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ラブワールド  作者: ササデササ
代理恋愛
55/64

よろしくお願いします!

 早速、サークルのメンバーを紹介してくれるらしい。

 学校を出て、タクシーで10分ほど走り、私たちは海にやってきた。

 砂浜でもなく、岩場でもない。

 コンクリートで作られた海との境目は、恐らく波止場なのだろう。

 ちょっと遠くにクルーザーも見える。

 陸地側には、倉庫が並んでいた。

 

「わぁ。海もあるんですね」


「見た目だけね~。触れないよ」


 ロンロンさんは、突然、走りだした。

 そのまま、海にジャンプキック!!

 したのに、見えない何かに跳ね返されてしまった。

 

「ね? 壁があるのよ」

 

 と、華麗に着地したロンロンさんは言うのだけど、


「さ、先に言ってくださいよ! ビックリしました!」


 私はかなり焦っていた。


「あはは。知ってた。わざとわざと」


 落ち武者好きだと言っていた彼女は、母性本能が強いタイプかと思ったけれど、ただのエスだ。

 用心せねば、と思った。


「も~」


 私は腕を組み、ささやかな講義。


「ま、それより、こっちこっち」


 ロンロンさんは特に気にすること無く、歩き出した。


「この辺ね、あんまり人が来ないんだ。

 釣りもできるけど、今は釣れないしね」


「え? どういうことですか?」


「あの見えない壁を通り抜ける釣竿はあるのよ。

 でもね、魚はいないの。

 雰囲気だけ楽しむ、みたいな」


「はぁ。楽しいんですかね」


「まぁまぁ楽しいもんだよ。

 うちの場合は、お喋りがメインなんだけどね」


「そうなんですか~」


「あっちに大きな建物あるでしょ?

 あそこに、海関係のお仕事はあるみたいだけどね。

 この辺は、本当飾りみたいなの。

 な~んにもない。

 な~んもできない。

 その割には広々としてる。

 それでね、空いているから、うちらの溜まり場作ったんだよね」


 ロンロンさんは、倉庫を1つ1つと通り過ぎていく。

 そして、12番倉庫までやってきた。


「ここだよ。ここがうちらのサークルなの」


 ロンロンさんが12番倉庫を指をさす。

 見てみれば、そこに扉はなく、荷物もなく、中が丸見えだった。

 3人のアバターがいる。

 うしし。

 全員男だわ。

 1人は壁とキャッチボールをしていた。

 他の2人は、えっと、なんか、戦ってた。

 おりゃーとか、とりゃーとか、言いながら戦ってた。

 

「ちゅーもく!」


 ロンロンさんは大きな声で注意を集める。


「新人さん連れてきたよ~!」


 3人の視線がロンロンさんに集まってから、私に集まる。


「おいおい。またかよ。シークレットクラブなんだぜ?」


 戦っていた男の1人。

 坊主頭のアバターは、あまり私を歓迎していないみたいだった。


「良いじゃない。もうリアル以外にも加入者がいるんだから」


「1人良ければ、2人良しかよ? おい? そんなことしてると、3人目も出てくるじゃねーかよ」


「もう、しないわよ。……小さい奴」


「はぁ? なんか言った?」


「別に……」


 坊主頭とロンロンさんが喧嘩を始めてしまったので、私はとてもと~っても気まずい。

 オロオロしていると、キャッチボールの男と目が合った。

 後ろから見た時は分からなかったけれど、彼はメガネをしていた。


 「……」


 そして、あまり私に興味がないらしく、キャッチボールを再開した。


 そして、最後の1人。

 戦っていた片割れ、金髪男は、目を細め、睨むようにして私を見てくる。

 彼はスマートフォンを取り出し、何かを確認して、また私を睨みつける。

 この人も私を歓迎してないのかと思った。


「ねぇ? ミキさんさ、29歳のミキさん?」


 金髪君は、声の高い人だった。

 私はこの声を知っている気がする。


「え? あ、はい」


「ウゲ、ババーだ」


 と茶化してくる坊主。

 あ、こいつはウザイ。

 私はそう思わなくもないけれど、もっと気になるのは、金髪君が何故に私の年齢を知っているのかだった。

 ロンロンさんも、疑問に思ったらしい。


「あれ~。2人は知り合い?」


「いや、知らない」


「私も、分からないです」


「でも、見たことあるんだよね~。名刺リストにもいるんだよ。

 ねえ、ミキさんはエンドエルフって知らない?」


 私は気がついた。

 金髪君は、知ってる人だった。

 言い訳するとね、アバターだから、区別がつきにくいのよ。本当よ?


「あ。あ~! 知ってますよ! エンドエルフさん!

 チュートリアルで、お邪魔しました」 

 

「お~、そっかそっか。僕も思い出したよ」


「その節は大変お世話になりました」


「いいよ。別に、大したことしたわけじゃないし」


「はっ! 流石貢ぐ君だぜ」


「エルフは優しいの! って言うか、ミキの知り合いがいたなんてね。運命だね~」


 ついにロンロンさんは、私を呼び捨てにした。

 嫌な感じはしないけれど、ちょっとだけ気になった。

 まぁ、坊主の口の悪さに比べれば、可愛いもんだ。


 それから、みなさんに自己紹介をしてもらえた。


「エンドエルフです。よろしくね」


「エルフは優しいから、困ったら私かエルフに頼ると良いよ!」


 エンドエルフさんは微笑んでくれた。私もよろしくお願いします、と返事をする。 


「……ブック」


「こっち見ろ~。……まぁ、いいや。彼はブック。リアルだと偏屈だけど、ゲームだと無口なの」


 ブックさんはこちらを見ようともしなかった。

 多分、嫌われてるというより、興味を持たれてないのだろう。


「キラーだ。殺し屋だ。あんまり調子のってると、……殺すぞ」


「はいはい。もちろんだけど、彼は1人も殺したことないから、安心して」


 坊主頭は、殺し屋さんだった。

 アサシンとの違いはなんだろうか、と思ったけれど聞くのは恥ずかしかった。


 最後に私が自己紹介。

 アピールタイムね。 


「初めまして。ミキです。

 料理と掃除と洗濯は、得意ではありませんが人並みににはできます。

 趣味は映画鑑賞で、月に1度は映画館に足を運びます。

 一緒に映画を見て感想を言い合いながら余韻に浸れる人、が理想ではありますが、新しい世界にも興味があります。

 結構染まりやすい方なので、なんでもやってみたいです!

 そうそう。

 ゲーム内では、事情があって出来ないフリをしますが、英語が得意です。

 英会話の先生をしているんですよ」


 私から見た美紀は、こんな感じ。

 それを聞いたみんなの反応は、こんな感じ。


「あ、ガチの人なの?」

 と戸惑うロンロンさん。


「マジかよ。キモ」

 と悪口を言うキラー。 


「それが普通なんだよ」

 とフォローしてくれるエンドエルフさん。


「……」

 ボールを落として、凝視してくるブックさん。


 あれ~?

 私、変じゃないよね。

 だって、これ、出会い系ゲームなのよね。


「私は本気です」


「あ、うん……。あのね、それは悪くないんだけどね、ゴメンね。

 ここにいる人はみんな結婚してるの」


「僕はしてない」


「あ、そうだね。ゴメン、ブック」


「別に……」


 あれ~?

 出会い系ゲームなのに、みんな既婚者なの?

 あれあれ?


「あと、うちらはみんなリアルの知り合いなのよね。

 1人、ゲームで知り合った人がいるんだけど、彼女は女なの。

 だから、多分、ここの人とは無理なんだ。

 ゴメンね」


「い、いえ」


 とっさに多くの言葉が出てこなかった。

 ちょっと、私は動揺している。


「まぁ、応援ぐらいはできるよ」  


「うん。そうだね。エルフは良いこと言うね」


「俺はしね~ぞ」


「あんたにゃ、期待してない!」


「……僕もしない」


「あんたにもしてない! まぁ、そういうわけだけど、友達として仲良くやろうね」


 落ちつけ私。 

 出会いはここだけじゃない。

 良し、落ちついたな私。 

 とびっきりの笑顔で答えるのだ。


「はい! よろしくお願いします!」


 それから、みんなと名刺交換と友達登録をした。

 この2つの違いを、私は良く分からない。

 あとはいくつかの設定をした。

 なんでも、その設定をしないと、誰かがログインするたびにメールが届くのだそうだ。

 みんなの名刺はこんな感じだった。


 


 名前ーエンドエルフ。

 年齢ー52。



 名前ーロンロン。

 職業ー高校教師。

 タバコー吸わない。

 年齢ー44。 



 名前ーブック。

 職業ー研究者。

 年齢ー41。

 ペットー欲しい。

 


 名前ーキラー。

 職業ー経営者。

 年齢ー33。

 年収ー2000~3000万。

 タバコー吸わない。

 お酒ー時々飲む。

 ペットー欲しい。

 趣味ーゲーム、マンガ、テニス、野球、映画、音楽。

 


 名刺に載せる情報は設定できるみたいだった。

 個人差があった。

 今日も年寄り扱いされたけれど、私が一番の年下だった。

 っていうか、キラーが一番理想の条件ね。

 でも、こんなのが息子になるのは、微妙だな~。

 でも、高スペックなのよね~。特に年収が、パパ4人分以上あるわ。

 じゃなかった。

 彼らは息子候補じゃないのだ。

 お友達。

   

 その後、みんなでお喋りをした。

 このサークルは毎週金曜日の夜に集まるだけの集団なのだそうだ。

 目的とか、目標とか、そういうのはないらしい。

 更に、ゲーム内のシステムではなく、ただの個人的な集まりなのだそうだ。


「まだ、このゲームにはギルドシステムがないのよね」


 とロンロンさんはぼやいていた。

 

 ちなみに、21時になると、キラーが愚痴っていた。

 それをエンドエルフさんがなだめていた。


「初回から遅刻かよ。舐めた新人だぜ」


「まぁ、色々あるよ。大人には」


 もう1人いるメンバーは、女性で、サッチャンと言うらしい。

 現実世界の知り合いだけで構成されたこのサークルの、初めての異人なのだそうだ。

 私が2人目。 

 

「エルフが連れて来たの。えっと、一昨日かな?」


「うん。一昨日だね」


「せっかく、身内だけの集まりだったのによ!」


「良いじゃん。友達は多いほうが楽しいじゃない!」


「はっ! これだから、女を仲間に入れたくなかったんだよな」


「何よ!」


 ロンロンさんとキラーは直ぐ喧嘩するな~。

 私はロンロンさんの味方よ。ガンバ!

 でも喧嘩に参加はしないのだけどね。

 ともあれ、サッチャンさんは忙しくてなかなかゲームをやれないと伝えてあったらしく、キラー以外は怒っていなかった。

 彼女は私がログアウトする22時になっても、姿を現さなかった。

 同じ新人の彼女には興味があったから、残念だ。




 リビングにはパパも美紀もいた。

 2人でバラエティ番組を見ていたが、入力切替でゲームの様子も覗いていたらしい。


「キャッチボールか! 凄すぎるな! このゲームは!!」


 とパパは興奮していた。


「1週間で、やっと、結婚する気のない知り合いが4人。随分と順調ね」


 と美紀は嫌味を言っていたが、特に興味はない様子でもあった。

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