二人の結末2
「だから、その、俺さ、あの、えっと」
ゴーダ君は何も言えないまま、ずっと困っていた。
私はゴーダ君にそっと近づき、唇を重ねた。
もちろん、アバター同士のキスは何の感触もない。
そもそもキスは実装されていないのか、私の顔はゴーダ君の顔にのめりこんだ。
それでも……、ドキドキする。それは多分ゴーダ君もだ、と思いたい。
「ドキドキした?」
「うん」
「嫌だった?」
「特には……」
「じゃあさ、ゴーダ君は友達じゃなくて私を女としてみてくれてるんだよ。それも、好意的に」
「そ、そんな軽いものじゃなくて、愛って言うのは……、こうもっと特別で、俺には分からないけど……」
「そんなの私にだって分からないよ」
「え? 26歳なのに?」
「24です!!」
「あ、ゴメン」
「ゴメンですむかぁ!! 女性の年齢はタブー視される領域なのに、それを年上に間違えるなんて、もってのほかだぁ~!」
私は怒鳴りながらも、心中穏やかだった。
ゴーダ君は少なくとも、私を嫌ってはいないのだ。
チャラ男アバターの癖に、変に純情で、訳わかんないことに悩んでいただけだったのだ。
『押せ押せ、私』コールが何度も何度も頭に鳴り響く。
「ゴメン」
「いや、冗談だよ」
「そうじゃないんだ。やっぱり自分の中でまだ何かが引っかかる所があって、えっと、上手く言えないけど」
ドキドキする。嫌じゃない。
人はたったこの程度を愛と呼ぶのだろうか?
俺には納得できなかった。
テレビや映画では、もっと、こう、特別な感情を愛と呼んでいる気がするのだ。
愛って、なんなのさ?
そこから、俺は抜け出せないでいた。
「納得してなさそうだね」
「うん。ゴメン……」
「じゃあ、二人で探そうよ」
「それは、その……。っていうかスーナは嫌じゃないの? なんとなく良い娘だな程度にしか思ってなくて、全然俺は猛烈に燃え上がってないよ」
「良いんじゃない? 最初はそんなものでしょ?」
「そうなの?」
「さぁ? でも、少しずつ深め合っていくものだと思うよ」
「でも……」
歳下の旦那は、変に純情で、とにかく優柔不断だった。
「もう! 良い? 私があなたを燃え上がらせてあげるわ」
うっふん。とセクシーキャラをイメージしながら私は言った。
そして、指でゴーダ君の首から顎をなぞる。
駄目だ。
お姉さんキャラは、私に無理みたいだ。
「分かったよ……」
でも、ゴーダ君はしぶしぶながら、なにか納得してないような表情で、ついに折れてくれた。
「これから、ヨロシクね」
私は手を差し伸べる。
ハロウィンイベントで手に入れた、かぼちゃデザインの指輪を差し出す。
婚約指輪の代わりだ。
「うん。ヨロシク」
ゴーダ君はさっきまでの曇った表情を、パッと、快晴笑顔に変え私の手を握り締めた。
なんとゴーダ君もイベントのポイントを指輪と交換していたみたいだ。
私の指に指輪をはめてくれた。
「それ、高かったでしょ?」
一日10ポイントでも少し足りない、300ポイント必要だった。
「いんや、おれ廃人だから。スーナのほうこそ大変だったんじゃないの」
「ううん。全然だよ!」
私は指輪と交換するために、今週の休日はすべてをラブワールドに捧げた。
でも大変なんかじゃなかった。
こうして、私たちは、本当の仮想夫婦になった。
2人の薬指には、大きいかぼちゃが輝いていた。
私たちが本物の夫婦になるのは、まだ、少し先のお話。
だと良いなぁ。
一部完です




