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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
百鬼夜行の来襲 日の沈む前 
59/83

第四十九話 『ヒトを選ぶコト』

さぁ、恥ずかしながら第五章の始まりです。


作者曰く、「妖怪編」になります。どうぞよろしくお願いいたします。

 




「もー、いー、かーい」


「まーだだよ」


 数える間の僅かな時間。世界は少しだけ変化する。


 それがどんな変化をもたらすかもわからないまま。





 ────





猛威もういかい


間堕まだだよ』


 黄昏時のわずかな時間。世界は大きく変化する。


 昼から夜へと変化するように、世界そのものを巻き込んで。





 ────





 夕暮れ時。高校の一室の窓から見えたあまりにも綺麗な黄昏色に、書類に目を通していた兜耕蔵は一瞬だが意識を奪われる。耕蔵は教員であり、空を見上げることが少なくないわけではない。しかし今日、目に入るこの黄昏いろは妙に新鮮だった。


 十月ともなると、これほどまでに鮮やかな夕陽が見られるのか、と感動するほどだ。同時に、あいつだったらこれほどの綺麗な夕陽を見たら、不幸の前触れみたいで嫌なんですけどね、などと言ってくるだろう生徒の顔を思い浮かべて笑ってしまった。


 そんなもの想いに近い感情に溶け込んでいると、校内において活動の無い生徒たちに下校を促すチャイムが鳴った。時計の針は午後四時半になっていた。


「お疲れさまです、大変ですね。今日はほとんど籠りっきりだったんじゃないですか」

「仕方がないさ、受け持ちはないからな」


 兜が一息ついたのがわかったのか、仕事を手伝ってくれていた若い教員の天道星継が話しかけてきた。


 普段なら一人で可能な範囲を引き受けてやるのだが、ここ最近はパソコンなどを介して行う書類ごとが増えてきた。そのため無理を言って手伝いを頼んでいる。星継の人柄の良さに甘えているのだ。


 何より、今回引き受けた案件は自分だけでは何ともならないとも踏んでいる。


 それは外部からの依頼ごとだ。


「しかし参った。まさかこの年になってこの手のイベントに関わらないといけないとは」

「それを言ったら僕もですよ」

「君はまだ若いからいいだろう?俺なんてもう五十後半だぞ…」


 溜め息を吐きながらこの室内に持ち込んだ自前の備品により、星継と二人ぶんのコーヒーを入れる。


 机上に置かれた書類に目がいくと、どうしても気が重くなる。そもそもどうして自分のところにこの案件がきたんだ、と嘆きたくも。


 そんなもの簡単だ。自分がそれを取り締まる責任者であり、他の教員たちがそれならばまずは自分に目を通してくれと、なかば強引に押し付けられたからだ。とくに最高責任者たる校長が。


「うーん、年に関係なく、苦手なんですよねぇ」

「ああ、それはわかるな。あれは人が選んでやる行事じゃないからな。人を選んでやる行事だ」

「人が選ぶんじゃなくて、人を選ぶんですか」


 変わった言い回しに星継は首を傾けた。若い者には伝わりづらいかと、


「あれはな、やりたい人々が集まってやる行事じゃないんだよ。俺からすれば、行事そのものを置いて、人々が選ばれてるようなもんなんだ」

「はぁ」

「あー、つまりだな、あれに着いていける新人類と、あれに着いていけない旧人類とを選別しているようだ…ってのを言いたかったんだ」


 ようやく星継はなるほど、と納得したようだ。


「でも、生徒たちの中にはかなり楽しみにしてる子たちもいるみたいですよ」


 星継が言う。そうだろうな、と耕蔵がコーヒーに口をつける。座り直し、ペラペラと一枚の書類、というよりは告知用のポスターに近いものを眺めながら、


「すでに新人類として選ばれたような世代だからな…よし、なら今年の文化祭はよりいっそう取り締まりを厳しくしなきゃならんな」

「はは、お手柔らかに」


 耕蔵がコーヒーを飲み干した。そして早めの帰宅を目指してまた書類に向き直った。


 その書類の一番上、表紙になる部分には中身とは全く正反対の大きく可愛らしく編集された目立つ表題が書かれていた。


『商店街及び付近の関係各社による合同ハロウィンについて』


 妙にハロウィンという文字だけが強調されていたのは、言うまでもない。





 ────




 金髪の少年、悟月九津は自宅にて、裁縫箱と買ってきたものが入っている買い物袋を散らかしてごそごそとやり始めた。


 そんな九津に声をかけたのは母、輝だ。だから端的に答える。


「ハロウィン」

「はろうぃん?ハロウィンってあのハロウィン?文化祭で?」

「ん、そのハロウィンのイベントを文化祭と平行して一日だけ合同でやるんだってさ…兜先生、メチャクチャ嫌がってた」


 だろうね、と母の輝は乾いた風に笑った。兜という五十代の教員は、彼女の知る限り堅物という代名詞が似合う方だ。ハロウィンなんて陽気なもの、正直いって似合わない。


「しかしなんでまた合同で」

「今年は商店街のイベントと重ねてやってくれとか頼まれたらしくて、校門前にチェックポイントを作るらしいよ」


 九津が買い物袋を漁りながら、複数枚の紙を綴ったものを取り出した。それを手渡された輝は、


「へぇ、なんだか大事ねぇ」

「大事かはわからないけど、なかなか大変だよ…兜先生や鷲都さんが」

「包女ちゃんが?なんで」


 綴りに目をやっていた輝が、不思議そうに視線を送ってきた。鷲都さんというのが名前を包女と言い、九津の同級生の女の子であることは輝も知っている。その彼女が大変になる事案がわからない。


 イベントなのだから全員ではないのか、とそう言いたいのだろう。そんな母を察してか、九津は事も無げに、


「生徒も仮装していいんだって。そしたら皆…」


 自分の中で回想をし始めた。それは突然のことだった。





 ──マジですか。ってことは鷲都さんの小悪魔風ゴスロリドラキュラ娘コスプレとか見れるんすか。


 ある生徒が言った。その時の、何言ってるんだコイツ、的な包女の顔は面白かった。


 ──え、そんな…ゴスロリファッションとリアルオッドアイなんて、最上級の組み合わせしていいの。最高じゃん。


 ある生徒がのった。確かに整った顔立ちと体形に、妖艶な黄色と古風な黒色の瞳を持つ包女にはよく似合うだろうと同意した。


 ──よっしゃ、皆。鷲都さんが一人でプレッシャーにならないよう、このクラスは皆でやろうぜ。


 ある生徒が煽った。もはや引き返せないほどの勢いに圧され、口をパクパクとしながら赤面しているだけの包女は、九津が知っている彼女らしさが皆無であり、可愛くも可哀想にも見えた。





 回想終了。


 ことの顛末を聞き、はぁ、と呟くとと必要事項を消化するように輝は尋ねた。


「それであんたもせっせとやってんだ」

「ん、そ」

「私も行くわっ!」


 と、突然に二人しか居なかったはずの部屋に響く声。二人は怪訝そうにその声のする方を見た。正体は九津の祖母である灯里と言うのはわかっていたのだが、


「ビックリした…お義母さん、どうしたんですか」

「私も行くわって言ったの。私も行く、そして包女ちゃんを綺麗に撮るのっ」


 ずんずんと部屋に入ってくるや否や、リアルオッドアイコスプレ美少女、と鼻唄を混じらせて輝から綴りを奪い取った。どうも日付などを確認しているらしい。


 その鼻息の荒さに二人は若干の距離感を感じながら、


「お義母さん、保護者って肩書きは免罪符ではないですからね。程度を守って先生たちに注意されないように気を付けてくださいよ」

「校内は、身内でも入れない場合があるからね」


 念のために釘は刺しておいた。


「で、あんたのそれは?なんのコスプレよ」


 糸を通し、器用に針をチクチクと動かしている九津に輝が近づいた。


「なんだっけ…」

「ミイラ男って言ってなかった?」


 灯里のあと、本を持った妹の界理が入ってきた。図書館から帰ってきたらしく、輝がお帰り、と言った。


「ん、それ。包帯巻くだけの簡単なやつっ」

「だからさっきから黒地の長袖にぐるぐると…てっきり自分で怪我した時ようにどこでもどんな箇所でも巻けるように練習してるのかと思ったわ」

「ん?…んん!いやいや、それなら針、要らないよね、…ってか、これくらい巻くだけの怪我なら何とかしてよ」

「生きてんなら何とかしなさいよ」


 面倒そうに顔を歪める輝に、九津も心底信じられないものを見るようになった。


「…んな無茶な」


 すると、界理も現実的な無茶発言をしてきた。


「でも月帝女さんも言いそうだよね」

「…んな無茶な」

「あ、それと」


 輝が遮ってきた。どうやら息子の意味のない突っ込みには興味がこれっぽっちもないらしい。仕方がないので手を動かしながら聞く姿勢をとるしかない。


「包女ちゃんと並ぶなら、せめて少しクオリティ高く作っておきなさい」

「…ん」


 そして、仕方なさそうに返事をした。





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