語る人のない一人言
(*`Д´)ノ「『精霊』は悪魔の系統。『妖精』は妖怪の系統だ」
┐( ̄ヘ ̄)┌「それ以外は認めん…」
( ̄ー ̄)「…わけではないけれど」
( ̄ー ̄)「そんな作者の第二章。始まります」
m( _ _ )m
老人は波に揺られるデッキに立ち、海を見つめながら過去を思う。
自然と閉じられる瞼の奥で研ぎ澄まされた聴覚が船の脈打つような動力音と波の奏でる調べを捉えた。
同時に、もうすでに存在しない者達の声が聞こえてくるようだ。
「ふぁた、お仕事頑張ってね」
幼い声。
「今度の週末はこの子の誕生日よ」
耳慣れた声。
「ふぁたは今度はいつ帰ってくるの」
悲しみを伴う声。
「寝顔くらい見せてあげてもいいでしょう、でなければこの子はあなたの顔を知らずに大きくなるわ」
怒りを含んだ声。
「ふぁた、私ね、ふぁたが大好き」
愛に満ちた声。
「この子は最後まであなたのことを愛してると言っていたわ」
愛に、疲れてしまった声。
「あなたは悪くないわ。ただ、そう。運がわるかっただけ」
心が砕けそうになる前の声。そして。
「でも、ごめんなさい。私はもう、疲れてしまったの」
心を自分で砕いてしまった者の声。
老人は波に揺られるデッキで、また海を見つめるために瞼を開いた。
ある日、若き日の老人は三つの大切なものを失なった。
最愛の「娘」と親愛なる「妻」、最後に敬愛する「日常」である。
若き日の老人は「三つ」を取り戻すために、自らの意志でがむしゃらになった。
ヒントはあった。
娘が宝物と称して大切にしていた絵本だ。主人公が人々から感謝される物語が描かれていた。
その手段とは──。
魔法だ。
無駄だと止められ、無茶だと笑われ、無理だと馬鹿にされても、繰り返すように「魔法使い」を探した。「魔法」を求めた。
自身が失なったものと手に入れたもの。掛ける天秤さえ持たない今、さらに深く耳を澄ます。
「魔法に何か、ご興味でも」
天真爛漫に響く声。
「そう、ですか…そんなことが」
満身創痍を纏う声。
「本当の魔術は不可能なことばかりですよ」
魔法を「魔術」と呼ぶ声。
「あなたはもう気づいてらっしゃるのでしょう?それでも求めるのなら、私でよければお教えしますよ」
新たな希望を呼び掛ける声。
「私は日本で付加と呼ばれる魔術を修行する身の上の者です。未熟者の若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」
新たな希望を指し示す声。
老人はあの時もまた、自らの意志で手を伸ばしたのだ。。
それからの年月。老人は老人となり、もう取り戻せないものがある現実を受け入れることが出来た。
それが出来たのは何時死んでもいいという日々に、かの人物がまた生きる意味をくれたからだ。
家族のように接し、話し、過ごした時間が老人の心をそう強くさせたのだ。
まるでかの人物が語る魔法の「真髄」のように。
そして。
老人に「魔法」と「希望」を与えてくれた人物が老人より先にこの世を去ったことを耳にした。
悲しみながらも今度は冷静だった。支えられた時間と支えなければという使命があったからだ。
静かに老人は自身のやるべきことを考えた。
友愛を込めるかの人物には家族、確か娘がいたと聞いた。そして今、その娘も「魔法」の修行をしているはずだった。
ならば、人里から離れた生活で報告が遅くなり、流れる年月で老いぼれた体で行動は遅くなってしまったが、やらなければならないことがひとつあった。
かの人物。付加の魔術の修行中の身の上である「彼女」と共に老人が作り上げた「魔術」の書物を渡すことだ。
つまり彼女の残した遺物を、その娘に渡すことこそが今の老人の使命なのだ。
「人が生きるというのも〃魔法〃というのも結局は同じ。簡単で、単純で、純粋なことということじゃな」
老人は声に出した。生き甲斐を噛みしめ、一人言は小さく、けれど強い意志を含む。
「ふぁた、楽しそう」
「あまり心配をかけさせないでくださいね」
最後に。
「その通りですよ、先生」
老人には確かにそう聞こえた。