会議 ─アンダースカイ─
ここより超能力を語ります。
(* ̄∇ ̄)ノ
いざ、「怪の公式編」、始まり、始まり。
二十年程前に起こった出来事。
それは四界を巻き込んだ大戦があったこと。
一つは天界。天神皇の守りし世界。天人たちの住まう場所。
一つは魔界。魔王皇が治めし世界。魔人たちが屯う場所。
一つは妖界。妖帝皇の遊びし世界。妖人たちが寝付く場所。
最後の一つは間界。治める皇のいない、人間たちが生きる場所。
それらの者たちが、一年近く戦い続けたということ。
そして──。
──と言う、まるで夢物語のようなことを議題の一つにした会議が、二十年程前のある日、ある場所、ある時間にて行われたということ、だ。
─────
「そんなことが本当にあったなんて…この目で見てなくてはどうにも信じられなかったな。四界大戦などと、お伽噺もいいとこだ」
二十代半ばの日焼けした褐色の肌を露出させた青年は、皮肉気味に口元をあげて肩をすくめた。
「ええ、ええ。ですから見ていただいたのです。さすがに、さすがに、妖たちの世界までは危険を伴い過ぎるので、こちらでの戦闘のみの観覧になりましたが」
五十代に見える細身の男は、丸眼鏡をくいっとあげて丁寧に答えた。
「…………その世界って、私でも簡単には行けない場所?」
簡素な服に身を包む、十代に届かない少女は、無表情な顔を可愛らしく傾けた。
「さぁ、さぁ…どうでしょう。私自身も、そちらへは足を踏み入れたことがないので…しかし、可能性としては…」
丸眼鏡を光らせる。褐色の青年はそれで充分だと応えるように顎に手を当てた。
「ゼロではない、か。まぁ、当然だな。なにせ、あの軍勢の中にいた東洋の少年は、むしろ自分が率いて向かったように見えたからな 」
「はい、そうです。つまるところ彼は可能性の塊なのです」
褐色の青年に賛同しながら、丸眼鏡の奥の瞳を閉じた。
「それで…結局、お前は何が言いたい。その娘と俺に、四界大戦を見せておいて」
顎で少女をしゃくりながら、記憶の中にある景色を思いだし、不敵そうに丸眼鏡の男に問いかけた。
「私ですか?私は結局のところ、あなた方は普通ですよ、と言いたかったのです」
二人を平等に扱うように見た。少女はきょとんと呆けた。
「…………普通、なの?私、化け物って言われたよ?」
特徴的な間の空くしゃべり方。相手の様子を伺うようなそのしゃべり方が、癖になるような生き方をしていたことを彷彿させる。
「胸くそ悪い話だな。この娘が化け物なら、俺はなんだ?本物の異界者を見てしまったあとじゃ、冗談半分に悪魔などとも言えんじゃないか」
憤慨したように青年が地面を踏む。びくりと体を震わす少女を見て、ばつが悪そうに頭をかいた。
その二人を、満足そうに眼鏡越しに見ていた男は口を開いた。
「だから、言いましたよね?あなた方は普通です。普通の〃人間〃なのですよ。それをわかってほしくて、あのようなものを見ていただいたのです」
「…………じゃあ、またみんなと暮らせる?」
少女の問いかけに、今まで優しい色をしていた瞳を伏せて、男は首を振った。
「申し訳ありません。それは私にもわかりません」
「…………そう」
「ときに正直さは残酷だぞ」
無表情にもわかる少女の落胆ぶりに、青年の方が溜息をついた。しかし、男は誠実な声色で告げる。
「あなた方に嘘はつきたくないのです。それにもう一つ。私が伝えたいことがあります」
男の真剣さに含まれる真意がわからず、青年は頭を揺らした。同時に少女も男を見ていた。
「…なんだ。あのあとだ。大抵のことでは驚かんぞ」
皮肉を込めた言いぐさだったが、青年は男の顔を見て、それ以上は言葉を続けなかった。大人しく待つ。
「驚かすつもりはありません。ただ私は…」
────と、真意を語った。
「どうでしょう?これが私があなた方にお伝えしたかったことです。これが私の全てです」
呆れた顔の青年よりも、一つ早く少女が口を開きかけた。
「…………私は…」
「おいっ、娘。そう簡単になびくなよ」
慌てたように声をあらげた青年に、少女は黙りこんだ。
その少女の顔が悲しそうに見えたのか、青年は気まずそうに男に視線を向けた。
「疑うのですか?」
「疑う…わけじゃない。あれを見せられて、信じんわけにはいかないからな。むしろ逆だ。お前の話を信じる。だからこそ報酬を聞かせろ、というだけだ。お前への俺たちからの報酬は…〃協力〃と言ったところか。娘、お前も何かしら言っておけ。ただで動くには…」
男の問いかけに、青年は少しだけ考えてから応えた。そのまま少女にも同じ意思を促し、最後は言葉を詰まらせた。
少女はまた首を傾げた。
「…………私?報酬?」
「欲しいものだ。なんだっていい。こいつに言うんだ」
「…………欲しいもの…私の…欲しいもの」
少女は繰り返す。そして小さく呟いた。
青年は驚き、次に苦虫を噛んだように頭を抱えた。男の方は優しく頷いた。
「では、では、あなたは?」
「俺か?そうだな。軍人上がりのはみ出しものが欲しがるものか…」
青年は上を見上げてみた。
空の真下のこの場所で、自分はいったい何をしているんだ、と考えながら、欲しいものを探した。
そして。
「そうですか。これで私たちは同盟者ですね」
三人は、同じ道を歩き始めた。
これが、二十年前の最初の会議だった。
議題。
①。真意を伝え、了解を得る。
②。互いに同位であることを認め、互いに有益となる報酬を取り決める。




