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VRMMORPGの世界の果ての果ての果てまで旅をする  作者: 8TR残響
第一章、ゲームプレイ1日目
11/27

第十話 「はじめてのバトル、VSゴブリン&コカトリス(1)」

 城塞都市たる、町のレンガ造りの城壁を抜けると、そこは、森や大地の緑と、空の青が支配する、さあっと開けた空間であった。これがフィールド、か。

 遠くに木や林、森が見える。そして池とかもある。大地は、踏みしめるとしっかりとした反応が返ってくる。石畳のそれとは違う、土の感触だ。

 そんなフィールドを、私とゼファーとトルゼという即席パーティは歩く。……リアルではそれこそ何年も死線を潜り抜けた仲間なんだけど、このゲームでは即席の組み合わせにすぎない。

 とりあえず、この二人が先導して、フィールド、及びフィールドバトルのなんたるかを教えてくれるらしい。自動車教習所ライクな(ちなみに私は免許を持っていない)。

「いい天気だねー」

 私はそうこぼす。するとゼファーが、

「ゲームだからな。基本的にリアルよりも天候はいい。が、雨が降らないわけでもない。それもそれで、イベントになる」

「天候がイベントかいな」

 トルゼがそれを引き継ぐ。

「うーん、雨のときは危険度が増すんだよね。モンスターの攻撃力があがったり、こっちの調子が悪くなったり」

「戦争じゃないんだからさ」

「いや、戦争だぜ。このゲームの主軸のひとつは、あくまでバトルにあるんだから」

「そか」

「んで、お前さんのバトル初体験をこれから、というところなんだが」

「お手柔らかに」

「まあ、私たちが守るから、お姉ちゃんは万にひとつも死に戻ることはないよっ」

「……死に戻り?」

 耳慣れない単語がでてきた。

「死に戻りっていうのはね、バトル中にHPがなくなったら、そのひとはもう何もできないの。炎鳥粉っていう復活アイテムとか、蘇生魔法使わない限り、戦闘には参加できないの。それは、クエスト終わりまで続く。それで、クエストが終わって、その人は、最後に休んだ休憩施設に戻される。それで、復活後、やってたクエストによっては、クエスト中に取得したアイテムとかを没収されたり、クエスト中のステータス上昇がナシにされたり、っていうのなんだ」

「すべての努力が灰燼に帰す、と」

「まあデータ上だけのことだったらね」

「でも、その冒険は、なかったことではない、だろ?」

 ニヤっとした笑いで、ゼファーはかっこいいことを放つ。うーん、冒険か。心躍るね。

「で、私の最初の冒険なのだけど……っていうか、この世界ってなんていう名前なんだったっけ、そういえば。唐突なんだけど」

「説明書くらい読みなさい」

 たしなめるように、いつもと口調が違う感じでゼファーがいう。こいつが丁寧語喋ると、なんかゾワっとするのは気のせいだろうか。

「まあ私は基本、説明書読まずに機械いじるタイプだからね」

「お姉ちゃん、アナログな機械には強いもんね。すぐに楽器の不調とか直しちゃうし。でも……」

「あんまデジタルには強くないけどね」

「そうだお前、いい加減DTMに移行しろよ」

「今のMTRマルチ・トラック・レコーダーの環境に慣れきっちゃってるからねー」

 私はPCを使って作曲とかアレンジをしないタイプのミュージシャンなんである。非常に今頃は珍しい。そういうのが必要に迫られたら、ゼファーや、あともう一人のバンドメンバーに頼む。彼らはデジタルに強い。っていうか……トルゼ(十子)もゲームにこうして強いんだから、デジタルに弱いのって、私だけ? おいおいそんな……今更気づくのもなんだけど。

「……って、話がずれとるっちゅうの。この世界の名前は?」

「幻想世界【アーヴリィ】、という」

「……どういう意味だろう」

「ユーザの憶測では、【Believer】、を後ろ側からもじったものらしい」

「安直といえば安直だよね」

 ゼファーとトルゼは、臆面もなく正直なところを口に出す。

「まあ、そのアーヴリィ世界の、初めての冒険、は、私は何をするんかいな?」

「あそこにゴブリンと、コカトリスがいるだろう」

「んー?」

 とにかく果てがない感じで広がるフィールドの先に、こちらを向いているモンスター三匹がいる。ずんぐりした緑色の小柄な亜人……ゴブリン二匹と、その上空を旋回している、青い大きい鳥、コカトリスだ。

 ん? こちらを向いている?

 ってことは……

「あのモンスター、こっちを策敵、認識しとるんじゃないの?」

「おお、よく気づいたな。そう、こっちがモンスターに接近したら、あっちは自動的にこっちを襲いかかるって寸法だ」

「会話とか対話の是非は?」

「これはバトルだよ、お姉ちゃん」

 この世から戦争は無くならないのね……って、ネタはさておき、向こうの三匹は、こちらに向かって、急速移動! 急接近!

 なるほど……

「バトル開始ってこと!?」

 さすがにこうなってきたら、焦る私である。だって初めてなんだもの。

「そうだぜ、お楽しみの始まりだ」

 ゼファーは背負った長剣と、腰に挿した剣を両手で持って、向かってくるモンスターをギロリと睨む。口元はそれに反して緩んでいる。バーサーカーか。

「きたねきたね、いくよいくよ!」

 トルゼはどこからか大きな……彼女の小柄な身長をも超す大きな斧を取り出した。たぶんアイテムボックスからだろう。それをブンブンと振り回す。真っ黒な斧。まがまがしく湾曲している斧は、赤い不吉な筋がいくつも入っている。言動も相まって、こいつもバーサーカーか。

「とりあえず、ルルィは適当に見てろ!」

「がんばろうね、お姉ちゃんっ!」

 二人は駆けだしていく。まさに歴戦の戦士だ。たのしそう。

 ……って、おい。

 ……私、何してればいいのさ。


 まあ、私という素人ゲーマーであろうと、経験値ってものが必要なのはわかる。データの内実はわからんが、とりあえず、バトルで何らかの行動をして、「経験」を積まんことには、レベルも何もあったもんじゃない。

 と同時に、「実際のプレイ経験」という意味でも、「経験」を積まなければならない。何しろ私はRPG、ゲーム、VRMMOの初心者であるからして。

 しかし。

「ヒャッハー!」

「せーのっ!」

 そう言いながら、二人はあっという間にゴブリンを、それぞれの一撃で屠る。一瞬であった。一瞬で相手の範囲まで接近、そして斬撃一閃、いや二閃。あとに残ったのは、サァッ……というエフェクトでもって、ゴブリンが砂埃のように消え去ったのみだった。

 しかしだな。

 私は、足下にある石を二つ拾って、あいつらの頭におもっきし投げつけた。

「痛ぇ!」

「何するの、お姉ちゃん!」

「どやかましいわ! 私のバトル経験はどうすんのさ!」

 そう。

 あいつらが強いのはわかった。さすがレベル90超のゼファーに、それ以上の廃人ゲーマーたるトルゼ。それはわかったよ。すごいよ。

 だが。

 強ければいいってもんじゃないだろう。今回の目的は何だと問いつめたい。

 ゼファーとトルゼ、お互いに顔を向き合い、

「「……あ!」」

 と、思い出したかのように気づく。ことのバカさ加減に。

「そうだよな、俺らが全部屠ったら、ルルィは何にもならないんだもんな……」

「お姉ちゃん、経験値も、バトル経験も、何一つ得ないよね……」

「バカかおめーさんたちは」

 二人は自分たちのノリに今更ながら悔恨、私はこんなバカどもに教えを請うのか、という意味で悔恨だった。


 すると、ゴブリンとコカトリス、こちらからあからさまにわかるくらいの狼狽を見せる。そして、後ろを振り向く。駆け出す。

「あ、逃げた」

 私はぽつりと呟かざるを得なかった。モンスターって逃げるんだ……ここまで恐ろしい奴ら相手だと……。 

 だが、それに対して、もっと恐ろしいことをしでかす少女バーサーカーがいた。

「ふっふっふ……逃がさないよ、【レオンズ・フィアネス】!!」

 トルゼはそう叫んで、斧を思い切り地面に振りかぶって、叩きつけた。すると、目に見えない衝撃派があたり一面を覆う。まるで風が吹き抜けるかのように。私ですらそれを感じるのだ、モンスターが感じないわけがない。

 すると、残ったゴブリン1匹と、コカトリス一匹が、逃げるのを唐突にやめて、こちらに向いた。いや、向かざるを得ないようになった、といったほうが正しい。

「何やったの、トルゼ」

「【レオンズ・フィアネス】は、戦士職の特技なんだよ。効果は、【逃げようとする敵を逃げられなくする】っていうの」

「つまり、哀れな弱小モンスターの逃げ道を塞いで、いたぶりまくる、ってわけだ、今回は」

「うん!」

 いい笑顔で残酷なこと言うなぁこの子は。

「まぁ、お前の初心者教導のためなんだがな。俺らがいちいち攻撃してたら、すぐにあんなザコは逃げちまう」

「私のことを忘れて攻撃開始したのはどこのバカだろうね」

「とにかく、お前、あいつらに適当に攻撃してみろよ」

 あ、都合の悪いことは流したな。まあ、でも、私もなんか攻撃しないと、何にもバトルのイロハを覚えられないので、やってみることにする。

 で、ナイフを構えて、私はまず、ゴブリンに向かい合う。

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