よろしくお願いします!
早速、サークルのメンバーを紹介してくれるらしい。
学校を出て、タクシーで10分ほど走り、私たちは海にやってきた。
砂浜でもなく、岩場でもない。
コンクリートで作られた海との境目は、恐らく波止場なのだろう。
ちょっと遠くにクルーザーも見える。
陸地側には、倉庫が並んでいた。
「わぁ。海もあるんですね」
「見た目だけね~。触れないよ」
ロンロンさんは、突然、走りだした。
そのまま、海にジャンプキック!!
したのに、見えない何かに跳ね返されてしまった。
「ね? 壁があるのよ」
と、華麗に着地したロンロンさんは言うのだけど、
「さ、先に言ってくださいよ! ビックリしました!」
私はかなり焦っていた。
「あはは。知ってた。わざとわざと」
落ち武者好きだと言っていた彼女は、母性本能が強いタイプかと思ったけれど、ただのエスだ。
用心せねば、と思った。
「も~」
私は腕を組み、ささやかな講義。
「ま、それより、こっちこっち」
ロンロンさんは特に気にすること無く、歩き出した。
「この辺ね、あんまり人が来ないんだ。
釣りもできるけど、今は釣れないしね」
「え? どういうことですか?」
「あの見えない壁を通り抜ける釣竿はあるのよ。
でもね、魚はいないの。
雰囲気だけ楽しむ、みたいな」
「はぁ。楽しいんですかね」
「まぁまぁ楽しいもんだよ。
うちの場合は、お喋りがメインなんだけどね」
「そうなんですか~」
「あっちに大きな建物あるでしょ?
あそこに、海関係のお仕事はあるみたいだけどね。
この辺は、本当飾りみたいなの。
な~んにもない。
な~んもできない。
その割には広々としてる。
それでね、空いているから、うちらの溜まり場作ったんだよね」
ロンロンさんは、倉庫を1つ1つと通り過ぎていく。
そして、12番倉庫までやってきた。
「ここだよ。ここがうちらのサークルなの」
ロンロンさんが12番倉庫を指をさす。
見てみれば、そこに扉はなく、荷物もなく、中が丸見えだった。
3人のアバターがいる。
うしし。
全員男だわ。
1人は壁とキャッチボールをしていた。
他の2人は、えっと、なんか、戦ってた。
おりゃーとか、とりゃーとか、言いながら戦ってた。
「ちゅーもく!」
ロンロンさんは大きな声で注意を集める。
「新人さん連れてきたよ~!」
3人の視線がロンロンさんに集まってから、私に集まる。
「おいおい。またかよ。シークレットクラブなんだぜ?」
戦っていた男の1人。
坊主頭のアバターは、あまり私を歓迎していないみたいだった。
「良いじゃない。もうリアル以外にも加入者がいるんだから」
「1人良ければ、2人良しかよ? おい? そんなことしてると、3人目も出てくるじゃねーかよ」
「もう、しないわよ。……小さい奴」
「はぁ? なんか言った?」
「別に……」
坊主頭とロンロンさんが喧嘩を始めてしまったので、私はとてもと~っても気まずい。
オロオロしていると、キャッチボールの男と目が合った。
後ろから見た時は分からなかったけれど、彼はメガネをしていた。
「……」
そして、あまり私に興味がないらしく、キャッチボールを再開した。
そして、最後の1人。
戦っていた片割れ、金髪男は、目を細め、睨むようにして私を見てくる。
彼はスマートフォンを取り出し、何かを確認して、また私を睨みつける。
この人も私を歓迎してないのかと思った。
「ねぇ? ミキさんさ、29歳のミキさん?」
金髪君は、声の高い人だった。
私はこの声を知っている気がする。
「え? あ、はい」
「ウゲ、ババーだ」
と茶化してくる坊主。
あ、こいつはウザイ。
私はそう思わなくもないけれど、もっと気になるのは、金髪君が何故に私の年齢を知っているのかだった。
ロンロンさんも、疑問に思ったらしい。
「あれ~。2人は知り合い?」
「いや、知らない」
「私も、分からないです」
「でも、見たことあるんだよね~。名刺リストにもいるんだよ。
ねえ、ミキさんはエンドエルフって知らない?」
私は気がついた。
金髪君は、知ってる人だった。
言い訳するとね、アバターだから、区別がつきにくいのよ。本当よ?
「あ。あ~! 知ってますよ! エンドエルフさん!
チュートリアルで、お邪魔しました」
「お~、そっかそっか。僕も思い出したよ」
「その節は大変お世話になりました」
「いいよ。別に、大したことしたわけじゃないし」
「はっ! 流石貢ぐ君だぜ」
「エルフは優しいの! って言うか、ミキの知り合いがいたなんてね。運命だね~」
ついにロンロンさんは、私を呼び捨てにした。
嫌な感じはしないけれど、ちょっとだけ気になった。
まぁ、坊主の口の悪さに比べれば、可愛いもんだ。
それから、みなさんに自己紹介をしてもらえた。
「エンドエルフです。よろしくね」
「エルフは優しいから、困ったら私かエルフに頼ると良いよ!」
エンドエルフさんは微笑んでくれた。私もよろしくお願いします、と返事をする。
「……ブック」
「こっち見ろ~。……まぁ、いいや。彼はブック。リアルだと偏屈だけど、ゲームだと無口なの」
ブックさんはこちらを見ようともしなかった。
多分、嫌われてるというより、興味を持たれてないのだろう。
「キラーだ。殺し屋だ。あんまり調子のってると、……殺すぞ」
「はいはい。もちろんだけど、彼は1人も殺したことないから、安心して」
坊主頭は、殺し屋さんだった。
アサシンとの違いはなんだろうか、と思ったけれど聞くのは恥ずかしかった。
最後に私が自己紹介。
アピールタイムね。
「初めまして。ミキです。
料理と掃除と洗濯は、得意ではありませんが人並みににはできます。
趣味は映画鑑賞で、月に1度は映画館に足を運びます。
一緒に映画を見て感想を言い合いながら余韻に浸れる人、が理想ではありますが、新しい世界にも興味があります。
結構染まりやすい方なので、なんでもやってみたいです!
そうそう。
ゲーム内では、事情があって出来ないフリをしますが、英語が得意です。
英会話の先生をしているんですよ」
私から見た美紀は、こんな感じ。
それを聞いたみんなの反応は、こんな感じ。
「あ、ガチの人なの?」
と戸惑うロンロンさん。
「マジかよ。キモ」
と悪口を言うキラー。
「それが普通なんだよ」
とフォローしてくれるエンドエルフさん。
「……」
ボールを落として、凝視してくるブックさん。
あれ~?
私、変じゃないよね。
だって、これ、出会い系ゲームなのよね。
「私は本気です」
「あ、うん……。あのね、それは悪くないんだけどね、ゴメンね。
ここにいる人はみんな結婚してるの」
「僕はしてない」
「あ、そうだね。ゴメン、ブック」
「別に……」
あれ~?
出会い系ゲームなのに、みんな既婚者なの?
あれあれ?
「あと、うちらはみんなリアルの知り合いなのよね。
1人、ゲームで知り合った人がいるんだけど、彼女は女なの。
だから、多分、ここの人とは無理なんだ。
ゴメンね」
「い、いえ」
とっさに多くの言葉が出てこなかった。
ちょっと、私は動揺している。
「まぁ、応援ぐらいはできるよ」
「うん。そうだね。エルフは良いこと言うね」
「俺はしね~ぞ」
「あんたにゃ、期待してない!」
「……僕もしない」
「あんたにもしてない! まぁ、そういうわけだけど、友達として仲良くやろうね」
落ちつけ私。
出会いはここだけじゃない。
良し、落ちついたな私。
とびっきりの笑顔で答えるのだ。
「はい! よろしくお願いします!」
それから、みんなと名刺交換と友達登録をした。
この2つの違いを、私は良く分からない。
あとはいくつかの設定をした。
なんでも、その設定をしないと、誰かがログインするたびにメールが届くのだそうだ。
みんなの名刺はこんな感じだった。
名前ーエンドエルフ。
年齢ー52。
名前ーロンロン。
職業ー高校教師。
タバコー吸わない。
年齢ー44。
名前ーブック。
職業ー研究者。
年齢ー41。
ペットー欲しい。
名前ーキラー。
職業ー経営者。
年齢ー33。
年収ー2000~3000万。
タバコー吸わない。
お酒ー時々飲む。
ペットー欲しい。
趣味ーゲーム、マンガ、テニス、野球、映画、音楽。
名刺に載せる情報は設定できるみたいだった。
個人差があった。
今日も年寄り扱いされたけれど、私が一番の年下だった。
っていうか、キラーが一番理想の条件ね。
でも、こんなのが息子になるのは、微妙だな~。
でも、高スペックなのよね~。特に年収が、パパ4人分以上あるわ。
じゃなかった。
彼らは息子候補じゃないのだ。
お友達。
その後、みんなでお喋りをした。
このサークルは毎週金曜日の夜に集まるだけの集団なのだそうだ。
目的とか、目標とか、そういうのはないらしい。
更に、ゲーム内のシステムではなく、ただの個人的な集まりなのだそうだ。
「まだ、このゲームにはギルドシステムがないのよね」
とロンロンさんはぼやいていた。
ちなみに、21時になると、キラーが愚痴っていた。
それをエンドエルフさんがなだめていた。
「初回から遅刻かよ。舐めた新人だぜ」
「まぁ、色々あるよ。大人には」
もう1人いるメンバーは、女性で、サッチャンと言うらしい。
現実世界の知り合いだけで構成されたこのサークルの、初めての異人なのだそうだ。
私が2人目。
「エルフが連れて来たの。えっと、一昨日かな?」
「うん。一昨日だね」
「せっかく、身内だけの集まりだったのによ!」
「良いじゃん。友達は多いほうが楽しいじゃない!」
「はっ! これだから、女を仲間に入れたくなかったんだよな」
「何よ!」
ロンロンさんとキラーは直ぐ喧嘩するな~。
私はロンロンさんの味方よ。ガンバ!
でも喧嘩に参加はしないのだけどね。
ともあれ、サッチャンさんは忙しくてなかなかゲームをやれないと伝えてあったらしく、キラー以外は怒っていなかった。
彼女は私がログアウトする22時になっても、姿を現さなかった。
同じ新人の彼女には興味があったから、残念だ。
リビングにはパパも美紀もいた。
2人でバラエティ番組を見ていたが、入力切替でゲームの様子も覗いていたらしい。
「キャッチボールか! 凄すぎるな! このゲームは!!」
とパパは興奮していた。
「1週間で、やっと、結婚する気のない知り合いが4人。随分と順調ね」
と美紀は嫌味を言っていたが、特に興味はない様子でもあった。




