逃げないのよ
明日で、別居期間が終わる。
今日は、そんなドキドキの休日を過ごしていた。
正直、答えを聞くのが怖くて逃げ出してしまいたかった。
すると、突然電話が来た。
アキコからだった。
「いよいよ明日だね。久しぶりに若旦那に会えるんでしょ?」
「若旦那って、多分、意味違ってくるよね」
「今、大事じゃないでしょ! 脱線しないのっ!」
「うん。そうだね。ちょっと、分からない。なんかドキドキして落ち着かなくて不安で、つまり気持ちはぐちゃぐちゃしてて、なんだか良く分からないの」
「そっか~。まぁ、大丈夫でしょ」
「そうなの?」
「さぁ~?」
「そっか……」
「まぁ、分からないけど、大丈夫だよ!」
「そうなの?」
「さぁ~?」
優しいのか優しくないのか、アキコは慰めながらはぐらかしていた。
私は今日一日暇なのだし、ふと思いつき、ゲーム内で会えないか提案しようとした。
「そういえば、アキコもラブワールドやってるんだよね。もう、終わっちゃうけど、今イベント中でしょ? お菓子とか余らしてない?」
「え? あ、えっと、うんっと、大丈夫! 固定で交換するメンバーいるから」
「そうなんだ。やっぱりゲーム内でも友達作るの上手なんだね」
「まぁね~」
「否定して欲しかったな。理由はないんだけれど。褒め言葉に肯定で返すアキコは嫌いじゃないけれど」
「じゃあ、いいじゃん!」
「そうね。そうかもしれないね」
結局、ゲーム内では会えなかった。
「やっぱりそわそわしちゃうの。落ちつかないの。久しぶりに会えないかな?」
「ん。良いよ~。15時ぐらいまでなら、時間あるよ」
「ありがと。良かった」
私たちは久しぶりに喫茶店でアキコと会うことになった。
久しぶりに会うアキコは、依然見た通りだった。
小顔で、ほほにもお肉が付いてない。
飾り気のない単純ポニーテールが若々しく見える。でも、ちょっと幼くも見える。
やっぱり幼く見えるの方がしっくりくるかな。
身長も小さも相まって、可愛らしい。
でも、注意してみれば、ちょっとヤバイ太ももと二の腕。タプタプ。
私は出来心、あるいは友達心からちょっと忠告してみた。
ビシっと私は頭を叩かれた。
「会っていきなり失礼な奴だな」
「だって~」
「あんたは痩せすぎなのよ。逆に」
「だって~」
「だってじゃないの。私は大丈夫。脱がなきゃ分からないタイプでしょ?」
「逆脱いだら凄いんです、だね」
私はもう一度叩かれた。
と、他愛のない話。
最近の仕事の様子(愚痴が大半)とか、患者さんと色恋沙汰はないの? という冗談にある分けないじゃんと返したり、本当に他愛の話をした。
「今日はありがとうね」
「全然! まぁ、もし駄目だったら、うちのアニキもいるよ。やっぱり、より戻したいみたいよ」
「それはないわ」
「あらら。だよね~。まぁ、本当大丈夫だと思うよ。ハニートラップにもひかからなかったし」
「え? なにそれ?」
「うふふ~ん。何でもない!」
こうして、アキコのなんかいやらしい含み笑いを見ながら、私は喫茶店を後にした。
ゴーダ君のことは殆ど話さなかった。
でも、心のざわめきは少しずつ消えていった。
訳は分からないけれど、なんとなく落ち着いてきた。




