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ラブワールド  作者: ササデササ
年下の旦那様
42/64

逃げてしまった

「ヤッホー。お待たせ~!」

 

 今日でミーナさんとお菓子交換を始めて3日目になるが、いつでも元気な人だった。


「待ってないッスよ」


 と俺は言うのだが、結構待った。

 スーナとのことについてしっかり考えようと思ったはずなのに、ミーナさんには仮夫がいるはずなのに、俺は浮かれていた。

 自覚はないが、俺はネガティブなのかもしれない。根が暗いのかもしれない。

 いやいや、待てよ。

 あるいは俺は根が明るいから同属を求めてるのかもしれない。

 昔から、明るい人に弱かった。

 思えば、元彼女たち3人とも『押し』が強かった。

 

「今日はなんと、ケーキなのだ! 凄いでしょ? レベルアップしたんだよ。私、レベル上げるの早くない?」


「Sランク連発ッスか? スーナもそうなんですよ」


「ううん。私は廃人かな。思ってたよりはまっちゃったみたい」


「あはは。俺も、そっちです。大体Bランク」


「じゃあ、私の勝ちだねっ! 大体Aランク、時々Bランクだよ」


「お、凄いじゃないッスか」


「いや、Bランクばっかって、ゴーダ君がゲーム下手なんじゃない?」


「ひ、否定はしないです」


 俺は濃厚なゲーマーだが、オフゲーではまったのは、じっくり構えるゲームばかりだ。

 シューティングとか、落ち物パズルとか、格闘ゲームとか、アクションゲームとか、なんとかクリアできるレベルの下手さだ。

 それでも、母親に言わせるならば、恵まれているのだそうだ。

 初期型家庭用ゲームには、イージーモードなんてなかった物も多かったのだそうな。


「それじゃ、どうする? 私は今日も暇だけど」


「俺も、暇ッス」


 実は嘘だ。

 昨日までは本当に暇だったが、今日は嘘だ。

 落しちゃいけない、必修科目が待っていた。

 でも、1日ぐらい休んでも大丈夫。

 俺は今日サボる事を決めた。

 さて、ミーナさんも割りと時間があるらしく、いつもお菓子を交換した後、1時間ぐらい遊べる。

 俺はここ数日、この1時間が楽しみでしかたなかった。

 今日は、カラオケで歌った。

 スーナさんは相変わらず歌が上手かった。

 

「ゴーダ君もなかなかだよっ」


 と少し上から目線なのも、なんだか、良い。

 あれ?

 俺もしかしてMなのかな、と不安になる。

 でも違う。

 毒気がないんだ。この人には。

 それも、キャラなのかもしれないけれど、あるいは俺の恋は盲目補正なのかもしれない。

 あれ?

 恋?

 今、俺、恋って思った?

 違うだろ。

 タイプなだけ。

 これは、恋じゃない。……よな?


「ゴーダ君は反社会的な歌がすきなんだね」


「いや、そういうわけじゃないんですけど……。この、グループの歌って、嫌われ者の応援歌にも聞こえるんですよね。だから、結構~不良だけじゃなくオタクにも人気あるんですよ」


「ふ~ん。ゴーダ君オタクだもんねっ!」


「まぁ、否定はしないですけど」


 2人きりのカラオケは、点数的に連戦連敗でミーナさんに一度も勝てなかったのだけが、それでも、とても楽しかった。

 そして……。

 今日はちょっと違った。

 1時間遊んだあとも、ミーナさんがログアウトしないのだ。


「今日は、ちょっと遅くても大丈夫なんだ」


「良かった。遊べるんですね」


 俺たちはそのままダーツバーに向かった。

 ダーツするためじゃない。

 何か、相談したい事があるらしい。

 カウンターに座ると、NPCがこちらをちらちらと見る。注文を待っているのだろう。

 未成年の俺は、残念ながら、ゲーム内でも酒を飲めない。だから、ミルクを頼んだ。ちょっとかっこ悪い。

 ミーナさんはソルティドックを頼んでいた。


「私、犬派だからね」


 との事だった。

 未成年の俺には理解できなかったが、多分成年の人にも理解できないタイプの人なのだろう。


「ところで、相談って、どうしたんですか?」


「私、おじいちゃん……。えっと、イチローと別れようかと思ってるの」


「え? 何でですか? 仲良さそうだったのに」


「私はね、別に別れたくないんだ。でもね、イチローが、別れたいって」


「ミーナさん魅力的なのに、何が気に入らないんですかね」


「本当? 本当にそう思う?」

 

 悲しいのか、頬の筋肉がピクピクと動く。アバターでそこまで再現するこのゲームにも驚いたが、俺はしっとりミーナさんに驚いていた。

 気付けば、ミーナさんはしっとりとした喋り方になっていた。いつものカラカラとした元気は無くなっていた。


「思いますよ!」


 俺ははっきりと答えた。

 ミーナさんは魅力的だ。

 いつも明るくて、周りを元気にしてくれて、そういう人は魅力的だ。


「じゃあ、別れたら、もらってくれる?」


 心臓が握りつぶされたかのように小さくなって、爆発したかのように大きくなった。激しい1ドッキリをした。


「離婚後の結婚は2ヶ月の制限掛かりますよ……」


 でも、俺は、やんわりと逃げた。


「そっか。そうだよね……」


 そのまま、俺たちは殆ど会話なく10分ほど過ごし、ログアウトした。




 それ以来、俺たちはお菓子の交換だけの毎日になってしまった。

 ミーナさんいわく、ゲームに少し飽きたのだと言っていた。

 でも、もしかしたら、俺が傷付けたのかもしれない。

 俺の勘違いなんかじゃなくて、ミーナさんは俺に気があったのかもしれない。

 それを受け止められなかった。

 反射的に逃げてしまった。


 何故だろう……。


 俺はその答えを、知っている気がした。

13年10月24日、初稿の時点で、小説情報を見ましたら、ここまでで66666文字でした。

めでたそうなぞろ目なのに、僕はキリスト教じゃないのに、なんだか不吉な気がしないでもないです。

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