会議 ─ファーストミッション─
ここはある人物の家だ。そこで、ある目的のために集まった者たちがいる。
「あ…い、う?え…を」
その一人、モア・ダイパスが首を捻りながら一言一言を丁寧に発音する。しかし、最後で間違えた。
「ああ、ああ。惜しいですね、モアさん。そこは〃を〃ではなく、〃お〃と発音してください」
「…………モア、惜しい」
老人と孫。そう見える二人、蜂峰総喜とホォ・シャオシンが並んで言う。モアはイライラを抑えていい放つ。
「黙れ、トーノキ。だいたいなんで俺が日本語なんぞを覚えなきゃならないんだ」
「いいえ、いいえ。それは違いますよ」
「何が違うってんだ。ちび、お前からもいってやれ」
総喜の否定に、より不機嫌そうに言うモアは、傍らのシャオシンにも話しかけた。
しかし、シャオシンはふいっとそっぽを向いた。
「…………ちび、違う。シャオシン。ホォ・シャオシン」
「なんだ、そりゃ?」
この時、モアは初めて聞いたのだ。今まで名無しだったはずの少女の名前を。
「はい、はい。いつまでも名無しのお嬢さんじゃ可哀想なので、僭越ながらこの総喜、誠心誠意をもって名付けさせていただきました。ね、シャオシンさん」
「…………ね、トーノキ。どぉ、モア。シャオシン、シャオシンって言うんだよ」
互いに体を傾けながら、言葉を合わせた。シャオシンは表情こそ乏しいが、嬉しそうだと言うことだけはモアにも伝わった。
「へっ。いい名前じゃねえの、ちび」
だからといってら合わせる理由にはならないが。
「…………ちび、違う。モア、意地悪」
またまたそっぽを向くシャオシン。
「だぁぁぁ、俺ゃぁな、慣れねぇ言葉の勉強で疲れてるんだよ…って、そうだ!だから、なんで俺が日本語を勉強しなきゃなんねぇのかって話だろうがっ」
そんな子供の態度に、疲れを吹き飛ばすように捲し立てた。シャオシンは総喜の後ろに素早く身を隠した。
「はてはて、覚えてほしいからに決まってるじゃないですか。それに日本語だけではありませんよ。中国、ロシア…あとせめて五か国語は覚えていただかなくては」
「…………そう、決まってる。だから、勉強、するの。モア、そんなこともわからないの?」
ぴょこ、と総喜の後ろから顔を出し、シャオシンも続ける。イライラと、顔ひきつらせながら、モアは言葉を強めた。
「だから、何でだよっ」
こほん、と咳払い。
「そうですね。強いていうなら、繋がりを繋げるため、ですかね」
「あ?」
モアの間の抜けな声。
「さてさて、モアさん。今、私たちは、私の超能力によって言葉の壁を無くしています」
「…まぁな。俺が英語。お前が日本語。んで、ちびが中国語か?」
モアに頷き、シャオシンは言う。
「…………トーノキの居ないとき、モアの言葉、わからない」
総喜は首肯し続ける。
「そうです。私たちはそれぞれが違う言葉を話している。しかし互いに理解できるのは、私の浸透干渉系の超能力のおかげです」
「それでいいじゃないか」
「それでは駄目なのです」
モアの発言を、ピシャリと否定する総喜。
「…」
「…………トーノキ、少し、怖い」
その迫力に、モアは言葉を詰まらせ、シャオシンに距離をとらせた。
「すみません。しかし、シャオシンさん、モアさんも。よく聞いてください」
いつもの穏やかな調子に戻る。
「今後、私たちが一緒にいるということは、それでは駄目なのです」
「何でだ?」
これは純粋な疑問だった。
「いいですか?私たちは、私たち自身の言葉で語らなくては、誰かに伝わらないからです」
「…………伝える?何を?」
総喜は、にっこりと笑った。
「心…ですよ」
モアはシャオシンと顔を見合わせた。
「人間は言葉をもって生きている。例え神話の時代、神の怒りをかって言葉を隔てられたとしても、人類は古の時を経て、また繋がろうとしているのです」
「…オカルトじゃないか」
「信念です。そうすることで人間はより繋がれるという、私なりの」
モアの茶化すような言葉を、やんわりと総喜は訂正した。
「…付き合えと?」
総喜は笑みを崩さない。代わりに答えたのは、
「…………私は、もっと、トーノキのことを知りたい。モアのことも、知りたい」
シャオシンだった。モアは観念したように天を仰ぎ、顔を手でおおった。
「ちっ。これも最初の条件の一つかよ」
「そうとっていただいて結構です」
「ったく。いいか、もう後付けはなしだからな」
総喜は、なに食わぬ顔だ。
「はいはい。わかりました」
「…………モア、勉強する?」
「するよ、します、します。というかな。俺のことを呼び捨てにするなよ、シャオシン。俺の方が年上だぞ」
シャオシンが、見慣れていないとわからない程度の変化をみせて、喜んだ。
「…………トーノキ、今、モアが、シャオシンって」
「はいはい。聞きましたとも」
嬉しそうに総喜も答える。モアは居心地悪そうに呟いた。
「ったく。で?何で日本語からなんだ?お前の国の言葉だからか?」
「ああ、ああ。そう言えば言ってませんでしたね。今後、主な拠点は日本のこの地域になると思ってください」
モアの顔は、またイラつきを纏った。
「…だから、後付けにするなっつってんだよ」
「…………モア、うるさい」
シャオシンは、小さな両手で耳を塞いだ。
議題。
①言葉の共有、そして目的。
②今後の活動拠点に対する発表。




