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こらえ性のない男たち

 うわさは聞いていた。私の婚約者である王子が、私以外の女性と逢瀬を重ねていると。だからいつかこんな日が来ると覚悟していた。しかし、あろうことか王子は結婚式の三日前に、婚約破棄を言い出した。

「君には、すまないと思っている」

 王子は青色の瞳を伏せて、苦しげに謝罪した。本当にすまないと思うなら、形だけでいいから結婚してくれ。私はうわべだけは優雅にお茶を飲みながら、そう思った。もうドレスもぬい終わっているし、式の準備はすべて整っているのに。

「この一年間、悩みとおした。けれどもう自分の気持ちをいつわれない」

 こんな結末になるなら、浮気が始まった一年前に私と別れてほしかった。そもそも婚約してほしくなかった。すでに私は十八才だ。

 白皙はくせきの美青年と国内外に称される王子は、出されたお茶にもお菓子にも手をつけずに、いすから立ち上がった。さよならさえ告げずに、部屋から出て行こうとする。

 結局、王子はこらえ性のない男だったのだ。私は彼との結婚をあきらめるしかない。彼の気持ちを引き止めようと、贈りものをしたりキスをねだったりしたが、すべて無駄だった。カップを持つ手が、震えて止まらない。今日のお茶とお菓子も、彼のために特別に用意したものだったのに。

 しかし、その王子の進路を妨害する者が現れた。黒髪黒目の小柄な男が、扉の前に立ちふさがる。

「君は?」

 王子は驚く。王子の通行の邪魔をできる者など、ほとんどいない。そして私は、嫌な予感がひしひしとする。

「お嬢様の従者のひとりであるユウトです」

 ユウトは名乗るやいなや、すっと両足を肩幅まで広げる。そして腰を落として、

「はぁ!」

 気合い一発、王子の腹に拳をたたきこんだ! 王子はたまらず体を折り曲げる。ユウトは王子のあごに向かって、左から右に体を回転させながら裏拳を打ちつける。

「ぐへぇ」

 王子は、一回りも小さいユウトの前で倒れた。ユウトはすばやく王子の腹の上に乗って、美形王子の顔をぼっこぼこに、

「やめなさい、ユウト!」

 私は立ち上がって、声を上げる。ぼんやりと見物しているわけにはいかなかった。そりゃ、王子はいい気味だけど。

 ユウトは、さっと王子から離れた。しかし、すでに遅かったかもしれない。王子の顔は笑えるほどに変形し、歯も二、三本折れている。

「うわぁ」

 私の顔は引きつる。幸運にも王子は気絶していて、私とユウトに叱責を浴びせることはない。

「申し訳ございません。ついかっとなって、やってしまいました」

 ユウトは謝るが、彼の顔には反省の色はなかった。

「あぁ、うん」

 私は、意味のない相づちをうつ。ユウトといい王子といい、私の周囲にいるのはこらえ性のない男ばかりだったらしい。

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