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見栄を張る男たち

 王子は、自分がすべって転んでけがをした、ということにしてくれた。これはとても寛大な処置であり、私は彼の優しさに深く感謝した。私にとってユウトは、兄のような存在でもある。なので彼の首がつながったのは、ありがたい。

「私はこの顔が治るまで、外に出ないつもりだ」

 王子は不機嫌な調子で言う。顔は包帯でぐるぐる巻きだった。

「君たちも私の顔について、けっして誰にも言わないように」

 王子は、同じ部屋にいる私と医師に命令した。そして邸から、そそくさと逃げていった。きっと王子は、婚約破棄について申し訳ないと感じているのだろう。だからユウトの暴力を不問にした。しかし当のユウトの意見はちがった。

「国一番の騎士なのに、たかが従者に、しかもちびでやせている私に負けたとは、周囲に知られたくないのでしょう」

 ユウトは自室で、荷造りをしながら言う。ちなみに彼は童顔でもある。二十六才だが、下手をすれば十代にも見える。

「見栄っ張りですね」

 ユウトは、王子をバカにした笑みを浮かべた。ユウトの中で王子の地位は、下の下まで下がったらしい。二年前に私と王子の婚約が決まったときは、王子のことをほめたたえていたのに。

「それでユウトは、なぜ荷造りをしているの?」

 王子をなぐった責任を取るために、邸から出るつもりなのか? そんなことをすれば、お父様とお母様が大反対する。私もユウトを引き止めるだろう。

 ユウトは単なる従者ではない。家族のような存在だ。なので彼には、従者にもかかわらず、自分専用の部屋がある。そして本来、貴族の私はユウトの部屋に入ってはいけない。けれどこれも、暗黙の了解で許されていた。

「隣国へ行って、お嬢様の夫にふさわしい男を捜してきます」

「へ?」

「お嬢様はすでに十八才。婚約破棄された今、ただのいき遅れです!」

 ぐっさーと私の胸に、大きな矢が刺さった。このことについては、考えないようにしていたのに。

「ですから王子よりもいい男を見つけて、すぐさま結婚しなくてはなりません。幸いにして私は、隣国の王族につてがあります」

 なんでつてがあるのか、ものすごく疑問だ。しかし、

「そんな見栄を張らなくてもいいんじゃない?」

 私は当分、結婚したくない。王子とのことで疲れた。私は私なりに、王子が浮気していると聞いて動揺したり嫉妬したり、王子を振り向かせようと努力したりした。

 けれど結果は、結婚式三日前に婚約破棄だ。なので、王子をぎゃふんと言わせるために、別の男を引っかける気力はない。

 ユウトは私をきっとにらむ。

「お嬢様は無欲すぎます! そして王子に寛容すぎます。王子が浮気しても許し、婚約破棄しても許し、……なぜそんなに心穏やかでいられるのですか? 私はもう、くやしくてくやしくて」

 ユウトは両手で顔を覆って、おいおいと泣き出した。私の顔は再び引きつる。もちろん私も怒っている。ただ私よりも、ユウトの方が極端な行動に出るだけだ。

 そしてユウトが王子をぼこぼこにしたので、私の中の怒りはほとんどなくなった。だって、なぐられた王子は人相が変わっていた。王子の間抜けな顔を思い出して、私は思わず吹き出した。私は笑いを抑えてから、

「ユウト、落ちついて。それなら私も隣国へ行って、誰かいい男性を探すから」

 前を向いて歩こうと決意する。でもとりあえず、ユウトや王子のように、こらえ性がなくて見栄っ張りな男は嫌だ。

「お嬢様」

 ユウトは、涙に濡れた顔を上げる。

「なんという健気な心映え。やはりお嬢様は世界一です、むしろ世界なんか超越しています」

 感動のあまり、私の手を取り喜ぶ。

「うん、分かったから。私の荷造りもよろしくね」

 私は苦笑する。そしてユウトの手を、ちらっと見た。彼はこの手で、王子をなぐってくれた。

「ありがとう」

「はい。必ず、王子よりも金持ちで美形の男を捕まえましょう!」

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