プロローグ
この小説は、グロテスクや暴力表現がされています。
振り下ろされる腕。そこに握られていたのは血だらけの鉄パイプだった……。
そう、あれはいつもの土曜日。
錆び付いた鉄パイプを手に握りながら怯えていたんだ。周りに誰も近づかせないように。信用できるのは、自分だけだったのだから。
もう、自分の家には帰れなかった。自室でゆっくりなんかできていられるほど今の自分は正気ではないことぐらい、自覚している。だから手に錆がついても気にしないで薄暗くて人が滅多に通らない道を歩いていたんだ。
その時、髄分と向こうに人が立っているのが分かったんだ。回りは薄暗かったから、シルエットだけで男ということだけはわかった。自分はそれに夢中になって、後ろから人が近づいてきているのに気づかなかった。
―――そこからは一切……覚えていないんだ。
フッと気がつけば、血の海の回りに二人の男がすぐ自分の足元で倒れているのに気がついた。二人の男は、もうグッタリとしていて、ピクリとも動かなかった。そして、自分の左手に握られている鉄パイプを見て、あぁ、これは自分がやってしまった事なんだなって思った。そしたら、急に怖くなった。自分はなんて取り返しのつかない事をやってしまったのだろう? 今のこの光景を地面に横たわる男たちが物語っていた……。
急に身体に力が入らなくなって、手から血の付いたパイプが落ちた。地面に鈍い音が響いた後、ぐにゃりと何かが一瞬で崩れ落ちるみたいに、自分の足も身体を支えきれなくなった。
不意に手を動かすと、冷やりとした感覚が自分を襲った。フッと横を見ると、血の付いた鉄パイプに手が触れていた。丁度、血の付いた所に触れてしまった為、手には血が付いてしまった。その手を顔の目の前に持って来ると、本当に自分が殺してしまったと、なぜか心の底から笑がこみ上げてきた。それと同時に……涙も流れてきてしまった。
「あれ? どうしたんだろう?」
悲しくはない。それなのに涙が出てくる疑問を抱きながら、血の付着した手で涙を拭う。次から次へと出てくる涙は、頬を伝って地面に落ちる。その涙に溶けた血は薄く染まっていた……。
自分は、力の入らない身体を無理矢理起こし、立ち上がった。
「こんな所には……いられない」
そう、自分には、やらなくてはいけないことがある。いや、確かめなくてはならないのだ。なぜ、いつからこうなってしまったのかを、自分は確かめなくてはならない。あの人の為にも……死んでいった者たちの為にも……自分は足を動かし進まなくてはならないのだ。いつか約束した、あの言葉を守るために。
立っているのも精一杯だった。だけど、確かめなくてならないことがある自分にはそんな事は関係なかった。手を伸ばし、もう一度血の付いた鉄パイプを握った。その鉄パイプからは血がポツポツと流れ落ちていた。自分はそれを、返り血で赤く染まった鉄臭い服でふき取ると、ゆっくりと歩き出した……。