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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
一学期の起承転結 編
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第五話 『下級生・起』

 五月初頭。鷲都家所有の結界広場にて悟月九津さとづきここのつ鷲都包女わしみやつつめ、その相方筒音(つつね)は集まっていた。


 最近のきなみ強くなった陽射しの洗礼を受け、日本とはここまで暑いものかとうんざりしながら九津は地面に座り込んだ。


 この急激に温度を増した時季に、今だに集中力を高める姿勢でいる包女に尊敬の念を込めて見つめる。


 包女はフード付きパーカーとTシャツ、八部裾のジーンズ姿で瞑想していた。長い黒髪を後ろで束ねて結っていたがそれでも暑さは変わらないだろう。しかし、その額には汗の一滴も浮かんではいなかった。


 瞼を閉じ、凛と佇む姿は一枚の絵のようだと思った。


「心頭滅却ってやつかな。慢心だらけの俺じゃ真似できないや」

『なんじゃもうへばったのか?』


 呟いた九津に白い髪をなびかせた包女に瓜二つの背格好の筒音が笑い尋ねてきたので「面目次第もない」とだけ答えた。


 汗ばむ顔をタオルで拭きペットボトル容器から水分を補給する。現在、五月の長期連休初日の午前十一時頃だった。


 九津は包女の魔術の特訓に付き合っていた。






 四月中は練習に付き合うという話題が上がることがなく、九津もとくには気にしなかった。ところがふと五月を前に聞くと包女は抑えていてくれたらしく、理由を教えてくれた。


「流石にそんなに急には馴れ馴れしいかと思って」


 そう言われ九津は自身の失態を悟った。


 包女本来の優しい生真面目さと、家の事情から来る向上心から考えれば、言い出した自分自身ここのつから誘うべきだったと思ったからである。


 だから「連休中に鷲都さんさえ良ければどうかな」と尋ね、それを包女が了承してくれた時の笑顔を見たときは安堵したものだった。


 ただ、それを聞いていた教室内の級友達が僅かにざわめいた時は、他に興味の対象はないのかと苦笑してしまった。


 しかし、厄介だったのは何よりもニヤニヤ笑う母、きらりだった。


「いい!女の子との約束は命と魂、精神体にかけて守りなさいっ。あと一回でいいからその子を家に連れてきなさい。あんたの事だから迷惑の方が多いだろうから挨拶しなきゃ」


 と言われた。「肉体が滅びようとも?」と茶化すように突っ込んだ話は当たり前のように無視され、


「いいわね」


 と念を推された。渋々と「鷲都さんさえ良ければね」とだけ答えた。


 もとより〃忘れない約束〃と〃思い出せる約束〃は必ず守る、と師匠譲りの教えとして自身でも決めていたので取り合えず聞くことにした。


「ってことなんだけど、大丈夫かな?」

「ええ!いいの?行く、行きます。私も挨拶しなきゃった思ってたから」


 思いの外、乗り気に誘いを受けてくれたので九津は安心して特訓に集中出来そうだと思った。





 まず、特訓をするにはあたって何をするか三人で思案しあった。


「妥当なのは鷲都さんの魔力変換が、どの種類までの力に有効なのか調べる事かなって思うんだけど」

「どの種類って……悟月くんの師匠さんって人は妖力以外にも出来るの?」

「ん、かなり出来るよ。霊力を始め妖力、呪力、活力から気力って呼ばれる内気功的なやつまで」

『そんなにかっ』


 指折り数える九津に包女は息を飲み、筒音は素直に驚き声を出した。


 と、そんな二人を他所に九津は早速包女の得意な特異能力『魔力変換』がどの力の種類をどの範囲で出来るのかを調べようとした。


 ところが筒音に聞くと『は?妾が作れるわけなかろぉ。妖力は確かに変幻を得意とするが、それはあくまで妖術としてじゃ。そもそも妖力とて作るのではない。生み出すのじゃ。その違いくらい、お主ならわかるじゃろぉ』と長々返さた。


 なので結局九津が他の力を作り出すことになったのだ。


「鷲都さん。送るよ」


 九津は五色の糸で編み込まれた紐、万式紋ばんしきもんを包女に差し出し、互いに端を掴みあった。


 作れる種類の数は少ないよ、と前ふってから九津は簡単な説明を挟みながら〃力〃を流し始めた。


「魔力、妖力以外では有名なところ呪術に使われる『呪力』、仙術に使われる『活力』、忍術の『気力』なんかがあるよね。今から送るのは活力だよ?どう」

「色んな力があるんだね…あ、うん、なんか温かい流れを感じる」

「ん、活力ってのは別名〃内部霊力〃って言ってさ、多分魔力に一番近いと思うんだ」

「言われてみれば……そんな気がする」

「そう言った感覚ってのを忘れずにね。じゃ、次に変換しようか」


 九津が作れる「呪力」、「活力」、「気力」、そこに「霊力」加えて四力を順々に試した。そのどれもが時間の幅、魔力としての純度は様々だったが魔力に変換することが可能だった。


「ここに妖力と魔力を入れて全部で六力か…。…六って、本気で才能だけならすでに俺の師匠クラスなんだけど…」

「私、妖力以外にも変換出来たのって初めて。なんか、ちょっとドキドキしてる」

『フム。確かに一時的に魔気が膨れ上がっておる。九津が流す力をしっかりと馴染ませておる証拠じゃの』

「ん、だね。あとは自分で相手側がどんな力を使っているのか判断出来るようになればもっといいよ」


 結果に対し、暑さで流れた汗とは別に冷たい流れを背に感じながら九津は言った。そして、


「でもさ、月師匠つきせんせい並の才能って本当に凄いよ。恐るべし、鷲都さん」


 と苦笑いしかできなかった。あの日、包女が魔術師だと打ち明けた日に九津と誤解があり魔術勝負の真似事・・・をした。その時に九津は言った。「純粋な魔術勝負ならば負ける」と。


 しかし、純然たる魔術勝負でなくとも負けていた可能性が出てきた。つまり相殺戦ではなく吸収戦。


「あとは魔力変換をどれだけ実践レベルで使えるか、が課題だね」


 九津の言葉に包女は真剣に頷いた。もはやこの練習、いや、特訓の成果が実る頃には魔術師の中でも上位に名を連ねるのではないか、と九津は思った。


『妾が認めた数少ない人間、相方じゃからのう包女は』


 種類の調査(さいしょ)の段階がすむと包女は今の感覚を自身に刻み付けるために瞑想に耽り始めた。


 そう考えている九津に退屈しのぎか筒音が話しかけてくる。


『しかし、妾だけでは包女の才を伸ばしてやることが出来なかった。面倒かけるな、九津』

「全然問題ないよ。あ、でも一つだけ……」

『ん?なんじゃ』


 なんとなく聞きそびれていた話題を九津は思い出した。まだ包女は集中して瞑想しているようだし聞くことにした。


「筒音が、こんな時代に間堕はざまおちした妖怪が鷲都さんに協力する理由……聞いてなかったと思ってさ」


 九津が言うと筒音は考え込むように顎に手を当てた。数秒間の沈黙のあと、


『よかろう。暇潰しに話してやろう』


 と腕を組んで、瞼を閉じ、ウンウンと頷いて答えた。


「おおっ、聞いてみるもんだね」

『秘密というわけではないしのぉ』


  シシシと空気を鳴らすような笑いとと共に筒音は、左側の黒い方の瞳(・・・・・)で九津を見た。





 ────




「妖怪」と言えば古来より人間を驚かせ楽しむ存在だった。善と悪を問わず、本能的好奇心の赴くままに行うのが難点ではあったが、それでも上手く共存していたと言える。


 しかし時の流れ、人の霊力を蔑ろにするかのような「進化」は妖怪の存在をこの世界から否定してしまった。


 今ではまるで妖怪の存在は夢現の中にあり、姿を見たものを嘲笑さえするかのようだ。


 だが科学が拒もうとも、感覚が失われようとも妖怪は確かにいた。


 その事実は揺るがないものであり、少数ながら接触する人間も残っていた。ただし、人に間界・・、神に天界、魔に魔界在るように妖怪にも自分達の世界が在り、そこ(・・)へと戻った(・・・)のだ。


 それでも妖怪は時より人の世に降り立ち、自身の存在意義こうきしんを満たすそうと行動する。楽しむ事。妖怪は何よりも楽しいことが好きだったからだ。好奇心それを満たすのにこの人間の住む世界は一番具合が良かったのだ。



『妾が生まれる数百年前はこの現界の方にこそ拠点を置いた者もおるほどじゃそうじゃ』



 遥か昔。


 都と呼ばれる人の集落はもちろん森や海には当たり前のようにいたという。だが否定され、拒絶され続けた歴史の果てが今の妖怪のいない「この世界」を作り上げた。


 しかし数年前、ある時点をもってその存在が一般的では無いにしろ明るみになる事柄が起こった。


「天使」、「悪魔」、「妖怪」の三種族間によるあらそいだった。その戦地の一端が人の世にもたらせられたからだ。


 もともり長、王を持たない妖怪たちの中に「古の皇」の名、『妖帝ようてい』を名乗り妖怪を率いる者が現れたのだ。妖帝は自由と楽しみを重んじる妖怪達にとって好奇心の対象となり、妖帝の考えを受け入れ促す形となり、それが他種族・・・同士の争いを生じさせたほどだった。


 そして妖帝が活躍していた頃、妖怪ツツネは生まれた。


 一匹の狐に似た獣形の妖怪として妖界・・に生を受け、その「他種族争い(おもしろいこと)」を間近で見ていた。ツツネは生まれたばかりの自分の非力さを嘆くよりも、その最中あらそいで自由に、何よりも楽しそうにしている同胞達を見て心躍らせたものだった。


 だが無念とはこの事。一年程度で他種族争い(いざこざ)は終わりを迎えることとなった。


 終戦そのものは特に残念ではなかった。祭りだって終わりを告げるのだ。それは仕方がない。本当に残念なのは参戦出来なかった事だ。


 ツツネにとってあくまでも他種族争いは"楽しそう"な事をする手段の一つであったのだ。無くしたなら、終わったのならばまた次を探せばいい。ほとんどの妖怪がそうしたように別の道楽、自身の楽しみを追求し始めたのは当たり前の流れだった。



「なるほどね。で、そこから?」



 妖怪として生まれたからには"楽しいこと"を探すのは当然。時間と法則に別れを告げて、義務と責任に微笑み返し、自由と信念を友にして探すのだ。


 …。


 ……。


 しかし。


 しかしだ。あれほどの事、『妖帝』が巻き起こした他種族争いほどに心躍ることが見つからなかった。


 ならば仕方がない、と思ったツツネは一つの考えに辿り着く。



『妾自らが妖帝になってみようかと思ってのぉ』



『妖帝』とはほとんど全ての妖怪を従えるほどの実力と魅力を持った者であった。そして何よりも、誰よりも妖怪にとって〃自由の象徴〃だった。


 だからこそ、妖帝それを目指し、なろうとする道程ことこそが一番"楽しい"のではないかという考えに至ったのだ。


 そうしてツツネのその道を楽しむ過程、〃道楽〃が始まった。


 強くなる為に妖力を練り上げ、認めさせる為に妖術を磨いた。幸いにもツツネ自身の妖怪としての実力は生まれたばかりとは言えないほど強力であり、成長も著しかった。


 しかしそれが逆に妖帝への道を塞ぐ事となった。



「強かったのになんで?」

 


 あの時感じていた妖帝の力とかけ離れていることに気づいてしまったからだ。自身の強さを研けば研くほどはっきりと、鮮明に。


 何が違う。何故、違う。考え調べた結果、わかった事があった。


 実のところ、にわかに噂が囁かれていたが妖帝は純粋な妖怪ではなかったのだ。混じり物、混血体、そして「間者はざまもの」。呼び方は数あれど、つまるところ「半妖」だったのだ。


 ツツネは衝撃に襲われた。


 まさかあれほどの実力と魅力を兼ね揃えた者が純粋な妖怪でなかったのか、という事実に。と、同時に自身の純粋な妖怪としての姿に絶望した。


  半妖。種族間差別が少ない妖怪達にとって気にするほどではなかったが、持っている妖力の差は歴然として純粋な妖怪には叶わないはず。


 ではどうやって妖帝は「妖帝」と呼ばれるまでになったのか。


 そう考えたとき絶望とは一転、希望が見えた。


 その謎を解き明かした時こそ、自身も妖帝の領域へ辿り着けるのではないか、と。



『さて、ここからが重要じゃぞ』



 妖力で妖怪に及ばない半妖が何故に妖怪を上回るほどの実力を得られたのか。


 それは。


 半分、別の力を取り入れる事が出来たからである。そしてその半分とは「霊力」であった。


 妖帝は妖怪と人間の間に生まれた最近では稀有な存在だったのだ。その身には生まれながらに二つの力を宿らせていた。


 妖帝が何処で、何時、どの様に生まれ、どうやって育った半妖かはわからなかった。だが、彼はその二つの力を使いこなし妖界最強を手に入れた事実はわかった。


 ならば自身もそうなるしかない、ツツネは思った。


 さて、半妖になるには二つの方法があった。一つは他の種族と交わり生まれること。これはもはや無理だと判断した。その手段ではツツネ自身に対して意味がなかったからだ。


 残る手段は一つ。『我が身をオトス事』である。


 生真面目な「天使」共が顔を曇らせ、人の良い「悪魔」達が嬉しそうに微笑み、堅物な「菩薩」の奴等が溜め息をつくような行為。


堕落だらく』、『堕天だてん』、『失墜しっつい』そして『間堕はざまおち』と呼ばれる行為だ。


 ………。


 …………フム。


 まぁ、いいか。これがツツネの答えだった。


 自身は妖怪であり、楽しいことを優先するのだ。何を躊躇う必要があるのか。その手段しかないのなら踏み出すだけだ。行うだけだ。


 だからオトシタ。


 その後すぐに人間の住む世界に降り立った。そして、当然最初が一番面倒だった。


 半妖の体には力が足らず、自身の意志で堕ちた為に残りの半分ある器が空っぽだったのだ。しかも貯める事が出来ない。これにはかなり参った。


 向かう宛てもなく「この世界の獣」としての狐姿でさ迷い歩いた。


 妖怪としての時間がこの世界での生き方をより困難にさせた。時間が経つだけで起こる空腹、動くことで引き起こる疲労、少し妖力を使用するだけで身体中に巻き起こる脱力感。どれもが初めてであり、楽しくなかった。


 倒れ伏せるのにそう時間はかからなかった。この世界に降り立ち日の出を四回、日の入りを四回迎えた時だった。


 そして本当に力尽きる間際、幼き一人の少女に出会ったのだ。



「それが鷲都さんか。そしてそれが二人の出会い……」



 少女こと幼き日の包女は倒れ伏せる狐の姿のツツネを抱きかかえて囁きかけた。


「あなた、ただの狐……じゃないよね。魔物…かな?精霊でもなさそうだけど…とにかく力が足りないんだね。もう大丈夫。私の力を分けてあげる」


 と。


 何を言っているのだ、この娘は。ツツネは思ったが、もはや抵抗する気にはなれなかった。とにかくやり過ごしたかった。人間の、しかも幼い少女一人くらいなら今の脆弱な体、微弱な妖力でもあとあとなんとでも出来る、と踏んだからだ。


 ところがこれが思いがけない結果をもたらす。


 ツツネは包女が流してくれる未知の力に対し驚愕させられた。なんと、今の今まで貯まることの無かった体の内側を満たしていく力の奔流を感じたのだ。


 ツツネは思考を巡らせ記憶を辿った。この少女が自分に送っている力の正体はなんだ、と。自身の妖力を土に似た「黄」とするなら、この炎のような「赤」い力は……。


 妖怪じしんの持つ「動物性物質」と「鉱物性物質」を操る力であり、変化を促す「超越変幻」を司る力、妖力とは違う力。


 悪魔の奴等が生まれ持ち、「現象」と「動物的物質」を操る力、活性を促し「無限増殖」を司る力。


 確か名は…………『魔力』だ。


 普通なら(・・・・)妖怪には受け入れがたい力だったはずだ。魔力と妖力では力の性質が異なったから。


 しかし、自身の体は魔力それを苦もなく受け入れている。満たされる充実感がある。


 ツツネは確信できた。やはり間堕をしての半妖化は新たな力を手に入れる手段として間違いではなかった、と。


 魔力に満たされ、相乗された「動物性物質」を司る力と魔力元来の持つ特性「増殖」で新たに得た細胞を使い、狐の体を「変化」させたツツネは立ち上がり包女の前から姿を消そうと試みた。


 得たものは大きい。しかし、もう用はない、と判断したからだ。


 と、その瞬間、幼い包女は呟いたのだ。


「うゎ……不思議。私、あなたに魔力をあげたつもりだったのに……何だか私の方もあなたから力をもらった(・・・・・・)みたい」


 今度こそ本当に、


『馬鹿な、何を言っておる?』


 思わず声に出してしまった。力を渡した者が力を得るなど、あり得ない。にわかには信じられなかったからだ。


 そこまで反射的に考えてから不味いことにツツネは気がついた。包女を目の前にして喋ってしまったからである。


 流石に人の世界に疎いツツネであったとしても、「普通の獣」が喋ら無いことは把握していた。つもりだった。


 致命的だ、そう思い焦った。


 どうする。睨み付けるように思わず本能的に唸り声をあげてしまった。


「本当だよ、ほら!」


 しかし当の本人、包女は対して気にした様子もなく話かけてきた。その行為にツツネは逆に虚をつかれたことになった。当然、二の句が続けられず唸ることさえ忘れ黙りこんでしまった。


 お互い視線を交わし、妙な沈黙が生まれた。だが、これがツツネにとって我に返るだけの時間となった。


 冷静になったツツネは包女を観察した。


 おそらく目の前の少女は自身の魔力を体内で活性化させたのだろう。ツツネへと送るために。気配を感じれば受け取った時より強い力を感じた。


 確かに考えてみればおかしい。


 魔力の特性、活性や「増殖」を踏まえて考えればまだわかる。だが、少女は活性化した魔力をツツネへと流したのだ。つまり増やした分は使ったはずなのだ。


 と、なれば増減は無いはずなのだ。なのに少女の体から感じる魔力は増えていた。


 理由を考えた。


 何故、何故、何故。


 答えは出ない。変わりに音が響いた。この世界に降り立ってからツツネの枷となっていた「肉体」の内側から響く音。


 鼓動だ。


 初めてこの音が心地好く聞こえた。ワクワクした。


 理由を考える時間がとても楽しかった。久し振りに面白いと思った。俄然、興味がひかれた。


 もしかしたらこの少女自身も知らない何か特別な秘密があるのだろう、と仮定が生まれた。


 それを知り、追求し、さらに魔力を宿らせるためにもう少し一緒にいても良い、と思った。楽しそうだと想像できた。


『なぁ、小娘。一つ提案がある』

「ていあん?」


 ツツネの話に首を傾ける包女。意味が伝わらなかったのか、とツツネは言い換えた。


『聞きたい事がある。我と共に強くなりたくはないか』


 そう囁いた。ツツネの言葉を包女がどう解釈したのかわからなかったが、


「………………うん!」


 と、とても嬉しそうに笑った。包女その表情を見てツツネも牙を見せて応えた。


 あまり上手い笑顔ではなかったが、包女は恐れることなく受け入れてくれたようだ。


 その瞬間、「利害の一致」というこれ以上ない協力関係が生まれた。


 まさかその後、利害の一致を越えるほどの友情が芽生えるなどこの時は微塵も思っていなかったのだが。




 という「切欠」の話はそこで終了した。




 ─────





  「何を話してるの?」


 瞑想を終えた包女が声をかけてきた。なので九津は、


「二人の馴れ初め聞いてた」


 と楽しそうに答えた。


「馴れ初め?あぁ、筒音と出会った頃の話?懐かしい」


 顔を綻ばし思い出したように目を細める包女。


『ウム。そしていよいよ物語は現在へと進んできたところじゃ!』

「筒音がこっちに着た理由と鷲都さんと一緒に居る理由。利害の一致ってのは納得だった」

「利害の、ね。確かに筒音から妖力をもらって魔力に変換。今度は筒音に返す。これは出会った頃からの約束だから続けてるけど……」


 チラッ、と包女は筒音を見て視線だけで意思疏通を為し遂げたようだった。


 二人のやり取りに「ん?」と九津が首を傾げると、


『とにかくじゃッ!』


 場を崩すためか筒音が声を大にした。


『妾はまず包女を強くする。そして妾がもらえる魔力量をさらに増やすのが目下の目標じゃっ』


 と白髪を翻して立ち上がり、ふんぞり返る。


『最終的には、妾が妖怪最強である古の皇の名〃妖帝〃を名乗るのじゃっ』

 

 筒音は力強く宣言した。




 ───のを、聞いていた人影があった。


 草木の影から姿を表した人影は、ビシッと力強く右の人指し指を三人に向けながら叫んだ。


「不思議な気配を辿ってみたら……あなた、妖怪なのですね」




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