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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
一学期の起承転結 編
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第四話 『同級生・結』

五宮五都ごくごと』と言えば知る人ぞ知る一族達を差す。


 刀剣、 長柄、投擲、火器それに無手を加えた武闘を扱い戦う一族を"武の五宮ごく" 。


 属性、精霊、召喚、付加それに空間と分けられる魔術を操り戦う一族を"術の五都ごと"、と呼んでいた。


 時の流れに名は表舞台より消え去ったが、その勢力が完全に衰えることは無く、今もなお続いていた。

 

『五宮五都』と呼ばれる五と五の十族は年に二度、互いに五宮、五都内にて〃力比べ〃と称した慣わしがあり、内々で階位を競いあっていた。古くは切磋琢磨の意味合いを持つこの慣わしも、五宮内においては権力争いの一端を担うものとなり、五都内に関しては例年の通過行事として軽視されるところがあった。


 五都内において軽視される理由は力比べ事態があまり意味を成さないものと黙認されていたからである。


 これは空間魔術を得意とする一族、都地みやじが序列一位に座し続けたからである。


 魔術とは血と才能であり、生まれもった天恵に大きく左右される事が珍しくない為におこった事態であった。さらに都地は最強それを証明するかのような強き魔術師を輩出し続けた。


 さらに劣るとも続く二位の属性魔術の都鳴みやなりは圧倒的な万能性を見せ、他の三族を寄せ付けなかった。


 そもそも空間と属性は一族意識として、「最強」を誇示せんとする枯渇した思考にとりつかれている長老者が多く、中でも手段として血縁者同士の婚姻による混血が今だ使われるほどだった。


 他の一族からすれば、現代において「そこまでの手段をもってするのであれば仕方がない」と諦めもついていた。だからこそ重要視されるのはな"序列第三位"の称号であり、不必要なのは"序列最下位" の汚名であった。

 

 競うように、そして争うように残りの三族である精霊魔術の束都つかみや、召喚魔術の呼都こみや、付加魔術の鷲都わしみやは称号と汚名を賭けて己の一族の得意とする魔術を始め、魔術師としての力量を極めんとしていた。


 しかしある時、三族の保っていた均衡が崩れることとなった。六年程前、当時の鷲都家の女当主が病魔に倒れ、命をおとしてしまったのだ。


 一族総出の懸命な治療の甲斐もなく、「運命」が受け入れろと嘲笑うかのようにあっさりと。


 それからというもの鷲都家は女当主の婿養子である夫の男が次代の当主として務めた。けれど、もともと魔術とは無関係に生きてきた男にとって一族を率いるのは簡単では無く、こと〃力比べ〃の慣わしにおいては困難の一言に尽きた。


 時は過ぎ、鷲都の名は地に落ち、数年の月日は〃序列第五位〃を代名詞にさえしてしまう始末だった。


 他の一族の中には侮蔑をもって笑う者さえ出てきた。


『飛び立つことさえ出来ない落ちた鷲』と。





 それが鷲都包女わしみやつつめの両親の話であり、今も続く付加魔術の一族の話であった。




  「悔しい……」と十に足らない幼き日の包女は唇を噛んだ。「お父さんは頑張ってるのに…どうして」と。


 何にたいして怒ればいいかわからなかった。


 何にたいして恨めばいいかわからなかった。


 何にたいして……。考えても、考えてもわからなかった。


「ごめんね、包女。僕じゃやっぱり君のお母さんのように上手くは出来ないみたいだ」


 包女の父が悲しそうにの包女の頭を撫で、呟く度に言いようのない感情が蠢く。


 何にたいして……。


 そうか……。ようやくわかった。


 成長という時間の流れが教えてくれた答え。


 何に怒り、何を恨めばいいのか。


 簡単で単純で純粋な答え。


「弱い自分」だ。


「家族を守れない程弱い自分自身わしみやつつめ」だ。


 答えは出た。では、どうすればいい。強くなる為に。強さを得る為に。


 そんな時だ、一匹の妖怪と出会い、自身の才能に気づく事が出来たのは。







 ────





『とまぁ、妾が聞いておるのはこんなものじゃな』


 筒音は、包女を膝枕したまま通称「廃病院跡地」である鷲都家の魔術が施された結界広場に腰を降ろし思い出を語るように話した。その隣で九津は黙って聞いていた。


「そうか、鷲都さんが言っていた意味がようやくわかったよ。魔術師の一族ってのはかなり大変なんだ……」

『わからなくて当然。包女が背負う誇り、そして張るべき意地を知る者はまた一族だけなのだろうからな。しかし、こんな何処の馬の骨ともわからん奴に負けてまた包女は悔しい思いをするのであろうな』


 筒音が悲しげな瞳で包女を覗く。双子のような姿からは、半妖とは感じさせないほどの慈愛がみてとれた。


「どこの馬の骨って」と九津は苦笑いになりながら、


「ある意味俺は特別だから。けど鷲都さんだって充分特別だよ。何てったって俺の師匠と同じ能力ちからの持ち主なわけだし」


 と続けた。


 驚くように称賛するように話す九津に対して筒音は満足そうに鼻を鳴らし頷いた。


『そうじゃろう。包女が特別だということは妾の方が良く知っておる』


 そう言うと誇らしげに包女の頭を撫でた。


 大量の魔力を一度に行使したうえに打ち砕かれてしまった反動により、包女は気を失ってしまっていた。外傷はなく、始めは疲労により荒くしていた呼吸も今では穏やかな寝息に変わっていた。そして筒音に触られた場所がくすぐったいのか少し体を揺らした。


『思い返せば随分と逞しくなったものだ。初めて包女と出会ったときは本当に魔力も弱く幼かった……しかし』

「才能はその頃から頭角を見せていた?」


 続きを紡ぐ九津の言葉に頷く。


『ウム。お主は包女の才能ちからの希少さを知っているようだがな。身内でもこの能力ちからの事を完全な意味で知る者はおるまい。まぁ、妾を見て間堕はざまおちと呼ぶくらいだ。お主の知識の程度はおそらく包女以上だろうがな』


 と筒音は言う。


「言ったろ、俺は特別だって。それに深く広く教えてくれる師匠にも恵まれたからね」


 九津は調子をとるように肩をすくめた。何と言うべきか考えながら。


「人間はそもそも魔力なんて持っていない。だけど魔術が使える。それは何故か?」

『フム、唐突じゃの。包女達が当たり前のように使っておったしのぉ…何故、と聞かれると』


 膝に包女を乗せたまま腕を組み思案する筒音。九津は包女と同じ顔で面相を変化させる筒音を面白そうに眺めた。


『妾が妖力を使えるように、魔術師の一族とはそう言うものだと思っておったわ。答えは何ぞ?』


 フフフ、と含み笑いが聞こえてきそうな悪い顔に笑みを張り付け、九津は人差し指を筒音の前に持っていった。


「〃人〃は誰しも強弱高低あれど霊力を持っていて、"霊力は万能だから"という前提がこの世の理にあるからなんだ」


 九津は得意気に語る。


「人間は生まれながらに特定の術式に必要な魔力なんかを持っていない。だけどこれは必然なんだ。それこそ人間だからね。しかし魔力を使える者がいるのも事実だ……」

『もったいぶるつもりか?』


 つまらないのか、少し不貞腐れたように合いの手を入れて遮る筒音。九津はあはは、と渇いた笑い声で一区切りし続けた。


「えー、ようは……さっき話したね、霊力は万能だって。答えはつまり、霊力はあらゆる力に進化・・させる事が出来る力ってことなんだ」

『ほぉ…進化、か。お主はやはり面白い事を言う。なるほど、なるほど。確かにのぉ。それならある程度辻褄(・・)が合うわけだ』


 納得したのか、筒音はようやく口の端を引き上げてシシシ、と楽しそうに空気を鳴らした。


「いわば人の進化の歴史みたいなもんだね。そして進化それは一方通行なんだ、普通・・は。だってどれだけ退化なくしたとしてもそれは進化と評されるからね。だけど鷲都さんは違う」


 本来、魔力に進化した霊力は戻す退化ことは出来ない。ましてや妖力として存在する力を霊力に戻し、それからさらに魔力に進化させるなんて事は普通では考えられない、と九津は教わっていた。幾つかの例外を除いて。


 その例外の一つが九津の師である島木月帝女しまきあてな有する能力、「魔力変換」であった。


 これは世界に存在する「あらゆる力」を魔力に等価交換して、自身の力とする能力であり、所持する者は少なくとも九津は師たる月帝女しか知らなかった。


「まさに特別。俺の師匠から言わせれば〃選ばれる側〃ではなく〃選ぶ側〃の者。最高の魔術師の資質を持っている事になるよ」


 そう告げ締め括った。


『お主の師匠は使えるのか。流石は妾の力を受けた包女を打ち負かす程のお主を弟子に持つ者じゃ。それにその言葉……』


「……ッ!ツ、ツネ?私……は」


 と、筒音の話す途中に包女が目を覚ました。呆けたように起き上がる気配はなく、言葉を途切れ途切れに紡ぎ出した。


「そっか、私、負けちゃったんだ。……あぁ、こんなところで負けてるようじゃ、序列なんて上げられない……みんなの期待に応えられない」


 両手で顔を隠すように震え出す。


「お父さん…………ごめん」



「謝る必要なんて無いんじゃない、鷲都わしみやさん」


 少し間をおいて九津がなんともなく包女に言う。しかしそれは包女の感情の沸点に触れる一言だった。


「あ……あなたに、何が、わかるっていうの」


 起き上がりながら、包女は九津ここのつを睨み付ける。


「私は、私は強くならなきゃならないの!一五になって、ようやく当主代行として戦える年齢になったのに……あなたのような人に負けて。わから無いでしょ、私の気持ちなんか!私は、強くなって、そして、そして」

「だって鷲都さんは魔術師として充分過ぎる程に強いからさ」


「…………ッ!」


 自分の言葉を遮られた包女は九津をより強く睨み付ける。歯を食い縛る顔つきは、馬鹿にされているのを堪えるかのようだった。


「私は、あなたに、負けてっ」

「あれは正確には魔術勝負じゃないよ。鷲都さんだって薄々気づいてるんじゃない?俺は特別だって。筒音つつねには簡単に説明したけど純粋な魔術勝負なら俺は負けてる」

「でも」


 だからって、と小さく唇を噛む。


「そうだね、鷲都さんが納得出来るように強いっていう理由を三つ、教えてあげるよ」


 九津は二人によく見えるように人差し指を伸ばし「まず一つ目」 と宣言した。


 目付きの鋭さはまだ弛まないが自然と包女も黙り、九津の言葉に耳を傾けていた。


「魔力変換の才能。これは魔術師として最高・・の才能だ。俺の師匠が保証する」

『お主ではないのか』


 筒音の言い分に口の端を持ち上げるだけで応えて包女の反応を見る。


  何処まで九津の言葉を受け入れたのかわからないが包女は視線を下に向けた。


「じゃあ、二つ目」と九津は中指を伸ばし、話を続ける。「魔術がとても独創的だ」


 付加魔法はもともと動物性の構造をもつ物質に魔力的要素を駆使するものだ。


知ってる(・・・・)とは思うけど魔術っていうのは鉱物の大きさを変化させることは出来ないはずなんだ。だけど鷲都さん突然出したように見せたよね」


 返事の変わりに首肯する包女。


「あれは筒音の妖術・・を交えて組み合わせた新しい魔術だよね、木刀これが本物のじゃ無いのはそのせいだよね」

『それも気がついておったか』


 木刀を見ながら言う九津に驚いたふうに筒音が呟いた。


『包女の魔力に反応するように木刀擬きに妖術をかけておいたのじゃ。妖魔の傑作品ぞ』


 今度は九津がうんうんと頷いた。


「魔力に反応する妖術……確かにずっと馴染んだ二人の術と力なら不可能じゃないからね」


 ぶつぶつ言いながら妙に納得していた。


 そして「最後、三つ目」と薬指が伸ばされる。


 いつの間にかまた視線をあげていた包女。食い入るように見つめる中、筒音の手を握りしめていた。



「大切な誰かのために頑張れる人が弱いなんてことはあり得ない、絶対に」


 包女が息を飲んだ。


 九津の言葉が包女の鼓膜を揺らした。


 鼓膜を揺らした振動はゆっくりと全身を巡り、胸に響き、心に届いた。


 そして、ゆっくりと時間をかけて包女の瞳から大粒の涙となってこぼれ落ちた。


「筒音に聞いた。お父さんや他の一族の人達為に頑張ったんだよね?」


 九津に優しく問われ、包女は口を開閉して言葉を探しているようだった。しかし上手く出てこないもどかしさを含め、本当に何を言っているんだこの目の前の同級生は、と言いた気な表情だった。


「協力してくれている友達、筒音の為に」


 今度は、何をわかったつもりで喋っているんだ、だろうか。目を一層大きく開けた。


「何よりも……亡くなったお母さんの誇りを取り戻す為に」


「…っ。わた」


 実際、包女の心中では言葉はあった。ただ、本当に声に出そうとした時、出なかったのだ。


 喉の奥で詰まっていた言葉。


 そんな"当たり前"の事をなんであなたが自信満々に言っているんだ。そんな風に言われたら……言うしかないじゃないか。聞くしかないじゃないか。


 ようやく吐き出せた言葉。


「わた、私は」

「落ち着いて、鷲都さん」


  涙混じりの声が静かな時間に小さく響く。九津に届く。


「私は……私は強いかな?お父さんや筒音の協力を無駄にしないくらい、お母さんが守り続けた誇りを取り戻せるくらい……強いかな?」


 言いきると包女は俯き、筒音の手を握る力を強くしたようだ。筒音が笑った。二人で九津の答えを待っている。



「当たり前だよ。だって鷲都さんは本当に最高の魔術師の資質を持ち合わせてるんだから。だとしたらお母さんに感謝しなきゃね。きっとその資質はお母さん譲りだろうから」


 包女はまだ顔をあげない。ただ、僅かに震えていた。そして、


「その上に努力を惜しまない人なんだからさ。強くないはずがないんだよ」



 九津は清々しいほど力強く、優しく告げた。


 聞いていた包女は、



「うぅ………うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」



 今まで堪えてきた物を吐き出すように声をあげた。


 目の前に同級生がいることも気にする事もなく、泣いた。筒音はそんな包女の感情ごと包み込むように抱き締めた。


「本当は怖かったの、当主代行が。負けるんじゃないかって。また……お父さんや一族の人達が悲しい顔するんじゃないかって。そしたらもう……本当に立ち直れないんじゃないかって」


 涙と言葉が溢れだす。


「だからずっとずっと魔力変換の練習をしてた。家でも学校でも。そうしてなきゃ落ち着かなくて、そうしなきゃ負ける想像しか出来なくて。でもっ、でもね、わからなかったのっ。自分がどの位置にいるのか、どれくらい強くなったのか。四月になって来る日も来る日も想像だけが膨れ上がって押し潰されそうになるの。本当に大丈夫なの?私は強いの?って……だから、だからね」

「うん」


  何か言いたげな包女に九津は首を傾ける。


「あなたに強いって、資質を持ってるっと言われたとき……凄く嬉しかった」

「目の当たりにしたら誰でもわかる事だけどね」

「最初はあれだけ腹が立った相手だったのに」

「それは…ごめん、謝るよ。俺も挑発的だったし」


 平謝りする九津を、涙を拭いた包女が覗いた。


「私の魔法を褒めてくれてありがとう。私の才能を認めてくれてありがとう、お母さんの事……思い出した」


 筒音に寄り添いながら照れたように呟く。


「腹も立ったし、悔しいけど…それでも少しだけだけど……希望が持てた」「おっ!」


 包女が涙に腫れた目を細めて笑った。見逃さなかった九津は思わず声を出した。そして自身もニッと笑う。


「鷲都さんの笑った顔、初めて見たけどやっぱり可愛いよね。学校ではずっと暗~い顔してたから見てみたいとは思ってたんだ」


 九津がそう言うと、一瞬だけ間をあけてから包女の顔がだんだんと真っ赤になるのがわかった。近寄れば蒸気の発生音さえ聞こえそうだ。しかし、夕焼け染まる黄昏時は九津からそれを隠した。


 気が付く事の無い九津は気にする事もなく続ける。


「そうだ、鷲都さん。どうせ校内で魔力や妖力がわかる人、居なさそうだしさ、もう眼帯外したら?片方が黄色い瞳なんて珍しいけど、鷲都さん可愛いからみんな気にしないと思うよ」


 包女の片目の瞳色が違う事を指摘し提案する。


 眼帯は妖力から魔力を変換する練習の際に漏らすことを気にかけず集中する為につけていた。勿論、"宿らせている"為に"目の色"が変わっている事を隠す為の意味合いも兼ねた。


 だが包女も入学当初調べたように九津も感覚的に理解していた事だが、校内にて魔術師の類いは居ないはずだった。ならばもう必要は無いんじゃないかと九津は考えたのだ。外した方がいい、と。


 しかし、あまり包女は聞いていなかったらしい。突然体を硬直させると、今度はわなわな震わせ始めた。


「……………………っか!かわ、かわ、可愛いって、そんな」


『あはははははは、小僧、なかなかにやりおるのぉ』


 しどろもどろになり両手で顔を挟む包女を筒音が盛大に笑った。笑った拍子に体が浮き上がり、お腹を抱えた。


「あと学校ではあまり練習しない方がいいよ、疲れるだけだし。鷲都さんさえ良ければ俺、付き合うから」

「え?え?!ええええっ!つ、付き合う?」

「うん、練習相手でよければさ」

「あ……!あぁ、練習、練習ね!」

『ハハハハハハハ』


 笑いながら筒音は『こんなに笑ったのはいつの日以来じゃろう』と小さく呟やいた。その声は二人にも聞こえたらしく互いに笑いあった。


「ねぇ、私はもっと強くなれるかな?」


 穏やかな声で包女が九津に問いかける。


「大丈夫、今よりずっともっと強くなれるよ」


 大切な人の大切な言葉を九津自身思い出しながら「だって」と優しく答える。


「信じることが大切だから」


 しばらく三人で日の沈んだ空の一番星を見ながら話をした。


 まるで目次の項目のような身の上話や何かの序章と間違いそうになるような思い出話を。


「いろいろあったけど、鷲都さんと話せてよかった。」

「うん、私も」

『大円団、そういうのじゃろう?』

「じゃあね、また明日学校でね」

「またね、悟月くん」

『さらばじゃ、九津』


 帰り道、この付近の学生が御用達の駅にて九津は包女達と乗る車両の違いで別れた。


 先に乗り込んだ包女達を見送って、今日の出来事に「ああいう面倒ごとなら悪いことばかりじゃない」と一人頬を緩めた。


 しかし、九津は知らなかった。


 ある意味、本当に面倒なことが起こるのは翌日の登校からなのであることを。





 ─────




 朝、校門を抜け玄関口をくぐり抜けて生徒指導室を横目に教室を目指す。その途中で級友数名がトイレに行くらしくすれ違った。


 特に考えることもなく九津が「おはよっ」と挨拶をする。と、


 グッ。


 いきなり一人から親指を立てられた。何だ一体、と疑惑の眼差しを送る九津に、


「聞いたぜ、悟月」「めちゃくちゃいい仕事したな、お前」


 等と言ってきた。級友数名は気がすんだのかそのままトイレへ。疑惑を拭えぬまま九津が教室に入ると、

 

「悟月くんが来たよ」


 と名前を呼ぶ声が聞こえた。


 変な反応だなぁ、と思いながらも声をかけてくる気配がないのでなるべく気に止めないように自身の座席に向かった。


 座りがけ、こちらを見ていた包女と視線が合った。その顔にはあの似つかわしくなかった黒い眼帯は外されており、綺麗な金がかった"黄色"の瞳があった。


 九津は挨拶をしようと近付いた。


「鷲都さん、おはよっ。やっぱり外した方がいいよ」


「おはよう、悟月くん。ありがとう。外す勇気は悟月君がくれたんだよ」


 と包女は笑った。その瞬間、ザワっと室内の空気が九津と包女に集中したような気がした。


「見た見た、あれ。やっぱり鷲都さんが眼帯卒業したのって悟月君が関わってたんだっ」「昨日、いきなり二人で帰っていったから驚いたんだけど」「きっと二人っきりでいろんな話したんだろうね……例えばさ…」


 むしろ集中しているのは外野である室内の級友達自身であり、彼ら彼女らの妄想事情かも知れなかった。


 しかし九津は妙に納得した。すれ違った級友達も、室内でざわめく級友達も勘違いをしてるのだ、と。


 包女が眼帯を外した事によりそんな騒ぎになり、原因を追究した挙げ句が現状なのだろう、と。


 さて、なんと言って誤解を解こう。


「告白かな、やっぱ」「決まりっしょ。俺が守るから、的なやつ」「でもさ、鷲都さん。眼帯外して正解だよね、めっちゃ綺麗度増してるし」


「…………」


 とにかく、まずは女子の級友達が喜びそうなその手の告白なんか一切なかったことから始めようか、九津はそう考えた。


 流石に、魔術べつの告白ならあったが言うわけにもいくまい、と頭を悩ませながら。


 面倒ながらも普通の日常を始めよう。


 そう、非日常を知る九津は思うのであった。





 ちなみに、級友達の誤解を解くのに三日かかった。不思議と包女が積極的に解こうとしなかったらだ。そして、当然表に出る事の無い筒音は面白そうに眺めているだけだったから。






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