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ココノツバナシ  作者: 高岡やなせ
夏のある日の序破急 編
27/83

夢みる少年の一人言

 少年は十五を過ぎ、初めて己が身をおく一族の、年に二度の行事ならわしに参加することとなった。


 華々しくとはいかないまでも、最低の結果にはなるまいと踏んで、挑む。


 その行事の会場に足を運ぶと、見慣れた顔ぶれで満ちていた。


 都地みやじ。空間魔術と呼ばれる術を操り、最強に近しいと謳われる一族。強さを誉れ「この地にあり」、弱さを嘲り「どの地にもならぬ」と呼ばれる一族。


 都鳴みやなり。属性魔術を得意とし、勇猛果敢を体現する一族。強さを誉れ「鳴り響く」、弱さを嘲り「鳴らぬ」と呼ばれる一族。


 呼都こみや。召喚魔術を研究することを生き甲斐とし、魔術師でありながら特異な面をみせる一族。強さを誉れ「呼ばれる者」、弱さを嘲り「呼ばれぬ者」と呼ばれる一族。


 そして束都つかみや。精霊魔術を専門に腕を磨き、魔力生命体との共存共栄つながりを尊ぶ自分の一族。強さを誉れ「王束ね」、弱さを嘲り「藁束ね」と呼ばれる一族。


 最後に鷲都わしみや。付加魔法を駆使する、現在最弱(ごい)と称される一族。強さを誉れ「羽ばたく荒鷲」と呼ばれたのは昔の話。今は弱さを嘲り「落ちた鷲」と呼ばれる一族。


 鷲都家がいる限り自分の不様な結末はない。少年はそう思っていた。


 その考えが崩れ始めたのは割と早い段階だった。


 行事の始まりが告げられた。総当たり戦の一戦目。少年が都鳴と試合をしている間に鷲都は都地と試合をしていた。結果は少年の想像通り、鷲都の負けだった。


 少年は安堵した。予定通りだ、と。


 だが、しかし。今までと違う雰囲気が会場には流れていた。この数年、鷲都が負ける度におこっていた暴力にも似た嘲笑がなかったのだ。


 不安にかられた少年はたずねた。何があったのか、と。


 たずね聞かれた人物は束都の側の人間だったが、興奮したように教えてくれた。


「落ちた鷲が……羽ばたいたのです。強く、天の頂を目指すあの姿は、まさに魔術師の世界において荒鷲と呼ばれるに相応しい姿でした」

 

 その言葉だけでは全てを理解するには足りなかった。が、すぐに身をもって体験することとなる。

 

 鷲都の当主が代行者をたて、その者の実力が、この会場の誰もが想像を越えるものだったからだ。


 その実力とは、負けてなお折れる事のない闘志を瞳に宿していることだった。


 もともと魔術の「強さ」ではなく、魔術師としての「強さ」を示すこの行事において、その姿は皆を興奮の渦に巻き込んだ。


 やるじゃないか。驚いた。見直した。あの誇りをもって果敢に挑む姿、あれこそが魔術師のあるべき姿だ。そんな声が少年にも聞こえた。


 少年は自分の試合をこなしながら、鷲都に気を配り始めていた。むしろ自分の負けが重なる度、鷲都の代行者に注目、警戒をし始めていた。


 鷲都。都地戦・敗北。都鳴戦・敗北。呼都戦・引き分け。


 少年。都地戦・敗北。都鳴戦・敗北。呼都戦・敗北。


 こんなはずじゃなかった。焦りを覚えた。いや、焦りを忘れることなんてとうてい出来なかった。


 少年には、後がなくなったのだから。


 震える心を体に出さぬよう、逃げたい気持ちを体が表さぬよう、ただひたすら集中した。


 こんなはずじゃなかった。自分に言い聞かせた。何度も繰り返した。


 そして、鷲都との試合。自分にとっても、鷲都あいてにとっても最後の試合。


 金と黒の二色の瞳に闘志を燃やす自分と同年代の少女に──。


 ──負けてしまった。



 それからのことは少年はあまり覚えていなかった。


 ぼんやりと、まるで夢を見ているかのような世界で少年は呟いた。


「あの試合。負けたのはオレのせいじゃねぇ!」

「そうだ、精霊だっ!もっと強い精霊がいれば勝てたんだ!」

「しかし、そんな強い精霊なんて…」

「そうか。そうだ。いなきゃ創れば(・・・ )いいんだ」


 少年は、つい先日。あることを耳にしていたことを思い出した。それはガータック・シュヴァルツアという人物が、魔力生命体に関する研究成果を、協定側に提出することを決めたということだ。


 しかしその前に、どうやら日本の旧知をたずねるらしい、ということも。


 少年は、研究成果を欲し、その在りかを探し出した。



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