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ラブワールド  作者: ササデササ
代理恋愛
52/64

授業するわ!

 翌々日。

 私がゲームを開始すると、やっぱり自分の家の前にいた。

 だけれども、ハート君の姿は見当たらない。

 毎回、チュートリアルアプリを起動しなくてはいけないらしい。

 まぁ、可愛らしくともあんなイラつく生物に付きまとわれたら、私の心も折れるかもしれないし、それは助かる。

 けれども、私はまだこのゲームで一人立ちできる程の知識がなかった。

 嫌々ながら、ハート君を呼び出した。

  

「ヤッホー。美紀ちゃん。久しぶりだね。えっと、前回はどこまで説明したかな……」


 ハート君は腕を組み、考えてますのポーズ。


「そうそう。お仕事の説明だったね」


 あぁ、小芝居が、テンポの悪さが、イラつくわ。

 ちなみに、ハート君は記憶力が高くないらしく、この前の終了間際に受けたお仕事の説明をもう1度された。

 なにやら、レベルがどうのとか、単価がどうのとか、色々説明していたけれど、良く分からなかった。


「まぁ、聞いてるだけじゃ分からないよね。タクシーを呼ぼうか。仕事場へ行こうよ!」


 そう言われて、良く分からないまま私はタクシーに乗り込んだ。

 

 

 

 このゲームにおけるお仕事とは、現実世界のお仕事と大体同じらしい。

 仕事内容ではないのよ。

 職業が大体同じみたい。

 大体とはつまり、まぁ、大体なのだ。

 例えば、美紀のお仕事は英会話教室の先生である。

 だけど、私は見るからに子供が通う学校に連れて来られた。

 校舎があって、グラウンドがあって、体育館があって、プールがある。

 英会話教室ではないのは確かだった。

 

 ハート君の話によると、ゲーム内では小中高校の先生も保育園の先生も、そして塾講師や家庭教師の先生も、習いごとや通信教育の先生も、とにかくまとめて『先生』らしい。

 この世に存在する職業を事細かに分類したら、それはもういっぱいあるのだから、仕方ないのだろう。


 さて、今、私は職員室にて、二択を迫られていた。

『授業ゲーム』か『テストの採点ゲーム』である。

 なんとも、どちらも、ゲームってつけてはいけない雰囲気だ。

 というか、私は偽者先生なので、どちらも出来る自信がない。

 

「ねぇねぇ。まだなの~。どっちにするの~?」


 ハート君はウルサイ。

 でも、私は迷った。

 多分、15分は迷った。

 

「もう~、ペナルティはないんだから、勘で決めなよ~」

 

 ハート君はウルサイ。

 でも、良いこと言った。

 失敗しても大丈夫なら、気軽に適当に選ぶのよ!

 

「授業するわ!」


 ハート君と違い私の言葉を黙って待っていた教頭先生にしてはやたらと若い女性(実写)は、お辞儀をした。


「かしこまりました。3年2組へどうぞ」




 私の心配は杞憂に終わり、授業ゲームは授業じゃなかった。


 3年2組は普通だけど普通じゃない学生がいた。

 顔が男女1種類ずつ、つまりはみんな同じ顔の学生が沢山いた。

 その光景はゲームだとしても、ちょっとホラー。

 そして、教室にはまばらに異質な存在がいた。

 顔は同じだけれど、モヒカンの不良っぽい学生が4人。


 私が入場して、3秒ほどのち、


「きりーつ。きをつけー。ちゃくせきー」

 

 と懐かしい号令と、お辞儀をされる。

 ちょっと、大勢にお辞儀されるのは、ゾクゾクする。

 

 しかし、それ以降は何もない。

 一体授業とは何をするかと身構えていたけれど、特に何の指示もない。

 普通の学生たちは、黒板とノートを交互に見ながら、何か書いている。

 ちなみに、黒板には何も書かれていない。

 不良学生たちは腕組み

 

 すると、不良学生の1人が踊りだした。

 机に登って、器用だなぁ、ブレイクダンス。

 あれだ。授業崩壊だ。

 そう思って、眺めていると、別の不良も踊りだした。

 机に登って、渋いなぁ、阿波踊り。


 えっと、私も、教卓で踊るのかしら?


 踊ってみた。

 ちょっと、世代外れているけれど、バブルの象徴ボディコンお立ち台ダンスだ。

 パパと出会う前は、なんとなく、大人の女性=ボディコンお立ち台ダンスと認識していて、高校を卒業したら東京でOLをしながら、ボディコンお立ち台ダンスをするのだとばかり思っていた。

 だから、友達とふざけながらではあるけれど、練習していた。

 

 すると、別の不良が踊りだした。ロボットダンスだ。

 そして、普通の生徒たちは、動じずにひたすら板書している。

 最後の不良が、踊りだした。ロックンロールダンスだ。


 教室は、とてもとても異常事態だった。

 これで、良いのかしら?

 良いのよ。

 良いのよ。

 楽しいもの!

 レッツ ダンシング!!


 ちょっとハイになりながら、かつて憧れていたボディコンギャルに、私はなることができた!


「授業を妨害する不良を、チョークを投げて注意してください」

 

 せっかくの楽しいダンシングタイムを、どこからともなく聞こえてくるアナウンスが邪魔をした。

 

 ふ~。そうよね。

 不良と踊るのが、お仕事なわけないわよね。

 私は頭を小突き、下を出す。

 テヘ、ペロ。

 でも、チョークを生徒に投げるのだって、お仕事とは言えない気がする。

 むしろ、今時なら体罰として大問題よ。


 駄目ね。 

 ゲームなんだから、深く考えずに、チョークを投げれば良いのよ。

 うん。

 

 私はチョークを投げに投げに投げた。

 なかなか当たらなかった。

 時々不良に当たると、ダンスを止めるのだ。

 ちなみに、一般生徒に当たっても涼しい顔をして板書を続けている。

 

 殆どチョークは当たらず、授業は終了した。


 教室から出ると、ハート君が出迎えてくれた。


「それじゃ、教頭先生に報告しに行こうよ!」

 

 こうして、私は、150円の価値があるカードを手に入れた。

 私は、きっと、駄目な先生だったのだろう。

 驚きの低賃金だ。

 私は少し落ち込むのだけど、ハート君は元気なまま。


「お仕事お疲れさま! そうそう、ゲーム内の一日に一回だけ、仕事が出来るよ」


「あら、じゃあペナルティあるじゃないの。ウソツキ」


「そうだね。時間の説明をしようか!」


 ちょっと、通じない会話にも慣れてきた。

 イライラ度が少なくなってきた。

 あるいは、落ち込んでいるだけかも。


 それはともあれ、この後、時間や一日の長さについて、20分ぐらいかけて説明された。

 いや、長さはどうでも良い。

 ハート君はとてもふざけた事を言うではないか。


「これで、チュートリアルは終わりだよ。ラブワールドで素敵な出会いを見つけてね!」

 

「え? まだ何も分からないわ」


「はい。クリア特典! ひゃくえんだよ!」


 カードを受け取りつつ、私は取り乱しながらお願いする。


「ダメよ。全然ダメよ。もっと教えてよ!」


「それじゃ、バーイバイ!」


 ハート君は、私を無視して、窓から飛び出し、そのまま空へと飛び立ってしまった……。

 

 私は全然人と出会えない。

 3日目にして、1人だけ。

 声の高いおじさん、エンドエルフさんだけだ。


 ショックのあまり、そのままゲームを終了した。  

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