僕は、骨が好き!
僕は骨が好きだ。
どれくらい骨が好きかというと、フライドチキンから鶏の首なし骨格標本のようなものを組み立てることができるほどに、僕は骨の形・位置に至るまで構造を把握しているのだ。
僕は骨が好きだ。
それだけは、どこにいても変わらない。骨が好きであることが僕が僕であることなのだから。
「先生、『いつもの』が届きましたよ」
僕がギルドに頼んでおいた物が届いたようだ。届けてくれた少年、といえなくもない生命体は……名前は忘れたがよく僕の前に姿を見せる者だ。
「僕は先生になった覚えはないぞ」
「何本もの論文を出し、その年でこの学園の特別講師の座を勝ち取ったお方がいまさら何を?」
少年はやれやれとばかりにため息をつく。
「講義なんて、一度たりともやったことはないけれどな!」
僕は講義を毎回さぼっている。面倒だから毎日自習、全員無条件で合格の単位習得。単位稼ぎには良いカモだろう? 僕も苦労させられた経験があるからよくわかる。ひとつくらい、そんなおまけの授業があってもいいじゃないか。おかげで、生徒の顔や名前なんて誰一人知らないがな!
「いやいや、先生の作業を見ているだけでも、おかし……勉強になります」
「今、おかしいって言おうとしたよね? おかしいのか、おもしろいのか、そうかそれを見て楽しいのか。そうだよ、僕はおかしいよ。魔物の骨が好きなんだからな。これに夢中なんだからな。そして僕は先生になったつもりはない。勝手に向うからやってきたんだ。これもそれも、あの地球外生命体のせいだ! いつか骨格標本にして飾ってやる。きっと美しい標本なるだろうな」
そうなのだ。僕はこの星生まれの人類ではない。地球からこの星に落とされた。ひょんな事故で。
この星で生きていくのに必要な知識と能力は、あの地球外生命体からむしりとったがな。あーははは。
にしても『神』の骨格標本なんて、実現したらどんな聖遺物になるんだ。教会に高く売りつけてしまおうか。ま、貴重な標本は大金を積まれても手放さないがな! 外側を覆う、いらない肌で作った剥製なら考えてしまうかもしれないけれども!
「(また、おかしな状態になっているな)……あの、先生、いつも気になっていたんですが、その『チキュウガイ』っていう生命って何なんですか?」
「それを君に言う理由も、必要もない」
僕がこの星の者でないと知られたら、僕の方が標本にされてしまう。
「もう、先生の意地悪」
「君も大概『地球外生命体』だけれどな」
白いつるつるの鱗肌を持っている少年、のような人類。どんな生物だよ。
「先生に標本にされるなら、本望ですよ」
「あぁ、鳥肌が立つ。何度も言うが、はっきりいって僕は君が嫌いだ。それに何だ、君の格好が一番目につく。そんなふわっふわなスカートをはいている少年になんてつきまとわれたくはない」
そう、少年は俗に言う「男の娘」なのだ。
「この服装であることがボクのアイデンティティなんで変えるつもりはありませんよ。それにボクは先生を好きなので、何を言われても光栄です。それに、いくらボクを嫌い嫌いと言っても、ボクが骨格標本になったら先生は愛してくれますよね?」
「間違いなく外側は捨てるがな」
「それでも構いませんよ。先生に愛されるのならば。骨の髄まで愛でてほしいです」
「この変態が! 羽化してどっかへ行ってしまえ!」
その時は骨だけは置いていけよ、と忘れずに付け加える。
「先生、違いますよ。ボクは脱皮はしますが羽化はしません」
さすが鱗人間、すばらしい生態をお持ちだ。
「しかし、そういうことを言っているのではない!」
変態には難しいジョークだったか。
「先生ったら、やっぱりかわいい。ボクが成人したら、結婚してくださいよ」
「君は二言目にはそれだな。それだけは断じてない。僕は君の子など作る気も、産むつもりもない」
この少年は女装が好きというだけで心は男性のまま。好きになるのは無論、異性である女性だ。
「あぁ、先生とボクの子……」
少年は勝手に妄想の世界へ旅立った。
「よし。いまのうちに……頂くものだけ頂いてっと」
少年の持ってきた箱を奪い取り、僕は転移の魔法を唱える。それは一瞬のことであった。
「んぁぁぁ! 先生に、また逃げられた!」
しかし、少年は知っている。僕がどこかへと逃げてたとしても、僕の魔力量ではそう遠くへは行くことができないことを。
「次こそは!」
決意を新たに少年はひらりとスカートを翻し、研究室を出た。その少年が求める人物は、まだそう遠くへは逃げていないのだから。