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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
怪の公式 編
37/83

会議 ─ファーストミッション─

 ここはある人物の家だ。そこで、ある目的のために集まった者たちがいる。


「あ…い、う?え…を」


 その一人、モア・ダイパスが首を捻りながら一言一言を丁寧に発音する。しかし、最後で間違えた。


「ああ、ああ。惜しいですね、モアさん。そこは〃を〃ではなく、〃お〃と発音してください」

「…………モア、惜しい」


 老人と孫。そう見える二人、蜂峰総喜とホォ・シャオシンが並んで言う。モアはイライラを抑えていい放つ。


「黙れ、トーノキ。だいたいなんで俺が日本語なんぞを覚えなきゃならないんだ」

「いいえ、いいえ。それは違いますよ」

「何が違うってんだ。ちび、お前からもいってやれ」

 

 総喜の否定に、より不機嫌そうに言うモアは、傍らのシャオシンにも話しかけた。


 しかし、シャオシンはふいっとそっぽを向いた。


「…………ちび、違う。シャオシン。ホォ・シャオシン」

「なんだ、そりゃ?」


 この時、モアは初めて聞いたのだ。今まで名無しだったはずの少女の名前を。


「はい、はい。いつまでも名無しのお嬢さんじゃ可哀想なので、僭越ながらこの総喜、誠心誠意をもって名付けさせていただきました。ね、シャオシンさん」

「…………ね、トーノキ。どぉ、モア。シャオシン、シャオシンって言うんだよ」


 互いに体を傾けながら、言葉を合わせた。シャオシンは表情こそ乏しいが、嬉しそうだと言うことだけはモアにも伝わった。


「へっ。いい名前じゃねえの、ちび」


 だからといってら合わせる理由にはならないが。


「…………ちび、違う。モア、意地悪」


 またまたそっぽを向くシャオシン。


「だぁぁぁ、俺ゃぁな、慣れねぇ言葉の勉強で疲れてるんだよ…って、そうだ!だから、なんで俺が日本語を勉強しなきゃなんねぇのかって話だろうがっ」


 そんな子供の態度に、疲れを吹き飛ばすように捲し立てた。シャオシンは総喜の後ろに素早く身を隠した。


「はてはて、覚えてほしいからに決まってるじゃないですか。それに日本語だけではありませんよ。中国、ロシア…あとせめて五か国語は覚えていただかなくては」

  「…………そう、決まってる。だから、勉強、するの。モア、そんなこともわからないの?」


 ぴょこ、と総喜の後ろから顔を出し、シャオシンも続ける。イライラと、顔ひきつらせながら、モアは言葉を強めた。


「だから、何でだよっ」


 こほん、と咳払い。


「そうですね。強いていうなら、繋がりを繋げるため、ですかね」

「あ?」


 モアの間の抜けな声。


「さてさて、モアさん。今、私たちは、私の超能力ちからによって言葉の壁を無くしています」

「…まぁな。俺が英語。お前が日本語。んで、ちびが中国語か?」


 モアに頷き、シャオシンは言う。


「…………トーノキの居ないとき、モアの言葉、わからない」


 総喜は首肯し続ける。


「そうです。私たちはそれぞれが違う言葉を話している。しかし互いに理解できるのは、私の浸透干渉テレパシー系の超能力のおかげです」

「それでいいじゃないか」

「それでは駄目なのです」


 モアの発言を、ピシャリと否定する総喜。


「…」

「…………トーノキ、少し、怖い」


 その迫力に、モアは言葉を詰まらせ、シャオシンに距離をとらせた。


「すみません。しかし、シャオシンさん、モアさんも。よく聞いてください」


 いつもの穏やかな調子に戻る。


「今後、私たちが一緒にいるということは、それでは駄目なのです」

「何でだ?」

 

 これは純粋な疑問だった。


「いいですか?私たちは、私たち自身の言葉で語らなくては、誰かに伝わらないからです」

「…………伝える?何を?」


 総喜は、にっこりと笑った。


「心…ですよ」


 モアはシャオシンと顔を見合わせた。


「人間は言葉をもって生きている。例え神話の時代、神の怒りをかって言葉を隔てられたとしても、人類は古の時を経て、また繋がろうとしているのです」

「…オカルトじゃないか」

「信念です。そうすることで人間はより繋がれるという、私なりの」


 モアの茶化すような言葉を、やんわりと総喜は訂正した。


「…付き合えと?」


 総喜は笑みを崩さない。代わりに答えたのは、


「…………私は、もっと、トーノキのことを知りたい。モアのことも、知りたい」


 シャオシンだった。モアは観念したように天を仰ぎ、顔を手でおおった。


「ちっ。これも最初の条件の一つかよ」

「そうとっていただいて結構です」

「ったく。いいか、もう後付けはなしだからな」


 総喜は、なに食わぬ顔だ。


「はいはい。わかりました」

「…………モア、勉強する?」

「するよ、します、します。というかな。俺のことを呼び捨てにするなよ、シャオシン(・・・・)。俺の方が年上だぞ」


 シャオシンが、見慣れていないとわからない程度の変化をみせて、喜んだ。


「…………トーノキ、今、モアが、シャオシンって」

「はいはい。聞きましたとも」


 嬉しそうに総喜も答える。モアは居心地悪そうに呟いた。


「ったく。で?何で日本語からなんだ?お前の国の言葉だからか?」

「ああ、ああ。そう言えば言ってませんでしたね。今後、主な拠点は日本のこの地域になると思ってください」


 モアの顔は、またイラつきを纏った。


「…だから、後付けにするなっつってんだよ」

「…………モア、うるさい」


 シャオシンは、小さな両手で耳を塞いだ。





 議題。


 ①言葉の共有、そして目的。


 ②今後の活動拠点に対する発表。

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