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VRMMORPGの世界の果ての果ての果てまで旅をする  作者: 8TR残響
第一章、ゲームプレイ1日目
12/27

第十一話 「はじめてのバトル、VSゴブリン&コカトリス(2)」

 VSゴブリン。私の最初のバトルだ。

 ちょいとそこ行くお前さんには、渡世の義理も父母の恨みもないが、私の経験値のために死んでもらおう……すごいこと言ってるが、ゲームなんてこんなものだろう。たぶん。きっと。

 ゴブリンはこっちに向かってくる。手に持った、トゲ付きの粗末な棍棒を振りかぶる。

 ……え?

 私がそう思うくらい、そのゴブリンは「早かった」。

「なにボケっとしてるルルィ!」

 ゼファーにそう叱責されるのも仕方ないくらい、私は惚けていたらしい。

 早い。相当早い。

 昔、近所をうろついていた野犬が私に飛びかかってきたのを思い出す。その咄嗟感、急激感は、とても似たものがある。

 ゴブリンの見かけは、それなりに鈍重そうに見える。なんといっても、背丈は低いし、なんかメタボっぽい感じだし。表情といったものもなく、ただこちらを攻撃してくるだけ。

 でも、このゴブリンの動きは、確かに「戦闘に特化」してる。早い。動きの一々に、キレがあるのだ。

 私はある程度の距離を保ちながら、その攻撃を避ける。でもそれはつまるところ、こっちからの攻撃ができていない、ということに等しい。

 ひゅんひゅんひゅん! と棍棒がこっちに向かって振りおろされる。私はそれを、少しずつバックステップを踏みながら、避ける。

 まいったな……初手から、これは、結構ムズい。

 しかし。

 やられっぱなし、というのは、私の矜持にもとるのだ。一方的にいたぶられて、黙っている私ではない。

 そう、私は根本的に弱いわけではない。

 ただ、経験が足りないだけなんだ。それを思えば、心が軽くなる。傷つくことを恐れてどうする。これはゲームなんだ……それに、傷の痛みなら……たかがちょっと切られたくらいのもの、屁みたいなもんじゃんか。昔の……足の、「アレ」に比べたらっ!

 ひゅんひゅうん! 棍棒が振りおろされる。ゴブリンは、「ハハッ」みたいな嘲笑を浮かべているように見えるのは気のせいか。

 そしてゴブリンが一度思いっきり振りかぶって、私にクリティカルな一撃を放とうとするとき。私はそこで、はじめての攻撃を仕掛ける!

 ナイフをぐっと握りしめ、ゴブリンのどてっ腹めがけて、突く!

「おお、思い切った攻撃にでたぞ、ルルィの奴!」

「さすがお姉ちゃん!」

 うまくいったか……? だが、ことはそううまくはいかなかった。

 どてっ腹をこっちがクリティカル、まではいかなかった。相手の腕を裂いたくらいで終わった。なんで腕か、っっていうと、ゴブリンが腕で防御をしたからだ。なるほど、攻撃が早かったら、防御も早いか。

 しかし、この時を逃していては、また劣勢なので、私は少しでも攻撃をする。ゴブリンを切りつける。

 ……が。

「HP減らないっつうの……」

 私が何度も攻撃して、やっとゴブリンのHPの3割が減る、といったところ。ゼファーとトルゼは一撃でやったというのに……。ということは、あの二人の攻撃、よほどオーバーキルなんだな。

 あまり攻撃が効いていない。そのことは、ゴブリンにいささかの余裕を与えたらしい。こちらの攻撃をそのままに、再びクリティカル攻撃のための、モーションに入る。振りかぶる!……ヤバい?

「ええい、しょうがない、サンダー!」

 ゼファーはそう言って、剣をゴブリンの方に向ける。そして、雷撃がゴブリンを走る。

 ビリビリビリ! とゴブリンは、棍棒を振りあげた状態のまま、雷撃により、シビれて行動を停止した。そして、HPがさらに3割以上減る。つまり、ゴブリンの残りHPは3割以下である。

 私は、しょうがなしに、ゴブリンと距離をとることにした。

「助かった」

「まあ、バトルも、こうやって巧くいかないこともある、てことだ」

「あのゴブリン、強いの弱いの?」

「ゴブリンは一般的に弱いんだが、まあ、このフィールドに出るゴブリンの中では、まだレベルがちょいとは高い。初心者も簡単にキルできるようなモンスターではない、か」

「そういうのを初心者に相手させるかね」

「でもお姉ちゃん、まったくのザコばっかりやってても、経験はないよ」

「正論のようだけど、私はバトるのはじめてなんだからね」

「とはいっても……今更逃げてもどうするよ」

「そこなぁ」

 とりあえず、私のナイフ攻撃というのは、すっげー弱いらしい。そのことはわかった。

 じゃあ、どうするか。……どうするか。私の武器っていったら、ナイフしかないじゃんか……

 悩む。ていうか、このゲーム、初手から詰んでない?

 そんな私に、トルゼが言った。

「お姉ちゃん、そういえば、さっきの投石、よくあんなにうまく投げれたよね」

「ん?」

 二人のアホさ加減にあきれて、石を投げたことだ。あの投石は、ずいぶんと巧く、二人にクリーンヒットした。

「そうだな、あの投石、ずいぶんと巧かった。ちょうど頭っていう、急所にヒットしたし」

「……もしかして」

 私は、また足下から、石を拾って、今度はさっきよりも勢いをつけて、ゴブリンに当てる。しかも目元を狙って。

「ギィアッ!」

 目を押さえて、うずくまるゴブリン。あ、HP1割減った。

「えげつねー」

 ジト目で私を見るゼファー。

「でもこれでわかったね、お姉ちゃん、ただナイフで切るより、なんでだか、投げ攻撃の方が向いてる……あ、そうか、花屋って、そういうことか!」

「どういうこと? 一人で納得してないで、教えなさいってば」

「えとね、生産職っていうのは、武器そのもので攻撃するより、アイテムを投擲したり、アイテムの効果を底上げすることで、だいたい戦闘に参加するのね」

「ふむ」

「お姉ちゃんで言えば、ナイフで切りかかるよりも、今投石のほうが効果があったように」

「つまり……私は、武器攻撃よりも、アイテム攻撃のほうが、強い、と」

 なるほどねー。

 いくら攻撃力の高いナイフがあったところで、たぶん今の私には無意味。それよりは、痛そうな石をガンガン投げたほうが意味ある、ってことか。

 ……地味な攻撃スタイルだなー。

 ……ん、だったら……

「ねえトルゼ、武器っていうのは、アイテムじゃないのかな?」

「ううん、武器として装備したら、戦闘中は装備品になるけど、それでもアイテムとして使えることもあるよ。でも、ふつうの武器は、特殊効果がないから、アイテムとして使うのはほとんど……」

「いや、こうすればいいんじゃね、って話」

 私は、これまでノケ者だった、上空を旋回するコカトリスに向けて、手首のスナップを利かせ、手持ちのナイフを投擲した。

 ドスッ! と、いかにも効果ありそうな音をたてて、コカトリスのHPが半分以上減った。一度コカトリスは地上に落下する。

「やった!」

「なるほど! ナイフをそもそもアイテム投擲で使用するってっことか、生産職的やり方で!」

「ふつう、こういうとき、投擲用ナイフを使うからね。その発想はなかったよ」

「ゲーマーだったら、投げスキルとか、投擲用ナイフっていう発想になるからな。でも、花屋……生産職の、そもそものアイテム使用力を使えば、こういうふうに戦闘に参加できるのか、戦闘職でなくても。初心者の発想ってすげえな」

「ねえゼファー、トルゼ、それって誉めてるの?」

「そりゃそうだよ」

「まあなぁ。ゴブリン相手ではアレだったが。でもコカトリスって、結構初心者キラーなんだぜ、飛行系モンスターって、当たり前だが、【飛んでる】から、相手しにくいんだ。普通の戦士系とか、魔法使い系とかでも、あのトリッキーな飛行アタックには手こずる」

「そうなんだ……まあ、考えてみれば、道理かもね」

「しかしよく当たったよね……あんな命中率低そうなモンスター相手に。ゴブリンにしたって、あんな狙いにくいところ、よく当たったよね」

 まだステータス画面の見方をよく分かってないんだけど、今度二人のそれと比べてみようか。たぶん命中率とか、手先の器用さとかが高いんだろう、私は。

 んで。

 ゴブリンは、頭を抱えながらも、こちらに向かって敵意を向けて、今にも襲いかかろうとしている。コカトリスにしてもしかり。

 だが、こちらはHP完全に満タンで、あっちはHPほぼ半分以下。戦いの機運はもう明らかだった。しかも、トルゼの【レオンズ・フィアネス】によって、相手の逃げ道はふさがれている。イジメだな……。

「じゃあ、どうしようか」

 私は二人に振る。

「とりあえず、お前の戦闘スタイルがわかったから、儲けもんだな。この戦闘はこれくらいでいいだろ」

「じゃ、サクっと片づけちゃうね」

 ゼファーとトルゼはそういった。なんかもう掃討戦だ。

「お姉ちゃん、今から【コンボ】放つから、よく見ててね、ダメージ量と、私たちのモーションを」

「コンボ……?」

 そして、二人はゴブリンとコカトリスに向かって駆け出していく。

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