旦那様は教えてくれたよ―2 でも頼りないの
タクシーはトンネルに入っていく。
トンネルは長かった。
スタート位置からゴール地点を確認できない程度には長かった。
「ところで、なんで慌てているの?」
私はオレンジライトで装飾された見慣れたトンネルの景色より、ゴーダ君が慌てている理由の方が気になった。
「お仕事の受付はゲーム内の17時までなんだ。だから慌ててるんだよ」
「へ~」
「働かざる者家賃しか払えず、だからね。やっぱり、ゲームの中でもお金は大切なのさ」
「へ~」
「ちなみに、ゲーム内1日に最大ゲーム時間の1時間働ける。ゲーム内の1日はリアル4時間だから、リアル4時間にリアル20分働けるんだ」
「お仕事に精を出せないシステムなのね」
「まぁ『出会い』が主目的だからだろうね」
ふ~ん。そういうものかもしれない。
丁度その時、タクシーはトンネルを抜けた。
時間にして2分ぐらいのトンネルだった。
「ちなみに、あのトンネルは、どこへでも繋がってるんだ。
ワープホールみたいなイメージ?
ゲーマー仲間がさ、もう海外旅行に行ったらしいんだけど、あのトンネルをタクシーで二分通ったらハワイだったんだって」
「それはちょっと驚いたわ。もう、なんか、ゲームって感じよね」
「そりゃ、ゲームだからね」
「ちなみに、このエリアはショッピングエリアなの。お店しかないんだ」
「ふ~ん。他にはどんなエリアがあるの?」
「え? え~っと、おいおい説明するよ。
ほら、もう病院に着いたしね」
ゴーダ君が言ったのと同時ぐらいのタイミングで、タクシーは止まった。
総合病院は、思ったよりも大きかった。
面積はテニスコート16倍ぐらい。
高さは6階。
ゴーダ君は運転手が差し出した機械に、スマホをかざし会計を済ませる。
10円だった。
安いタクシーだった。
「さぁ、行こう」
そう言われて、私は彼の後についていく。
病院に入ると、丸い机で作られた檻に閉じ込められ照るような女の人がいた。
彼女は実写だった。
ゴーダ君は彼女の方へ向かい、挨拶をする。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件ですか?」
「お仕事したいです。あ、彼女。スーナが」
「確認いたしますので、少々お待ち下さい」
受けつけのお姉さんは私を1秒ほど見つめ、
「ランク看護学生様ですね。
レベル1までのお注射とレベル1までの点滴を選べますが、どちらを選びますか?」
「え? さぁ?」
モリモリさんの時から思ったのだけれど、何の前知識もなく、答えられない質問が多いゲームよね。
私はネットゲームも、普通のゲームもしないから、それが普通なのかもしれないけれど、ちょっと不機嫌だわ
「注射の方が簡単らしいよ。注射にしなよ」
とゴーダ君がアドバイスしてくれたので、素直に従った。
「それじゃあ、注射で」
「かしこまりました」
そう言って、受付のお姉さんは一礼し、注射室は二階にあることを教えてくれた。
私はこうして、初めてのお仕事をすることになった。
注射室なんて、私の病院にはないし、初めて聞くよ!!
そう思うと、不安だった。
「注射が簡単と言っていたけれど、どんなお仕事か知ってるの?」
「ううん。ダーツバーで、あ、ゲーム内のダーツバーね。そこで、どっかの誰かが注射のが簡単だったって言ってた、気がするよ」
私の旦那様は頼りない。
私は不安を募らせるばかりだった。