ。異世界に落っこちて、右も左も分からない俺を助けてくれたお嬢様たちに、俺は一生をかけて恩返しする」だった。

「でもやっぱり、ちょっとだけ王子の恋人の顔が見てみたいなぁ」

 私はつぶやいた。なんせ、国で一番もてる王子の心を射止めた女性なのだ。どんな美少女だろう。するとユウトは、顔をきりっとさせた。

「分かりました。相手は女性ですし、ぼこぼこにしても、顔が変わらない程度にとどめておきます」

「いや、やっぱり会いたくない。王子ともその恋人とも、一生会わなくていいから」

 ユウトがうら若き乙女をぼこぼこにする光景が浮かんで、私は前言撤回した。

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