8
はぁ〜
コマキの喜んだ顔、可愛かったな…
湯気がたちこめる中、思いっきり足を延ばし温泉を満喫していた。
最初は温泉には入るつもりはなかった。澄んだ空気と大自然。そして、綺麗な部屋で見る夜景が俺のプレゼントだった……はずなのに…
露天風呂に入ったら、周り一面雪景色。俺達が旅館に入った後降り始めたらしい。かなりの勢いで積もり始めていた。
本当にお泊まり?
そんな事を思いながら湯船に浸かり、冬の匂いを感じながら時を過ごした。
俺は早々と上がり、叔父のいるロビーのカウンターへと足を運んだ。
叔父さん…いるかな…
カウンターに行くと叔父さんが立っていた。それも、俺の事を見つめて…
『叔父さん、今日はもう帰れないかな?』
『ん〜。タクシーもあるし…叔父さんが駅まで送ろうか?』
『……。』
俺のワガママで人に迷惑をかける事はしたくなかった。かといってタクシーに乗るお金も……。でも、いきなり泊まりって言うのも普通じゃ考えられなかった。こんな時、隆弘だったら…
大丈夫だよ!雰囲気でどうとでもなるって…
とか言うんだろうな…
『蒼太、男だろ?時には強引なくらいがいいんだぞ?』
『……。』
まぁ…なるようにしかならないか…
そろそろ出る頃だろうと、お風呂出入り口付近にある待合い場所に向かった。
『蒼太、遅いよぉ。』
椅子に座って待っていたコマキ。濡れた髪をアップにし、色白の頬がほんのり赤く染まり色っぽく見せた。
『……ごめん』
濡れ髪の浴衣って…
俺は思わず生唾を飲んだ。
『そだそだ!めちゃ雪降ってたねぇ!綺麗だったなぁ。』
殆ど雪が降らない地で育ったコマキには、白一色という景色が新鮮だった。それだけに感動も倍増した。
『よかったな……あ!』
俺は凄い発見をした。何で今まで気付かなかったのか…
『え!?なに?』
いきなり大声を出す蒼太に驚くコマキ。
『コマキ、バカだなぁ。何で気付かないかなぁ。』
俺はニヤつきながら呟く。そして…
『今日、ホワイトクリスマスじゃんか!』
『あ!ホントだぁ!』
目をまん丸に見開き、俺の事を見つめるコマキ。そして、優しくニコッと微笑んだ。
『蒼太?』
『ん?』
『旅行ってこんな感じが旅行って言うのかなぁ。』
口を尖らせながら話し始めたコマキ。旅行未経験のコマキには全てが初めてだった。子供の様に周りを見回し、子供の様に喜ぶコマキに、いつしか護ってあげたい人へと変わっていた。
そんな時…
『あ!』
驚いた声を出すコマキ。ヒョコヒョコと一人歩いていってしまった。
『どうした?』
見ていたのは旅館のお土産屋。俺も急いで後をついて行った。
『蒼太!マジナイグッズ!わぁ、いっぱいあるねぇ。』
『げっ!』
『げってなに?げって!』
『…い、いや』
思わず声に出てしまった。このパターンは…。でも、マジナイグッズが全国展開してるなんて…。コマキが楽しそうに見てる時って、決まって……
『蒼太、これ可愛いね。』
ほら来た…
こんな所で買わなくたって…。思っていても財布は徐々に軽くなり、レシートが増える一方……
あぁ…もう帰りたい。