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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
百鬼夜行の来襲 日の沈む後 
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第六十四話 『教えてあげるよ』

 束都が増援として現れたとき、瑪瑙の脳内に響く声があった。筒音たち妖怪や、呪術師・・・が使う会話の手段の一つ、妖気もしくは「呪気」に波長を合わせて言葉を送る術式だった。


 加えて、瑪瑙は直接自分に対して呪術で言葉を送れる人間をたった一人しか知らなかった。


 霊峰と呼ばれる山で出会った呪術師、アーサン・バークラッブだ。


 今回の原因を作った重要人物でもある。


 瑪瑙よりも多彩な術式を扱う彼は、言葉の発声手段を「変えて」会話を当然のようにやってのけた。そんな彼の言い分は、出来ないなんて思わないこと、らしい。何よりも、成り行きでとはいえ、瑪瑙と彼は式神契約術式つながりがある。言いたくはないが、今一番、肉親以上に肉体的にも精神的にも近い存在かも知れない。


 絶対に言いたくはないが。


 そんなこんなで試しにその会話方法じゅじゅつを何度かやってみた。呪術に言葉をのせて距離や語彙を越えること。それは、天才と自他共に認められる二人にはとっては造作もないことだった。


 しかしだ。時期が悪い。こんな状況に一体なんなのですかと、瑪瑙は苛立ちともわからない感情で答えた。


 ──今、ものすっっごく取り込み中なのですよっ。


 術式にのせた言葉は式神契約つながりを経て彼に届く。


 ──うん、知ってるよ。星が教えてくれたし、何より君が呪力染眼を使えば、ほぼ完璧に君の視点を再現してみれるからね。


 この場にそぐわない雰囲気で、あはは、と爽やかに笑ったようだ。彼のそんな情景までが直接伝わる。瑪瑙は本気で殺意が芽生えそうになった。


 ──だったらなおのことなのです。今、あなたと下らない会話をしている暇は…。

 ──酷い、全くもって酷いなぁ、君って子は。


 そんな瑪瑙をバッサリ切り裂くように彼は被せてきた。ああ、もう、この人は本当に人の話を聞かないのですね、と瑪瑙はさらに苛立った。


 続く彼の言葉を聞くまでは。


 ──僕らは今、式神契約中つながってるんだよ?それはつまり、その場の誰の力にはなれないけど、君の力にだけはなれるんだよってことだよ、僕は。


 そして、ねぇ、僕の可愛い術師さん(マイマスター)。アーサンはそう締め括った。


 一瞬だが、鳥肌がだった。なんと気持ちの悪い声色で、君の悪いことを言うのだろうと。


 それでも、その鳥肌が瞬間的に引く頃には、瑪瑙の中で鱗が落ちたような気持ちになった。そうだった、とアーサンの言葉に息をのんでもいた。鼓動が早くなる。なんで今まで忘れていたのだろう。自分はこの呪力染眼以外にもまだ力を得ていたではないか。


 人間の式神(アーサン)という力を。


 ──とりあえず簡単でいいからさ、君の方から状況を伝えてくれるかい?僕の方からだけじゃ曖昧すぎるからね。


 彼は言う。瞬時に理解し、瑪瑙はとにかく意識して伝えた。この会話方式はほぼ一瞬で意思疏通が可能になる。都合がいい。


 ──なるほどね。妖怪が町にって…本当に君たちは愉快な星のもとに生きてるんだね。

 ──この事の一端はあなたにも責任があるのですよ。

 ──わかってるってよ。じゃぁ、どうしようか。


 アーサンに責任を押し付けるつもりはないが、瑪瑙は愚痴気味に伝えた。こんなとき、軽く受け流してくれる彼の性格は助かっている。言うだけ言えて、すっきりと出来るからだ。本来の呪術師は、飄々とした彼のような性格でないといけないのだろう。


 ──今、必要なのは連絡手段なのです。大勢の人たちが加勢に来てくれても、纏まりがなければただの烏合の衆なのです。

 ──へぇ、それだけで現状を解決出来るのかい?

 ──何とかして…「へ?」今、なんと。


 思わぬところで間の抜けた声を出してしまった。ベルフェゴルがふと怪訝そうにこちらを覗いた。


 ──だから、それだけでいいのかいって聞いたんだよ。それだけでそのなんともし難い状況を打開出来るのかいって。



 瑪瑙はこの会話を悟られぬように、まだ(・・)泣き出しそうな表情を取り繕う。


 ──どう言うことなのですか、説明を求めるのです。

 ──簡単だよ。この呪術方式での会話の対象や範囲を、君がそっちで選別し拡大すればいいんだ。僕も当然手伝うしね。


 事も無げに言う。瑪瑙が考えもしなかった大型の呪術になるだろうことを知りながら。


 瑪瑙は、泣き出しそうな顔で開いた口が塞がらないという不思議な状態に陥った。


 ──な、何をそんな簡単そうに…。


 考えもしなかったし、考えても実行しようなどとは思えなかった。この会話方式でそんなことが出来るなんて。そもそも、


 ──日本は今、夜だよね。大丈夫、僕には幾数多の瞳がある。


 言い訳を考える瑪瑙を知ってか知らずか、彼は不敵そうに伝えてくる。ああ、そうだった。瑪瑙も思い出した。そうだった、彼は星読み(・・・)の呪術師だったと。


 星座という概念を式神にしているような人物だ。


 ──感覚を共有して星が教えてくれた情報を伝えるね。現地での君の呪術しごとが多くなるけど、一回繋げたらあとのことは…僕がなんとかするから。


 瑪瑙は笑いを堪えながら悔しがってしまった。こんなにも、飄々と現れて、無理難題をさせようとする彼の「なんとかするから」という言葉がどれ程頼りになり心強くなれるかを思い知らされたからだ。


 ──わかったのです。やりましょう…必ず、やりとげましょう。


 そうして瑪瑙は声に出したのだ。





「私たち(・・)に…って、お嬢ちゃん、わかってるの?」


 看垂が虚をつかれたように尋ねてくる。瑪瑙は力強く頷き返す。もう、演技の必要はない。


「もしかして瑪瑙ちゃん…あの人のことを言ってるの?」


 包女がまさかという顔になった。瑪瑙はまた頷き返すと、すぐに印を結び、言葉を並べ始めた。


「星を繋ぎて座する場所へ。星を伝って律する場所へ。繋ぎたまえ、伝えたまえ」


 まずは向こうからの情報を得る。彼から星座を通した町全体が脳裏に浮かぶ。その情報量にくらくらしそうだ。それをなんとかこらえて今度は選別を始めなければならない。


 その様子をぼんやり眺めているベルフェゴルは、眠たそうに、眩しそうにしているだけだ。このときには瑪瑙にもわかったことがある。彼は、彼自身はされたことに関して返すことはあるが、されなかったことに関しては何かしようとはしないのだ。本当に傍観者らしい実力者だ。


 結論。だったら無視して続ければいい。


 さて、赤色の力を纏っているのは魔術師たちだろう。馴染みのある分かりやすい色だ。上手く受け止めてくれるだろうか。そんなことを考えながら呪術を送る。続いて原動力者エンジニアだ。わかりづらい。今になって、九津が言っていたことがわかる。だが方法はある。


 最初に光森の気配を探す。そしてここから縁と呼ばれる繋がりをたどればいい。縁とは一度出会った、もしくはこれから出会う可能性を秘めた源力同士の繋がりを指すものだ。原動力者エンジニア同士である光森なら、他の原動力者エンジニアとのつながりも強い。


 最後は半妖である筒音。ここには妖怪たちが数いるが、間違えるわけがない。他の得たいの知れない妖怪たちに比べ、なんと親しみのある緑か。しっかりとそれをとらえる。


「繋ぎ、伝わり、星の道。座して律する我が命じるっ!とどけっ!!」


 さぁ、行くのですよ。瑪瑙は昂る気持ちで一つの大きな呪術を完成させる。


 名付けて、呪力術式結界内会話方式メノウネットワーク


 その呪力術式は、ざらつく感覚として瑪瑙が対象として選別した者たちのところへと伝わり、繋がり、そして意識の中で集うはずだ。


 ──皆さん、聞こえますかっ。


 ──


 ───


 ────


 呼び掛ける。何も聞こえない。駄目か、微調整が足りないのか。そう思った瞬間、


「……っ」


 瑪瑙の頭の中で一気に何かが流れ込むような、逆流するような感覚に包まれた。正確には巻き込まれるような感覚。アーサンがそれ(・・)を制御しようと別の場所に一ヶ所に集めてくれているのがわかる。


 ──大変上手に出来たものだ…初めてのはずなのに流石だよ。では、こちらも答えないとね、僕の可愛い術師さま(マイマスター)


 彼が宣言した。すると、


 ──どわっス、ビックリしたっスよ、もぉ。何スか、これ。

 ──わ、わかんないよ。けどさ、なんかさ、頭の中に直接声がさ、聞こえるよ。おーい。

 ──おいおい、なんなんだ、どうなってんだ。こりゃ。

 ──あの声は確か鷲都にいた不思議な術使いの少女の声だったな。

 ──…はは、こりゃすげぇ。エクセレントッつぅやつだな、トーノキ。お前のタイプCよりも広範囲なんじゃねぇか。

 ──いやはや、いやはや、本当にそうかも知れませんねぇ。これは実に興味深い。

 ──……この声、これって、皆に、繋がってるんの?トーノキや、モアたちの声も、聞こえる。


 声が溢れてきた。不安に驚く声、感心に震える声。そしてその感情共々だ。


 成功だった。


 ──何よ、やるじゃない、お嬢ちゃん。

 ──ああ、これなら連絡が問題なく出来るな。

 ──あっ、看垂さんたちッスね。何スか、これ。

 ──そうだぜ。待つだけ待たされていきなりこれじゃぁよ、訳わかんねぇよ。

 ──いや、だいたいの想像は出来るさ。これから始まるのだろ?

 ──これってさ、不思議な術を使うあの子にもさ、繋がってるんだよね。わぁ、君さ、元気だった?あの時はごめんねぇ。

 ──悪いな、椴丸。今回は挨拶はあとだ。そう言うわけでこちらの状況とこれからやって欲しいことを伝える。それとお前たち…それにこの声が聞こえる者たち、お前たちの状況も教えて欲しい。


 唯螺がそう切り出した。そうすると、全員の頭の中に同じ情報がほぼ瞬時に共有された。


 ──なるほどな、魔術師、呪術師、原動力者エンジニア、夢の共同戦線ってわけか。相変わらずお前らはアンビリーバボォだな、おい。

 ──モア、頼むからはしゃぎ過ぎないでくれよ。共同だからな、共同。

 ──ふふ。本当に長生きはしてみるものですね。まさか自分がこういう事態に巻き込まれるなんて。

 ──あら?あらあら、なかなかどうしてダンディズムあふれる声がするわね。よろしく頼むわ。

 ──ひぇ…、本当にすごいっスよ…自分も大概一般とはかけ離れた生き方をしてたと思ったッスけど…これはすごいッス。

 ──ねぇ、すごいだろ?この星は未知で溢れてる。楽しいよねぇ。

 ──おっ、この声、これを繋げてる奴だよな。お前も強そうだな。今度会うことがあったら手合わせしようぜ。

 ──ツツメ、ツツネ、私の声、聞こえてる。私、ここにいるよ。

 ──うんうん、聞こえてるよ、シャオシンさん。来てくれたんだね。

 ──ああ、聞こえておるわ、やかましいほどにな。余計な声もたくさんのぉ。

 ──え、え?それってさ、僕のこと?うわぁ、どうしよう…落ち込みたくなってきた。

 ──それそこあとだ、椴丸。いや、昨日のうちに済ませるべきだったな。


 混線状態。混沌状態。そんな声の中、


 ──……てめぇら、少しは、黙りやがれぇぇぇぇぇぇぇっ。


 少年の声が響き伝わる。





 全員が頭を抑えるような仕草におちいった。それは操流人の、脳内を直接駆け巡る声のためだ。瑪瑙とアーサンによって繋げられた感覚は、その声の大きさを感情と共に意思の強さで表す。


 つまり、混線した脳内で響き渡る操流人の声は、それだけ意思の強さを示していて、うるさかったのだ。


 ──どいつもこいつもグダグダガタガタとうるせぇな。人の頭ん中でガチャガチャ言いやがって。


 操流人はなかなかに怒り心頭のようだ。自分も相当うるさくしておいて、棚に上げたようなことを言う。


 さらに伝える言葉が頭の悪そうな擬音ばかりになっている。そんな彼は一人、表情に浮かべているものがあからさまに違った。他の者たちが焦り、期待、不安、希望、理解、不理解などの様々な感情を見せる中において、その声を響かせた感情、それは苛立ちだった。


 人間たちが、頭の中で爆発したような声に思わず耳を押さえ込むさまを怪訝そうに見る妖怪たちを余所に、操流人はを開いた。


「おい、金髪っ」


 ──おい、金髪っ。


 同時に脳内に直接声が伝わる。その内側に秘められているはずの感情と共に。


「で、結局よぉ、てめぇはそこでしょぼくれてるだけか、ああ?」


 ──さっきから一言も声を出さねぇでよ。


 ここで皆、はたと気づいた。そう言えば、あれだけの人数の声を聞いて、ただの一度も九津の声を聞いていなかったと。


 これほど感覚だけで意識を共有出来る状況にあって、ただの一言もないと言うのはかなり不自然だ。それは九津自身が考えることを放棄したと言い換えられる。


 それを理解してしまったから、操流人は苛立っているのだ。


 なんでてめぇはまだ膝をついたままなんだ。なんでてめぇはまだ俯いたままなんだ。なんでてめぇはまだてめぇは立ち上がらねぇんだ。なんでまだてめぇは、あの時のように不敵に笑わねぇんだ。


 操流人の感情と呼べる声が全員に伝わる。


「なぁ、金髪。俺はよぉ、お前に聞いてんだよ。いつまでそのみっともねぇ姿を、お前のお仲間どもに見せつけんのかってなぁ」


 ──聞こえてんだろうが、九津・・


 操流人の言葉のあと、先ほどまで嘘のように頭の中でなされていた会話が途絶えた。いや、途絶えたというのは正しくない。正しく言うのであれば、皆、待っているようだ。


 これからやるべきことの前に、これから成すべきことの前に、一人の少年の声を。


 その声こそがきっと、この戦いの狼煙になるはずだから。


 しかし、まだ足りないようだ。九津は黙ったままだ。


 頭の中での会話は瞬間的であるが、それでも妖怪たちもいつまた動き出すかわからない。


『無駄だろう、人間たち。この人間に何を求めているのかは知らないが、こいつの心は折れたのだ』


 アスモデウスが言う。


『お前たちの相手も今からしてやる』


 冷たい声。操流人と視線がぶつかる。


「…覚悟、覚悟だ?んなもんとっくにあんだよ。つうかな、俺はてめぇに声はかけてねぇんだよ。黙ってろ」

『かけた相手に届かぬ声を響かせるなど、なんの面白味もなかろうに』

「…けっ、あのな、そんなこと、てめぇが決めんな」


 白と黒の存在をその身に絡ませながら操流人は言う。


「声が届かねぇかどうかは、今、俺たちが決めてんだよ」


 ぴくり、と九津の体が動いた。


「なぁ、そうだろう、てめぇら(・・・・)


 操流人は、脳内を通して尋ねた。九津を含めた、全員にだ。


 笑う者がいた。喜ぶ者がいた。胸を震わせる者がいた。拳を握りしめる者がいた。


 そして、言葉は溢れた。


 ──おや、おや、どうされたのですか、悟月くん。座り込むには君はまだまだ若すぎますよ。せめて私くらいにならないと。

 ──あ、あのさ、参考にはならないと思うけどさ、これが終わったらこうしようってさ、楽しいことを思い浮かべるといいらしいよ。

 ──つうかよ、目の前には強い奴がいんだろ?楽しめるじゃねぇかよ。羨ましいぜ。膝をついてる場合じゃねぇよ。

 ──ちょっと「」さん、そんな馬鹿みたいな言い方、ダメッスよ。もっと、こう、ほら、頑張れ…的な。

 ──くくく、今の君の発言もなかなかの根性論丸出しだと思うよ。うん、でも、そのぶん、わかりやすいよ。

 ──根性論か、悪くないな。おい、ココノッ、立てっ。そんでさっさと終わらせろっ。俺は帰って月見酒と洒落込みたいんだよ。

 ──はぁ、どいつもこいつも男ってやつは、本当にやぁねぇ。でもね金髪の坊や、あんたそれだけ期待されてるってことよ、わかる?

 ──そうですよ…おや、やっと私たちも繋がりましたね。こちら雀原です。遅くなりましたがようやく加わることができましたね。

 ──スズメハラ?ツツメたちの知り合いの、あの?うぁ、…今日はみんな、一緒だね。

 ──本当に賑やかですね。これほどまでの人間が集まってくるとは驚きです。操流人さまも楽しそうだ。

 ──ああ、そうだな、「」。戦いの最中だと思えんほどだ。本当に不思議だ。

 ──はっはっはっ、いや、実に不思議じゃよ。このざらつく感覚が噂の呪術というやつか、まだまだ知らぬことがたくさんあるよのぉ。

 ──本当ですね。彼には教わってばかりです。父として娘のことを、魔術師としてその知識を。だからこそ、僕は彼の力になりたいと思います。


 一人ひとりの声は確かに九津に聞こえているはずだ。


 そして、一番側にいた者たちが言葉を伝える。


「お前がさ、頑張ってることは知ってる。今回のことだってそうだ。何だかんだとお前頼りになってた…悪いな。もし本当に立てないのならあとは俺たちに任せろ」


 光森は強く決意するように言った。


『妾はあくまでも包女と自分のために戦うまでじゃ。じゃがな、お主の守ろうとするものくらいついでに守ってやっても良いのじゃよ…お主がそれでも満足できるのなら、な』


 筒音は緩く流れるように言った。


「九津さん、見てください、聞いてください。私は私なりに頑張りましたよ!いえ、これからだってまだまだ頑張れます!九津さん、あなたは本当にここで立ち止まるつもりですか?」


 瑪瑙は昂る気持ちを抑えるように言った。


 そして、包女は九津に優しく教えを説くように言う。


「悟月くん、もし、自分の力が至らないとその膝をついているのなら聞いて。あなたは強いよ。今、その理由を教えてあげるね」


 これはあの四月に出会ったときの彼の言い方を真似したのだ。覚えているかな。不謹慎ながらそう考えながら。


「一つ、才能に恵まれなかったあなたは努力を惜しまなかったよね」


 話には聞いている。術式不発。そんな才能に負けないためには努力しかなかったと。


「二つ、努力を惜しまないあなたには、その努力を諦めないで、認めて、信じてくれる人が支えてくれた」


 諦めたら、これまでに自分を支えてくれた人間たちを裏切ることになるからとは彼はよく言っていた。


「三つ…これはもう、わかるよね。だってあなたには、私も、皆もついているんだもん」


 さぁ、どうだ。これでも立ち上がれないのか。そう言いたそうに満面の笑みを浮かべた。


「私たちのために駆けつけてくれる人たちが、私たちと共に戦ってくれる人たちが、こんなにもいるんだよ…わかるよね?」

「……ん」


 少年は、小さく声を出した。






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