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何で静が倒れてる?
いったい何してんだ?
目の前に広がるこの光景。隆弘には理解出来なかった!
『おい沙耶?……何した?』
『え!?』
あまりにも冷静な隆弘に思わず裏返った声を出す沙耶。そして、ストンと尻餅をつき、怯えきった表情で隆弘の顔をジッと見つめていた。
『静に…何した?』
さっきまで笑っていた男達まで目をそらす。逃げ出したくても逃げ出せない…体が恐怖に反応してしまったのだ。そして、次の瞬間…
『何してんだテメー等!』
地面に座り込んでいた沙耶の首をつかみ、男達を睨みつけた!
『おい!何したかわかってんだろうな。お前等全員成仏出来ねえぞ!』
拳を強く握り締め、鬼の形相へと変わった隆弘。そんな隆弘を前にして、誰一人沙耶を助けようなんて思う奴はいなかった。
小刻みに震える沙耶。目にいっぱいの涙を浮かべ……
殺される…
めちゃキレてる…
昔の隆弘だ…
怖い…
誰か…助けて…
苦しいよ…
昔は楽しかったなぁ…
よくバイク乗せてくれたよね…
何で何で?
勝手じゃん!
ずっと好きだったんだよ…
色々な思いが走馬灯の様に脳裏をよぎった。
目をつむり、頬をつたう涙が沙耶の本音を表す最後の表現となった……
ごめんね…
『…隆弘?』
弱く今にも消えてしまいそうな声。その声は静だった。
『もういいから……私は大丈夫だから……ね?』
『……静。』
『だから…手……離してあげて?』
地面にちょこんと座る静は、今にも壊れてしまいそうな人形の様だった。
『良いわけねぇだろが!』
『いいの!もぅ…いいから…』
『……静。』
手足に沢山のすり傷をつくり、涙でぐしゃぐしゃになった顔。どれだけめちゃくちゃにされたのかは隆弘には分かっていた。昔、同じ事をしていたから…
それだけに…
憎しみと悔しさでなかなか離す事が出来なかった。
『隆弘…帰ろ?』
『……。』
静はゆっくりと立ち上がり、フラフラと歩き始めた。
静の後ろ姿を見て思う。
ごめん……俺の身勝手な行動がこんな結果を招いたんだ!俺のせいだ…。ごめん…ごめん静。
『………もう二度と俺達の前に面だすなよ?静に何かあったら………必ず殺す!』
そう言って沙耶の首をゆっくりと離した。
『た…隆弘…』
腰が抜け、立ち上がる事すら出来ない沙耶。
『あ……沙耶?お前に返すわ!これ。』
ポケットから徐に取り出したのはバイクの鍵。ゆっくりとはずしたのはシルバーのクロスだった。そのクロスを沙耶に手渡し、何も言わず静を追う様に走り去った。
『………あ…あぁぁ…』
今もずっと思っていた人に最後の別れを告げられた沙耶。仲間の前でおもいきり泣き崩れた。そして…茂みの中へと……
中学の頃付き合っていた二人。些細な出来事から離れ離れになって再び再会。だが、再会した時にはもう……
俺には……静しかいない……
さよなら……沙耶…