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真冬の夜風を浴びながら夜の街中を走る。深夜ってのもありそんなに車は走っていなかった。
寒いかな…
乗り始めはそう思っていた。けど、隆弘の背中が暖かくて…
ずっとこうしていたい…
このまま、ずっと一緒にいれたらな…
そんな事を思いながら真っ直ぐの道を進んでいた。
『シー?』
『ん?』
『落ちんなよ!シッカリ捕まっとけ!ちょっと飛ばす!』
『……うん』
初めて乗った後ろ座席。車とは違ってもの凄く速く感じていた。ただ、街のイルミネーションが流れる様に映し出され、素直に綺麗と…。住み慣れた街の意外な一面に感動する瞬間だった。
『隆弘?』
『ん?』
『なんか綺麗だねぇ。』
『ふっ!』
『な、何で鼻で笑うの?』
『だ、だってよぉ……。』
『ん!?』
『……ごめん』
信号が赤になるとちょっとした会話を楽しむ。ヘルメットをぶつけてみたり、強く抱き締めてみたり。会話をしている時はとても楽しい…。でも、走りだすと…鍵に付いているアクセサリーに目がいってしまう…
隆弘の温もりを感じながら、どこか不安と隣り合わせ。こんなに近くにいるのに何でなんだろ…。
不安が不安を呼びドンドンドンドン不安が募っていった……
『曲がるから気い付けてなぁ!』
国道から右折し、周りはなんだか静かな工業地帯へと…
『ふぅ〜、着いた』
隆弘はため息を吐きながらヘルメットを脱いだ。髪の毛をぐしゃぐしゃにし、ニコッと微笑む…
『ほれ!シーもメット取れ!行くぞ?』
『…うん』
ゆっくりとバイクから降り、ヘルメットを脱いだ。そして周りを見渡す…。先を見れば街灯すらない暗闇の世界。こんな場所に連れてきて何を……
『隆弘?』
『……黙って付いて来い!』
そう言って静の手を握りしめた。そして、そのまま歩き始めた。
道路を渡り茂みをくぐる。街灯の光も当たらない所を携帯の光だけで歩く。
『隆弘…何処行くの?ちょ…怖い…』
『……大丈夫!』
隆弘はそう呟き、さらに奥へと突き進んでいく。
ちょっとぉ…
マジ怖いよぉ…
こんな所に来て…何が目的なの?
不安な叫びは隆弘には届くはずもなく、思わず目に涙を浮かべる静…
『おしっ!もう少しだ!』
口から白い息を吐きながら、必死に何かに向かって進んでる隆弘がいた。
隆弘……あれ?
茂みの先に見える光……月の光?それとも…
『シ…静?』
『はぃ!』
え?何いきなり…
いつもシーって…何か緊張しちゃうよぉ。
『静に見せたかったんだ。俺の一番好きな場所!』
そう言って地面に座り込んだ。
え?ちょっとぉ…そこどいてよ!
一人茂みから出れずに立ち往生していた静。
『ちょ…隆弘どいて!』
『いてっ!あぁ、ごめん。シーいたんだぁ!』
『あ〜ヒドくない?マジありえないから!』
後ろから軽くツッコミを入れ、静もやっとの思いで外へ…
わぁ!なにこれ…
静の前に現れたのは、クリスマス色に飾られた綺麗な街並みだった。必死に歩き、たどり着いた先にこんな景色が…高台から見下ろす街は正に宝石箱の様…。
『えぇ?………』
想わず言葉を無くす。手を口に当て、キラキラ光景色をただ見つめるばかり…
『なぁ?すっげぇ感動だろ?』
『うん!』
さっきまでの不安はどこぞえ。気付いたら不安の涙は感動の涙へと変わっていた。
『泣くなよな?』
『…だってぇ』
想わず隆弘の胸に飛び込む静。そっと静を両手で包み込み、優しく抱き締めた。
『この景色…クリスマス限定なんだよ?だから…静に見せたかったんだ。』
『…ありがと』
涙を拭いながらゆっくりと地面に座り、再び景色を見つめる。
『…あ!』
隆弘はわざとらしく何かに気付いたフリをし懐に手を伸ばした。そんな隆弘の行動を見つめる静は……ちょっと嬉しそうにも見えた。
『……ほれ!』
徐に取り出した小さな箱。静に手渡し優しく微笑んだ。
『なにこれぇ…開けても……いい?』
『あぁ……って、もう開け始めてるし!』
丁寧にリボンを外し、セロテープをはがした。そして、ゆっくりと箱のフタをひらくと…
『たいしたもんじゃないけど…』
『わぁ!可愛いこれ。』
中には2つの星が絡まったシルバーのアクセサリーが2つ入っていた。
『一個は俺のだぞ?シーとお揃なんよ!』
『嬉しい!』
隆弘……ありがとね…
『隆弘?』
『ん?』
隆弘が振り向くと同時に唇にキスをした。街の明かりがスポットライトの様に二人を照らし、より一層二人を輝かせた。
不安で不安でいてもたってもいられなかった…
結局、ただの思い過ごしだったんだなぁ…
信じていればきっと良いことあるんだなぁ…
ありがとね…隆弘…
大好きだよ……
ブォンボボボ……