2
いつ渡そうかな…
コートのポケットの中に忍ばせたプレゼント。静から先にプレゼントされ、少しタイミングを逃したまま園内を歩き回っていた。
閉店間近ってのもあり、客足は徐々に減り始めていた…
『何か…ちょっと腹減らね?』
『あ!空いたねぇ…って食べてないじゃん!』
お互いの驚いた表情を見つめ、そして思わず笑い出す。
我慢……忘れていたってのが正しいのだろう。あまりの楽しさに、空腹すら忘れてしまう。そんな時間はあっという間に過ぎていってしまうものだった。
『何か食いに行くかぁ。』
『うん!』
笑顔で頷く静…
そんな嬉しそうな静の顔を見て思わず微笑んでしまう。そしてそのまま遊園地を後にした。
静の手をグイグイ引っ張りながら駅とは違う方向へと歩き出す俺に戸惑いながらも付いてくる静…
『隆弘?駅あっちだよ?』
『……うん』
静は急に立ち止まり駅を指差した!
『あっち!』
静の表情は心なしか少しこわばっていた……気がした。
『え?……どうした?』
『……駅あっちだってぇ!』
『知ってるよ?どしたん?』
『………』
確かに…
先を見れば一目瞭然!このまま行くとネオン輝くホテル街!
俺がラブホにでも連れ込むと想ったのだろう!
『シー……お前バカチンだなぁ!』
『……だってぇ…』
顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
静とは付き合って一年以上たつものの、体の関係はまるでなかった。男と違って女はかなりの勇気がいると、周りの女友達やクラスメイトから聞いていた。だから……
『じ…じゃぁ何でこっちなん?』
口を尖らせて怒りだす静は……それでも可愛いと想ってしまう自分がいた。
『くくくっ…バイク!』
思わず笑ってしまった。あまりの純粋さと、少ししてやったという満足感が笑いを込み上げさせた。
『笑うなぁ!』
『あぁ、ごめん。でも、スカートじゃなくてよかったな!』
そう言って徐にポケットからバイクの鍵を取り出した。
『って言うか隆弘…バイク乗ってたんだねぇ…』
『んぁ?だって遊ぶの大抵駅前じゃん。使わねぇっしょ?』
『うん…まぁそうだけどぉ…』
何か煮え切らない静の言葉を聞き流し、自然にヘルメットを手渡した。
『…ありがと』
『ん!』
バイクに跨りヘルメットを被る。そして、キーボックスに鍵を入れようと……
チャリン!
鍵を落としてしまった。その鍵には家の鍵とバイクの鍵。そして、シルバークロスが付いていた。
慌てて拾う隆弘の行動は静からしてみれば面白くなかった。彼女でありながらバイクの事すら知らない。ヤケに自然なヘルメットの渡し方。そして……シルバークロスの存在……
『ちょっと走ろうぜ?』
『……うん』
そのクロスは……どうしたの?
白のビッグスクータの後ろ座席に跨る静の心境は複雑だった。自分で買ったかもしれない……。誰かから貰った?これを聞いてしまったら終わってしまう…。そんな気がして怖くなってしまう……
『さぁ、行こうか!落ちんなよ?』
『……うん。』
不安…
焦り…
色々な事が頭をよぎる…。楽しかったはずのクリスマスは……どこに行ってしまったの?
バイクに乗った静は、不安を感じながら目的地も分からぬまま走り始めた…