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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
百鬼夜行の来襲 日の沈む前 
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第五十八話 『邂逅の時間』

 近づけば近づくほど相手の居場所がわかった。気配を、妖怪である証、妖力の気配を隠す気がないのだから。見る者が見れば、容易に辿ることが出来るほどだ。


 幸か不幸か場所はこの時期、人の出入りのない海岸沿いだ。とくに今日は、町の賑わいが人間を誘い、この辺には人影は一切ない。


 そこへ五人は導かれるように向かっていた。


 理由、それはそこにいる妖怪と戦うためだ。おそらく気配が届く範囲からかんがみても、相手は相当強いだろう。


 それでも五人は恐れずに向かう。


 相手が強かろうがなんだろうが、やることは同じだ。そして情けないことに作戦なんて無いも同じだというのも進む理由になっている。


 相手がこれほどまでに存在を強調してくるのなら、来襲される前に迎え撃つ。それ以上は、単純に後手に回るだけで得策とは言えないからだ。


 結局、九津たちは大きく二組に別れた。攻撃側ごにん防衛側そのただ。


 攻撃側は現在進行で海岸沿いに向かっている九津、包女、筒音、瑪瑙、光森だ。まとまっているのなら全員で、全力でぶつかるためだ。単純だが動きやすく、現時点での攻撃力と経験値を考慮すれば申し分ないはずだった。


 防衛側は大人たちに任せた。梨麻、日戸、ガタック、それに鷲都の者たちから数名。あと悟月家からの有志を募った。


 万が一にそれらを逃がした時に、おもに防衛の要になってもらうためだ。指揮を執り大々的に動くのは里麻たち鷲都の者たちに任せた。不得手とはいえ精霊結界が使えるからだ。最終防衛手段として、里麻が率先して大掛かりな結界で町そのものを包み隠す手はずだった。





 もう少しで海岸沿いだ。九津は何となく呟いた。


「最善の手かって聞かれたら、ずいぶんとずさんな面が多すぎるんだよね」

「仕方ないだろ。実際問題、動かなきゃ町に妖怪が現れるんだろ?そっちの方がまずいだろう」


 そうなのだ。そのはずだ。


「先輩さんの言う通りなのですよ、九津さん。町中での戦闘などもっての他。それをさせないためにも、私たちは動くのです」


 瑪瑙も言う。


「念のために雀原さんたちがいつでも精霊結界を発動出きるように町のあちこちで待機してくれているし、桃輝さんたちも協力してくれるんだもん。なんとか出来るよ…ううん、しよう!」


 意気込みながら包女も言った。筒音も並んで走りながら、器用にシシシと喉をならして同意した。


『その粋じゃな、包女。どこの馬の骨の妖怪だが知らぬがこの周辺は妾の縄張りじゃ。どんな理由があるかは知らんが、勝手な真似はさせんのじゃ』


 縄張りって、筒音さんの方が悪役のようなものの言い方なのですよ。瑪瑙がそう茶化すと皆笑った。


「はっはー、頼もしいな、俺の仲間は」


 九津は何となく呟く。


「え?何か言った?」


 それはあまりにも小さな声だったので隣にいる包女にさえ聞こえなかった。別にいいのだ。聞こえなくても。九津はニィ、と口の端を持ち上げて、


「んん、なんでもないよ。それよりも」


 前を見据える。もう暗がりだが僅かに海岸線が見えてきた。


 居る。確実に。九津の中で緊張感が生まれた。


『近いのぉ』

「包女お姉さん」

「うん」


 筒音の声を合図に瑪瑙と包女が揃えたように己の瞳に力を宿す。一人は呪力を、もう一人は繋がりを意味する妖力を。


「呪力染眼っ」

「え、えと…妖力染眼」


 掛け声と共に二人の色違いの瞳が目映く優しく輝いた。その結果、二人にも鮮明に力の気配が色として視界に写るようになった。


 包女は瑪瑙の勧めで本来魔術には必要のない掛け声を取り入れた。これが上手く集中するのには便利だと思った。ただ少し、恥ずかしいが。


「先輩?」

「ああ、多分お前らほどじゃねぇが…いけてるはずだ」


 九津が光森に確かめる。原動力者エンジニアである彼は、干渉浸透テレパシーの能力により調整を必要とする、らしい。術式による形式と違うため九津たちにはわからないが、この調整を行うことにより彼も多少なら気配を見ることが出来るとのことだった。


「うっすらとだが、オレンジ色の世界に混じった砂のようなもんが見える…気がする」


 どうやら上手くいったようだ。目を凝らす彼の視線の先は、間違いなく九津の見ているものと同じはずだ。


「さっすがぁ、飲むこみ早いなぁ。じゃぁ、行きますよ」



 海岸沿いにたどり着いた。居た。


 そこには五人の妖気を放っているものたちが居たのだ。


 彼らは砂浜の方に立って、こちらを待っているようだった。一番先頭の青年と少年の間のような妖怪と視線が合う。


 睨み付けるような瞳。ニッ、と受け止める。


「やぁ、やぁ、やぁ、始めまして、君たち。こんなところに何かヨウカイ?…何てね」


 先手を打つ。茶化したような口調。いつも通りの九津の戦闘スタイルだ。


 それにしても静かだ。海の波打つ音がやたらと強調される。五人とも何も言わない、かと思っていると、


『不粋な奴らだ。まだ時間があったものを』


 視線を合わせていた妖怪が、その瞳を隠すように目を閉じて応えた。それを皮切りに、


『とかとか言って、じ、っ、と、待ってたくせに』

『当たり前だぞ。なぜ、我らが逃げる必要があるのだ』

『んー、多分ー、そーいう問題じゃない気もするけど…』

『まぁ、いいじゃないですか。どのみちやることは変わらないのですから』


 他の四人の妖怪たちも喋りだした。そして最後の一番背の高い妖怪が言った台詞に、全員構えた。


 やることは変わらない。


 ならば、


  『そういうことだな、人間。我らがなぜここに居のるか、その身をもって知るがいい』


 互いに戦いに来たのだから。


「色々とあるだろうけどさ、遠路はるばるの道のり、即刻…立ち去ってもらうよ」

『ぬるいな』


 動いた。直線的な攻めて。九津も踏み込み、光の剣、万式紋で迎え撃つ。


 激しい衝撃が拡散する。相手の妖気と九津の込めた霊力の弾けた霊気が辺りを振動させる。


 ビリビリと後ろに控えていた全員に伝わる。それが戦いの狼煙だ。


 小柄な少女のような妖怪が光森の前に跳んでいく。


『あ、じゃあじゃあ、あ、た、し、は…この子っ』

「兎…いや、よく眼をこらせ…ってチビっ子?」

『あ、むっかー。この姿結構気に入ってるのに!よ、う、しゃ、は、してやんないんだから』


 ぷんぷんと聞こえてきそうな表情からは似つかわしくない妖気が溢れた。


『え、え!僕らも戦うのー?』


 自分の身の丈ほどもある大剣をぶんと一振りして一歩一歩近づく妖怪。


『ふふふ、待ったかいがあったぞ。その二色に輝く瞳、その身に宿す二つの力、何よりもその存在が放つ意思の強さ。私が戦いたかったのはお前のような人間だ』

「出来れば話し合いを…」


 相対したのは、愛用の黒刀を取り出した包女だ。


『無理だな。私は戦いたいっ』

「…わかりました。納得させるために、あなたを負かします」


 これ以上は話すよりもこちらの方が早い。そう切り替えた。妖怪は嬉しそうに笑った。


『え、え…これは』


 一番背の高い妖怪が筒音を見て微笑んだ。


『これはこれは珍しい』

『え!!「」も行くのー?えー』

 

 笑われた、筒音は機嫌を損ねたようにハン、と鼻を鳴らした。ずんずんと互いに寄る。額と額がかち合いそうなほど睨み合う。が、相手は笑みを絶やさない。それが腹が立つ。


『あなた、間堕まだですね。この世界にあなたのような間堕が残っていたとは…驚きました』

『フン、間堕はざまおちをマダなどと呼ぶ者、久方ぶりに見たのじゃよ。どこの時代遅れの妖怪じゃ』

『こういう廻り合わせがあるからこそ、やはりこの世界は楽しいですね』


 ますます曲線を浮かべる妖怪を、


『楽しむのは妾の方じゃがな』


 強気な笑みで見返した。


『あー、みんな始めちゃったー』

「…えい」

『うわっ、なにするんだよー』


 一人、ポツンと残った瑪瑙は、一人、ポツンと残った間延びしたように喋る妖怪に水鉄砲から呪力を打ち出して当てた。かっこうの的だったからだ。瑪瑙は、悪くないだろう。


 正直に話す。


「いえ、すきだらけでしたので、つい」

『うー、あー、もー。仕方がない、あとで僕だけ何もやらなかったって「」に怒られるのも面倒だし、「」に追っかけ回されるのも最悪だし…って、痛っ』


 地団駄を踏みながらぶつくさ文句を言っている相手に、瑪瑙はもう一発撃ってみた。


『だから何すんだよー』

「と、とりあえず、攻撃を少々」


 間延びしたように怒り出す妖怪に、瑪瑙はどうしたら良いのかわからなくなっていた。


 こんなはずではなかった、と。


 しかしそれも杞憂に終わる。


『ちっくしょー、やってやるー』


 やっぱり間延びしたような声で、彼が妖気を放ち出したからだ。


 瑪瑙は良かった、と心底思った。これでなんとか雰囲気についていける、と安心したからだ。





 

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